それぞれのその日
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「王子さま…………?」
戻ってきたイリーネは、誰かに抱きしめられていた。今わかるのはその人が王子ということと、聖女は王子を守る存在なのだということだけ。
「イリーネ、君を連れて逃げるから、もうやめてくれ」
「ダメですよ?私、聖女なので。王子さまを守るんです」
イリーネが張った結界は、多くの魔物の侵入を防いでいた。だが、魔石を埋め込んだ白い狼の魔獣だけは、結界をかいくぐり王都を蹂躙していった。
イリーネの力は強くなっていく。誰も彼女を理外れと思わない。しかし彼女は、色が違うだけで女神と同じ容姿をしている。間違いなく、誰よりも理から外れた存在。
そんな緊迫した空間に、一人の少女が緊張感のない様子でふらりと現れた。
「わお。私にそっくり。私たちの子孫?かな。シンジが見たらなんていうかな」
2人が振り返るとそこには黒い目と髪、イリーネと瓜二つの女神が立っていた。
彼女は今はただのミナトという名の少女。理から解き放たれ、今は普通の聖女くらいの力しかない。
「うーん。残念ながら力がすごい減っちゃった。でも。そおれっ!」
「あっ」
崩れかけていた結界は、再び張りなおされた。
「みんなが来るまでくらいは持つでしょ?さ、頑張ろう!」
その笑顔は、緊迫した場にはそぐわないかもしれない。でも、本来の彼女はそんな人なのだ。
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「バル」
珍しく少し怒ったように残務処理をしているバルトルトの元をエリーゼがおとずれたのは、ほぼ時を同じくしてだった。
「…………エリーゼさんも行くんですか?」
「ええ、行くわ。お嬢様を苦しめた里の出身者は、私が倒すのだから」
「じゃ、これ受け取ってください」
エリーゼは、一振りの無骨な短剣を受け取った。
「少し魔力流してもらえます?」
エリーゼが氷の魔力を注ぐと、短剣の刀身に赤い魔法陣が浮かぶ。すると剣から水の魔力が溢れた。
「勇者の意見を聞いて、最後の改良が解決したんです。氷の魔力を水の魔力に変換できるんですよ。これなら火属性の魔力を持つ魔獣と戦えますね?」
「…………っ」
「エリーゼ、さん?」
その時、エリーゼの様子がおかしいことに、流石のバルトルトも気がついた。
「里の掟、聞いたの?」
「え?何のことですか?」
「知らないでやったの。は、バルらしい」
「え?また僕、なにかやらかしました?!」
予想に反してバルトルトが見たのは、エリーゼの満面の笑顔。それは、いつか見た、バルトルトを恋に落としたものと同じだった。
「――――っ」
「いいわ。受け取ってあげる」
短剣を未婚の女性に贈るのは、求愛の証。そのことをバルトルトが知るのは、全てが終わってからのことだった。
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