番外編STORY 茅山 沙織
耳が千切れるかと思うほどの砲撃音と、それに続く爆発と爆風。
少女の何倍もの大きさがある灰色の冷たい色の塊。
この乗り物は誰もが見たことがある。
敵の戦車だ。
瓦礫の陰に落ちてしまったことが功を奏したのか、爆風に飛ばされることもなく、飛んで来た瓦礫に当たることもなかった。
声が聞こえる。
「沙織ぃ!!! ーーー!」
「お兄ちゃん! 助けて……!」
続いて第二撃。
「きゃっ……!」
今度は少女の近くに着弾。
落ちていたガラスの大きな破片が弾け、少女の右腕を抉る。
少女の視界には、その場に落ちた自分の右腕が映る。
痛みと出血により徐々にその意識は遠のいてゆく。
「おい、この子まだ意識があるぞ。どうする? 殺しておくか?」
「待て、無用な殺生は意味がない。捕虜として早く治療を受けさせてやろう」
「そうか……あんたの娘、生きてたらこのくらいの年齢か……」
すでに瞼を持ち上げる力など、少女には残っていない。
◇◆◇◆◇◆
少女が目を覚ましたのは、一面真っ白の部屋の中。
マジックミラーによってあちら側が見えないガラスが、全く手の届かない場所に広がっている。
「ここは……」
見知らぬ壁、見知らぬ床、見知らぬ天井。
『目が覚めたようだな。怪我の具合はどうだね』
「……ッ!」
言われてようやく気づく。
右腕についているのは間違いなく自分の腕。
あの時見た千切れた腕は、あの時感じた痛みは、勘違いだったのだろうか。
いやそんな訳はない。
『あぁ……君の腕はうちの医療スタッフがすでに治してある……』
「あ、ありがとう……ございます」
少しだけ頭を下げる。
その後約一ヶ月の間、少女はその部屋から出ることは出来なかった。
一ヶ月後外に出られた少女を待っていたのは過酷な現実だった。
「今日から君にはある実験に協力してもらうよ」
「実験……?」
「何、痛いことをするわけではないから安心してくれたまえ。少しばかり頭が良くなるだけだから」
これが全ての始まり。
研究者たちはいいモルモットを探していたのだ。
しかし仲間を研究対象にするのは色々と問題がある。
だから敵である日本国民からその対象を探すのだ。
捕虜の中からまだ若くて、薬の投与にも耐えられる被験体を。
そう、少女は一ヶ月の間何もしていなかったわけではなく、すでに薬剤投与の実験を始められていたのだ。
「おい、そろそろAI機構の組み込みを始めたい。機械による人体の拒絶反応の方も適宜まとめて提出しろ」
「わかりました」
大人たちが何を話しているのか少女には理解できなかった。
AI? 拒絶反応?
自分が今何をされようとしているのか、自分が何をされたのかも分かっていない。
一体どのようにしてAIを生きた人間に搭載するのか。
その答えを出したのは同じ人間だった。
吉田正一。
第三次世界大戦の開戦よりも前にアメリカに留学した彼は、終戦後ロシアに渡り、ロシア連邦政府の放棄した研究施設をフルに活用した。
ロシア連邦政府のAI研究を引き継ぎ、完成させることができた。
神経系に直接チップを埋め込み、脳にAI本体を適合させて学習能力を大幅に向上させる。
脳への適合には年単位の時間がかかった。
そして少女が十二歳になる歳に、適合は終わった。
AIには戦闘も学習させ、戦闘機兵にAIを搭載して戦わせる実験も成功した。
日本国への大規模進行にも間に合わせることが出来た。
そして少女は"戦場"に出る。




