第16話 人工知能兵①
夏休みももう終わりが近づいて来た八月後半。
まだまだ暑さは衰えるところを知らず、太陽の下に出るとすぐに汗が滲んでくる。
海水浴の日から数日経ったが、あれから俺は京子はおろか誰一人として会っていない。
「暑いな……」
軍隊の休暇など、敵襲の一報でように終わりを迎える。
プライベート用とは別の携帯端末からアラーム音が激しく鳴り響き、続いて俺達K17隊の担当司令官榊原さんから命令が入る。
『茅山隊に出動要請が出ているわ! 迎えの者を送ったから、すぐに基地まで来て頂戴! これは第一級の司令よ、どんな命令よりも優先されるわ』
「……了解」
隣の家からドタバタと準備をする音がしたかと思うと、焦って扉を開ける音が聞こえた。
いつもならここで俺の家のインターフォンを鳴らすのだが、流石の京子もそこまで空気が読めないわけではないようだ。
ガチャ。
「お邪魔しま〜す」
「は?」
どうやら他に型破りのやつがいたようだ。
「桐島さん、どうやって入って来たんだ?」
「これだよ〜」
桐島さんの人差し指を、くるくると俺の家の鍵が回っている。
今家の鍵は確実に俺のポケットの中に入っているから、恐らくは合鍵だろう。
「その鍵はどうやって?」
「さっき私も迎えに来てもらったんだけど、運転手の人が榊原司令から合鍵をもらっていたんだって〜」
なるほど。
さすがは榊原さん、今までパイロットの様子を側で見守って来ただけあって、俺の様子がおかしいのも気づいていたのだろう。
俺だって分かっている、つもりだ。
戦争はまだ終わっていない。
すでに第四次世界大戦が開戦されるとすら言われている。
「すぐに行くから玄関の外で待ってろ」
「分かったよ〜」
天然はタチが悪い。
俺にはどうしようもない。
これ以上待たせると今度は全員で乗り込んで来そうなので、すぐに準備を済まして外に出る。
「待たせてすまないな。行こうか」
奈々美さん、広人、桃咲、桐島さん、水無さん、二ノ宮、それに京子。
皆同じように心配そうな顔をしている。
俺なら大丈夫だ、心配するなの一言が言えない。
しかし状況は時間とともに悪化して行くことも確かなので、俺が乗ってすぐに真っ黒な車二台はすぐに発車した。
◇◆◇◆◇◆
程なくして神奈川基地についた俺達は、すぐに出撃準備を整え始めた。
「一樹君、本当に大丈夫なの? 今ならまだ降りれるわよ」
「リーダーが出撃しない隊なんてあるか?」
奈々美さんがその意図でその言葉を言ったのではないことは、聞かなくとも分かるがあえて答えを誤魔化す。
オーディーンはオリジナル機のため、他の量産機とは整備の仕方が違う。
それゆえにみんなとは違う倉庫に、機兵が格納されている。
それを利用して奈々美さんから逃れる。
戦闘用のスーツに着替え、乗り込む。
起動コードを打ち込み、操作ハンドルを強く握る。
「頼むぞオーディーン……!」
スクリーンに光が入り、各種表示が出てくる。
燃料を示す棒グラフのようなパラメーター、同調率の安定度を示す円形のパラメーター、装甲の損耗率が目に見えて分かるオーディーンの形をしたパラメーター。
他にも通信がつながっている人を示す表示や、敵を感知するレーダーなど色々ある。
「ふ〜……」
一息ついて、もう一度ハンドルを握り直す。
「全員準備はいいな? 久しぶりの実践だが気は抜くな。全機出撃!」
『『了解!』』
整備用の足場が外され、出撃可能な状態になった戦闘機兵を動かし始める。
少し離れた格納庫からも飛行ユニットを装着した戦闘機兵が次々に飛び立っている。
今回も攻めてきたのはユーラシア大陸から。
日本海側の基地に常駐している戦闘機兵隊が対応しているが、圧倒的に数で負けているためか押され気味らしい。
太平洋側の基地からもかなり応援に行っているようだ。
「こちらK17小隊神奈川基地から応援に来ました」
『……こちら福岡基地司令塔、K17小隊援軍感謝します。すぐにF21小隊に繋ぎます』
スピーカーからノイズが聞こえたかと思うと、すぐにそのノイズが消える。
無線が接続中に灯る赤いランプは点いている。
『こちらF21小隊隊長の柊 真歩です。援軍感謝します。F27小隊の撤退を支援しつつ、前線を押し上げてください』
「了解」
無線を切り、レーダー探知を始めて敵の数を数え、同時に味方の現在地を知る。
「聞いていたな? 無茶苦茶な依頼だが、ここが突破されれば本土が落とされるのは時間の問題だ。何があっても食い止めるぞ」
トップスピードで海岸の方へ向かう。




