第14話 海水浴②
「くそー! 負けたか〜」
「退役したとは言っても流石ですね、片目で普通にビーチバレー出来るなんて」
「いやいや、これでもかなり無理してたんだぞ?」
普通の人なら片目を失くした状態で、激しい運動であるビーチバレーを行うなどほぼ不可能だ。
通常人は両目で立体感のある映像を見ているが、それが片目になってしまうと立体感を得ることは出来なくなってしまう。
距離感なども測りづらくなるというわけだ。
しかし、そんなことは気にならないとばかりに、龍也さんはみんなと同じように楽しんでいた。
どんな人物なのか、とても興味が湧く。
その後俺はビーチバレーを何試合かして、パラソルの下で休んでいた。
「疲れた〜」
「一樹くんだらしないわよ? いい砂浜トレーニングになったわね」
同じく休んでいた奈々美さんがうちわで仰ぎ、そよ風を送ってくれている。
「……膝、使っていいわよ」
「え……」
「何よその顔、嫌なら別にいいわよ」
「ごめんごめん、なんか意外だったから」
ありがたくお言葉に甘えて、奈々美さんの膝枕で休むことにした。
「奈々美さん顔赤くなってるよ」
「暑いからよ」
真上を向いて奈々美さんの顔を見ていると、うちわで顔を隠された。
海の方ではスイカ割りをしているようで、笑い声がしきりに聞こえてくる。
「そういえばずっと聞きたかったんだけど、校長ってもしかして……」
「それ今聞くかしら普通……まぁ、いいわ。一樹くんの想像通り第一高校の校長は一応私の姉よ」
なるほど。予想通りだった。
「そんなのか……けど一応って」
「本当に一応なのよ。前に私の苗字は借りているって言ったわよね? 正確には私は遠山家に養子に入ったの。それであの人はそこの家の一人娘さんってわけ」
苗字を借りているってそういう意味だったのか。
そういえば奈々美さんは俺と同じような状況なんだよな。
「それだけじゃあないんだよね? この前すれ違った時の校長のあの態度、何かあるんだよね?」
「……あまり察しが良さすぎるのも問題ね。えぇ、そうよ小さい頃から優秀だった姉は、劣等生である私を目の敵にしていたの、昔から」
奈々美さんのレベルですら劣等生と言われてしまうなんて、校長はどれほど優秀なのだろうか。
軍の関係者ともなれば、それなりに知識が必要なのは確かではあるのだが。
「やぁ、お二人さんいつからそんな関係になったんだ?」
パラソルを挟んで海の反対側、道路の方からクーラーボックスを抱えて来たのは涼平さん。
ニヤニヤと俺たちを眺めながら隣に座る。
一方慌てて膝から俺の頭を落とす奈々美さん。
「ちちち違いますよ! 決してそんな関係では……」
「かずくんまた奈々美ちゃんといちゃいちゃしてる〜!」
「京子!」
もう! と言わんばかりに口を膨らませている。
この状況で言い訳は無駄だな。
「……涼平さんそのクーラーボックスは?」
「ん? あぁ、差し入れだよ。ジュースとアイスが入っているから自由にどうぞ」
「あー! かずくん話ずらした! ……ってアイス! いただきまーす!」
もうテンションがおかしくなっているな。
昔から大して成長しないのは相変わらずだ。
「これ食べたらバーベキューの準備を始めようか。用具は借りてあるから、食材だけ買ってこようか」
「へぇ〜君達もバーベキューやるのか……せっかくだし良ければ一緒にどうだい? スーパーまで車も出すよ」
俺と京子、奈々美さんが顔を合わせてアイコンタクトを送る。
「僕達は構わないですよ」
「じゃあ決まりだ。買出し班を決めておこう」
「そっちはもう決まってますよ」
「ちょ、出て行けよー!」
広人を砂浜に埋め終わり、パラソルに戻ってきたみんなの方へ視線を向ける。
事前に買出し班はじゃんけんで決めてあった。
人数が人数なので、食材の量も増えるだろうと買出し班には広人、水無さん、桐島さん、二ノ宮の四人に行ってもらうことになった。
車を運転するのは白影さん。
スーパーまでは車で十五分程度なので、すぐに帰ってくるだろう。
「ずっと気になっていたことがあったんですが、涼平さん達三人って……」
「同期だな」
今の軍隊じゃあ同期が残っている方が珍しいのだが、まだ二十代前半の彼らですら三人しかいないものなのか。
「そうだ俺も気になってたことがあったんだが、君が今のオーディーンのパイロットなんだって?」
そう聞くのは龍也さん。
「そうです」
「あれは乗りこなすの大変だろ?」
口角を思い切り上げて楽しげに笑う龍也さんをよそに、俺は驚きを隠せない。
「龍也さんはオーディーンのパイロットだったんですか……?」
「ん? そうだよ。オーディーンの初代パイロットは俺さ」
思わず耳を疑いたくなった。




