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前編

グリム童話風のシリアス童話です。

重い内容を含みます。ご注意ください。

 これは、ある国にいた下級貴族のお話です。

 その国は鉄の国と呼ばれていました。鉄鉱石を多く輩出する山が多く、国の主要産業となっていたからです。


 貴族の子弟は様々な学院で学び、王宮や領主の屋敷で働くのがこの国の慣わしでした。体力に自信のある者は警備や製造を担う役職に、知識に自信がある者は研究や知識で国を繁栄させる役職に。

 時の国王はおおらかで民に慕われており、王宮内もいつも明るく活気がありました。だから、王宮は貴族の中でも憧れの勤め先だったのです。




 とある下級貴族の三男であるルイ・ロナウドも、王宮勤めに憧れる貴族のうちの1人でした。

 ルイは法律を専門にした学院に在学していました。彼は小さい頃から兄弟の中でも物覚えが早く、記憶力には少し自信があったのです。


 でも。ルイは学院の中では平凡な成績でした。学院に入ってみると、周囲が優秀で、驚くほど記憶力に長けた秀才が何人もいたのです。   

 すっかり意気消沈したルイは、このままでは王宮勤めは難しいかもしれない、と思いました。

 そんな中、彼は1つの噂を耳にしたのです。

 それは、学院在学中、銅の国に1年間の短期留学をすれば、王宮勤めに有利だという噂でした。調べると、実際に、銅の国への留学後、王宮に採用された卒業生方もいるようです。


 銅の国は銅鉱石を多く輩出する国で、鉄の国が関係性を重要視している大国の1つでした。でも、ルイには懸念点がありました。

 彼は下級貴族の三男でしたが、家は貧しく、とても留学費用を捻出できるとは思えなかったのです。ルイは悩みました。


 そんな中、幸いと言うべきか、同じ学院に銅の国からの留学生が来ていたのです。学院には数年毎に他国の留学生が来ることがありましたが、大国からの留学生はルイの学院より大きな上級貴族用の学院に行くことが多く、少し珍しくはあったのです。


 銅の国の国民は多くが褐色の肌をしており、鉄の国では多くが緑色の肌をしていたため、すぐに分かってしまうのでした。

 ルイは、これはもしかしたら天が自分に恵んでくださったチャンスなのかもしれない、と思いました。


 ルイは留学生が中庭でお茶会を開いたのを見計らい、声を掛けることにしました。お茶会中に少し声を掛けるぐらいでは、失礼には当たりません。

 中庭は常に開かれていましたし、お茶会の主催者やゲストに会うためにそこに飛び入り参加をすることは、相手に酷い粗相をしなければ普通に許されることだったのです。

 むしろ、留学生たちがお茶会を開くのには、他国の貴族や将来の外交官などと交流を深める意味もありましたから、参加する意欲がある者ほど好ましいとされていたのでした。


 念願叶い、お茶会で銅の国の留学生にさりげなく声を掛けることが出来たルイは、少し挨拶をした後、本題に入りました。


「私も留学には興味があるのですが、お恥ずかしながら、それほどの費用を捻出出来そうにもないのです。私も裕福な家庭に産まれたかったものです」


 すると、銅の国の留学生は少し目を瞬かせ、ふと目尻を下げてこう言いました。


「いいえ、私は上級貴族ではありますが、貴族の五男です。実のところ、そこまで裕福でもないのですよ。実際この国に来てからも、生活費のために時々街で働かせていただくことがあります」


 ルイは驚きましたが、なるほど。確かに生活費のためであれば働けば良いのです。貴族だって学院を卒業したら働くわけですし、下町では7歳の子だって働くことが普通だと聞いたことがあります。

 15歳にもなって働くこともせず、のうのうと学院に通って留学費用がないことを実家のせいにしていた自分は、なんと甘かったのでしょう。ルイは自身を恥じました。


「目から鱗のお言葉に、私の覚悟が足りなかっただけだと思い至りました。流石は銅の国の上級貴族の方です」


「いえいえ、こちらこそ、こちらの国で多くの学びをいただいております。また機会があれば是非、色々とお話しさせてください」


 お茶会を辞した彼は、やはり上級貴族はすごい、と思いました。大国だからなのか、それとも我が国の上級貴族もこのような方々なのか、ルイには分かりませんでした。そのような方ときちんと意見を交わすのは初めてのことだったからです。


 ルイはその日から、銅の国への留学方法を調べ始めました。また、久しぶりに両親に手紙を書きました。留学を希望していること、留学の学院編入費用だけでも出して欲しいこと、留学中の生活費は自分で工面するつもりだということも。

 彼はどうしても王宮で働きたかったのです。


 両親は少し渋りましたが、何度目かの手紙のやり取りの後、銅の国への編入費用が学院に通う1年間の金額とほぼ同額だと知ると、留学を許可しました。

 それに、本当に息子が王宮勤めとなれば、下級貴族としてはこの上なく誉なことです。

 上の兄弟たちの縁談にも、より良い影響があるかもしれません。


 そうして1年後、ルイは両親をようやく説得し、無事に編入試験に合格し、銅の国に留学しました。銅の国の編入試験は大国なだけあって、それなりに難易度が高い試験でもあったので、彼のやる気と実力は本物でした。

 お金を出して貰う約束を取り付けたのに、試験に不合格では笑い話にもなりませんから、ルイが寝る間も惜しんで必死に勉学に励んだ結果だった、とも言えるでしょう。



 銅の国に着いた時、ルイの所持金は1ヶ月分の生活費のみでした。彼は銅の国の学院に着くとすぐに入寮の手続きをし、その足で仕事を探しに行きました。

 でも、どの店でも何故か、ルイが働きたいと希望すると、嫌そうな顔をされたり、手で追い払われたりします。入店時には笑顔で対応してくれるため、鉄の国の民だからというわけではなさそうです。

 ルイは途方に暮れました。

 何店目かに断られ、一か八かで酒屋に入った時です。顔の厳つい酒屋の店主を呼んでもらい、

「こちらの店で働かせていただくことは出来ませんか?」

と言った途端、ルイは殴り飛ばされました。


「この国じゃ、鉄の国の人間は働けねえんだよ!鉄の国から来たくせに、そんなことも知らんのか!とっとと失せな!」


 ルイは愕然としました。銅の国に来た留学生は我が国で働いていると言っていたのに……。これからの1年間の生活費をどうすれば良いのでしょう。

 そう、実は、銅の国の人間は鉄の国でも働くことが出来るが、鉄の国の人間は銅の国では働けないという、理不尽な条約が締結されていたのでした。

 ルイは学院に入ってから法律について多少学んではいたのですが、学ぶ内容は鉄の国の法律についてのことが主でしたし、条約に関してはもっと学年が上がってから学ぶことになっていました。だから、そんな条約が締結されていることにまで、頭が回らなかったのです。

 一体誰が、そんな条約を締結したのでしょう。……それもまだ、ルイの知識には答えがありませんでした。


 そんな彼に、声を掛ける者がありました。褐色の肌に長い髪を肩まで伸ばした、顔の整った優男でした。男は言いました。


「酷い顔だ。我が家で手当てさせましょう。あなたの悩み事にも、少しはお手伝いさせていただけることがあるかもしれません」


 ルイは藁にもすがる思いで頷きました。このままでは、折角留学に出してくれた両親や学院にも申し訳が立ちません。それまでの自分は甘かったと認識を改め、覚悟を決めて、自ら留学を決意したのですから。それに、学友たちには羨まれながら旅立ちを見送られたのです。自力でなんとかしなければならない、とルイは思いました。


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