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共生世界  作者: 舞平 旭
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メール

 彼らは床にタオルや毛布などを引いて寝ることにした。彼女は疲れたのだろう、横になるとすぐに眠ってしまった。透き通るような金髪が頬にかかり、カールした長い睫毛が上品に閉じられていた。

 菊池は彼女の寝顔を見て微笑みながら、書類に眼を通していった。ほとんどが、今の自分には意味のない内容だったが、形式張った書類を見ると郷愁に似た感じが湧いてきた。中に厚いファイルがあり、そこにはこの階の見取り図に電源、配管、ダクトの位置が書き込まれていた。設備図である。このような法律関連の書面は紙媒体が多い。そういう面では、彼の時代でも司法は最も電子化が遅れている業種の一つだった。この研究階は地下2階で、中心のウェットスリープ室の周囲に通路が走り、その周囲は更に部屋で囲まれていた。バイオハザードレベルの高い『BSL-4』設備を、『BSL-3』、『BSL-2』と、レベルの低い設備で蔽うことで、バイオハザードを防ごうとしたのだ。配管や電気設備図、ダクトなどの図面があったが、彼には細かい内容は理解できず、厚い設備図を閉じると傍に置いた。

 そして何気無く薄汚れた紙を手に取ると、彼の顔が緊張した。

「これは・・・」

 書類はe-mailのプリントアウトらしい。顔料インクが滲み、紙もかなり痛んでいた。メールは、渡辺誠一という人物から林雅彦という人物に宛てられたものだ。


 *****


 2035年8月14日23時37分

 from:渡辺誠一

 to:林雅彦

(hayashimasa@***.tiid.go.jp)

 検体検査


 この間送ってもらった検体の検査結果がさっき出た。添付書類で送るから、眼を通したら今すぐに対応した方がいい。この報告はまだ知られていないが、時間の問題だ。本当は漏らしては問題だが、君が心配だから送っておく。くれぐれも直に対処するんだぞ。


 *******************************************

 東都大学医学部遺伝子感染症研究室

 渡辺 誠一

 mailto:seiichi.watanabe@***.touto-univ.ac.jp

 TEL 03-3xxx-xxxx、03-3xxx-xxx 

 FAX 03-3xxx-xxxx

 *******************************************



 添付書類が無いので詳しいことは分からないが、何か重大な事件があったようだ。問題は年と時間だ。今まで見つけたものよりも3年も新しい。菊池がウェット・スリープに入って4年後だ。

 そして時間も検討に値する。研究者は遅くまで働く事は往々にしてあるが、さすがに23時は遅い。だが渡辺は検査結果が出た直後に送ったようだ。どんな検査をしていたかは分からないが、コンピューターとオートサンプラーなどの発達により、多くの検査はフルオートである。そして8月は学会シーズンではない。それほど遅くまで残って仕事をする時期ではないはずだ。何かとても重要なことがあったのだ。

 明日はその鍵を握っているサーバー室に行くことにした。サーバーを扱えるとは思わなかったが、とにかく向かってみよう。

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