第12話 エキシビジョンマッチ④
文字通り体と体がぶつかり合う。
目立つ刃が付いているものだけが、武器じゃあない。
その破壊的な質量に身を任せて振り抜かれたパンチも、立派な武器となり得る。
「まだ遅い……!」
戦闘機兵オリジナル機と散々闘ってきた上に、自分もその機体に乗っているのだ。
バーチャルの、それも量産機を想定して設定されている機体のスピードに、ついていけないはずがない。
だが、俺の攻撃を全て受けきっている加瀬の実力もまた確かなものだろう。
新潟基地での一件以来、これ程のギリギリでの戦闘は久しぶりだ。
『まだまだこれからですよ!』
加瀬の斬撃が、徐々にだがしかし確実に速くなっていく。
そのスピードはもはや量産機のそれではなかった。
「オーバードライブ……ッ!」
機体周りがぼんやりと赤く光り輝き出す。
その輝きは、加瀬の斬撃のスピードが上がるのと同じように、徐々に明るくハッキリしていく。
多少危険ではあるが、同調率を上げるしかない──
頭にあったのはそれだけ。
ただ強い敵と、圧倒的に高いレベルで闘いたい。
それは俺自信が求めているというよりかは、他の誰か、例えばそう……オーディーンが求めていくかのよう。
「一樹くん……それはダメ」
「よく分かったね。でももう止められない」
奈々美さんには分かっていたのかもしれない。いや、分かっていたのだろう。
けれど、考えるよりも先に体が動いてしまう。
俺は機体との同調率を上げ、意識をバーチャル空間へと持ってくる。
今でこそ慣れたものだが、以前はこんなに簡単に制御は出来なかった。
『先輩も本気、というわけですね。いいでしょうこうなれば力はほぼ互角、戦闘能力で戦いましょう』
「互角? ……あぁ、そうだなスペックの上でならな!」
先制を叩き込む。
初撃を飛躍して躱した加瀬がその勢いそのままに落ちてくる。そのタイミングに合わせて刀を突き上げる。
だが、加瀬は飛躍時に使う噴射機を使って体を回し、背中目掛けて刀を振るう。
『取った!』
「甘い!」
刀が届く直前で炸裂音。激しい爆風に両者逆方向へ飛ばされる。
『……っ! 咄嗟にグレネードでも使いましたか……被害は五分五分ですかね』
「どうってことないさ、十分に戦える」
左腕を持っていかれた。いや、左腕だけで済んだというべきか。超近距離で炸裂させたグレネードは、庇った左腕を消し飛ばした。しかし、それは加瀬も然り。
『さて、第二回戦とでも行きましょうか』
「あぁ、時間はまだある。楽しもうじゃないか」
今度は加瀬が仕掛ける。両者元々薄めの装甲だったにも関わらず、さっきの爆発をもろに受けているのだから、機体が既に悲鳴を上げている。
僅かに重く感じる機体を無理矢理動かし、一歩遅れて駆け出す。刀と刀がぶつかり、火花を上げる。駆け出した勢いが切れると見るや、刀を弾き後ろへ飛ぶ。しかし、体制を整えている余裕などない。すぐに体を寝かせる。
加瀬が横に大きく振った刀が機体の上スレスレを通り過ぎた。
「ふぅ、本当にいい動きしてるなぁ」
腰から投擲武器を一つ取って投げ、目を瞑る。かなり大きい破裂音と閃光。フラッシュグレネードだ。
目を開ける。視界に捉えたのは、真っ直ぐこちら目掛けて突っ込んでくる加瀬の機体。
「バレていたのか……!」
加瀬が振った刀は大ハズレ。
やはりフラッシュグレネードは効いていた。
『危ない危ない。勘で走ってみてよかったぜ、そろそろ視界も晴れてくる』
「もうそろそろ効果切れか……今飛び込むのは危険だな」
『来るか? それとも来ない? どっちだ』
「戦略的撤退だ」
俺は自分の得意な入り組んだ地形を生かすため、市街地の中へと入っていく。
『なるほど……悪くない』
「さて、どう出るかな?」
T字路の真ん中に立ち、加瀬が現れるのを待つ。聴こえるのは足音と、機体の鈍い金属音のみ。さらに音が反響してどこから来るかが読めない。
これがいい。このスリルだ。
条件は加瀬も同じ──
『こっちですよ……』
「なっ!」
自分の周りが暗くなったことに気づいた時には、時すでに遅し。真上から機体の重みが加わる。衝撃まで忠実に再現してくれるモジュールが、その衝撃の大きさを物語っていた。
「くそっ……!」
『ふはははは! 僕の勝ちだ! 残るは五人、まずは瀕死の全装甲から──』
加瀬の機体が歩みを止める。刀身のみが機体の全面から飛び出ている。
『小賢しい真似を……っ!』
「知らなかったのか? 今日の勝負は"チーム戦"だ!」
Enemy Kill!
「俺の、俺たちの得意な入り組んだ地形。ここに単身で乗り込んだのが運の尽きだったな。ナイスキル奈々美さん」
「えぇ、けど、彼かなり怒ってるんじゃないかしら? かなり一対一にこだわっていたみたいようだし」
確かに、加瀬の勝利への執着心はどこか狂気じみたものがあった。その理由を知りたいとも思ったが、今やることはそうじゃない。
「まずはこの試合を勝とう。俺のオーバードライブは電池切れだからな、足でまといになるかもしれない」
「そうね、カバーするわ……」
そこからは早かった。チームの主力を失ったSEVENTEARSは、統率力をも失い、俺や奈々美さんの出る幕はなく、残りは広人と桐島さんが片付けてしまった。
『初の試みだったエキシビションマッチ、勝ったのは軍チーム! 終わってみれば完全勝利の圧倒的な強さ! これが戦場を経験した者とそうでない者との差なのだろうか!?』
全く勝手なことを言ってくれる。あそこで加瀬を倒せていなかったら、全滅していたのは俺達の方だっただろう。それだけ今日の試合はギリギリだった。
俺達がモジュールから出るタイミングで、同じく加瀬達も出てくる。
「いい試合だった」
手を差し出す。
「次こそは、一対一ならば僕が勝ちます」
加瀬の手と俺の手が結ばれる。
会場内からは、歓声と拍手が巻き起こる。
そうして今年の校内戦は何事もなく、無事に終了した。




