メインサーバー
二人は諦めて部屋を出るとメインサーバー室に向かった。スライド扉は僅かに開いたまま壊れていた。菊池が力を込めて引くと、人が通れる幅を確保できた。
扉に注意しながら、菊池たちはコンピューター室に入った。中は真っ暗だったが、地を這うような唸り声が聞こえ、緑や赤のLEDが点滅を繰り返していた。部屋の電気をつけると中央にサーバーが並び、壁のラックにも沢山の機械が並んでいた。菊池は中央にあるモニターの前に向かった。キーボードを触ると、モニターが点灯した。英語が並び、プロンプトが点滅した。記載内容は理解できなかったが、
『Last Log In: Aug 20 13:16:44』
だけはわかった。研究室で拾ったメールには2035年8月14日と記載されていた。最後にサーバーにアクセスされたのは2035年8月20日なのだろう。サーバーは技師しか利用しない前提になっているため、MASAMIのようなユーザー・インターフェイスがない。彼は適当な英単語を入力してみたが何の反応も示さず、反応しても意味不明な文字列が吐き出されるだけであった。
「だめだ。何が何だか全然わからない」
菊池は後ろにいるレイヨに振り向いて話しかけたが、そこに彼女の姿は見えなかった。
「レイヨ?」
彼は隣の棚の列を覗いたが、そこにも彼女はいなかった。
「きゃー!」
突然レイヨの悲鳴が響き渡った。
「レイヨ!」
菊池は大急ぎでサーバー室を出ると彼女を探した。
「タカヨシ!」
さっきの室長室からだった。菊池が中に入ると、彼女は部屋の机の上に登り、床を睨んでいた。一緒にいたと思っていたが、彼女は先程の部屋に一人残っていたようだ。菊池はすぐに彼女が睨んでいる相手を知った。床に大きな黒い生物がモゾモゾと動いているのだ。
「ゴキブリ?」
それは巨大なゴキブリだった。体長は1メートルはある。羽根は短くて腹の半分ぐらいしかない。背中の羽根は小さく退化しているようだ。これなら飛ぶことは出来ず、机の上にいれば安全だろう。腹の節は黒と茶が縞模様になっており、頭頂部に鉛筆ほどの太さの触覚がピクピクと辺りを探るように動いていた。菊池は静かに部屋に入ると、サバイバルナイフを構え、彼女にこちらにジャンプするように手招きした。彼女は大きく頷くと、彼の所までジャンプしてきた。中々見事な跳躍だった。彼は彼女を受け止めると、二人は大急ぎで外に出て扉を閉めた。
「ふぅ。何だ、あのでかいゴキブリは?」
二人は安堵のため息をついたが、その時、足元にモゾモゾと動く黒い影が眼に入ってきた。
「まだいる!」
巨大ゴキブリは再び彼らの前に現れた。さっきのやつとは別の個体だ。菊池はサバイバルナイフに力を込めた。
ゴキブリは何を食べるだっけな?
彼がくだらないことを考えていると、隣からレイヨの悲鳴が上がった。




