第十一回 3
辰の刻をやや過ぎたころ、寧府の内院に銅鑼の音が響いた。
賈敬の寿辰を言祝ぐ賓客たちが、蟻の列のごとく集まってくる。
「やあ」
賈璉が手をあげて挨拶した。賈薔はゆっくりと拱手する。
「毎度のことながら、すごい人の数だね」
賈薔はぴくりとも頬を動かさない。
「そう固くなるなよ。祝いの席なんだからさ」
賈璉はぽんぽんと賈薔の肩を叩いた。賈璉はきょろきょろしながら、
「ただ、設えは確かに豪華だけど、何かが足りない気がするなぁ」
と言い、近くに侍っていた家人に、
「今日の宴には余興はあるのかい?」
と聞いた。家人は渋い顔で、
「うちの爺はもともと太爺さまが来られるつもりだと思っていたもんで、余興はやらないつもりだったんでさぁ。でも、太爺さまが来られないと分かってから、あっしらのような下の者に命じられて、小芝居の一座と打十番の囃子方を急いで探させ、ここの園内の舞台へ控えさせておるのです」
と言い、ところどころ歯の抜けた顔を賈璉と賈薔に近づけながら、
「ほんとのことを言えば、太爺さまが来られなかったんで、良かったと思うとります。打十番みてえな座組じゃあ、寧府の祖宗の寿辰には足りねえかもしんねえけど、あっしらみてえな下の者の慰みにはなるからね」
と下卑た顔を浮かべ、
「あんたらの酒のおこぼれにもあずかれますし」
と言い捨てて去って行った
賈璉は賈薔に向かって大げさに肩を落として見せる。賈薔は顔色一つ変えなかった。
巳の刻になるとゆうやく、邢夫人、王夫人、熙鳳、宝玉がやってき、着飾った賈珍と尤氏がそれを出迎える。
「あなたのお母さまも今日は来ておられるのね」
熙鳳が奥の老齢の女性に目を遣ると、
「何よりおめでたい日ですから」
そう言って尤氏は笑った。




