08
ニコイチからサンコイチになったヴィオラは、左右で火花を散らすふたりに溜め息を吐いた。
「ちょっと、喧嘩するならわたし、別のテーブルに行くわ」
「あー! ごめんね、ヴィオレティーナ! 君をほっぽりだしちゃって」
「リーデルシュタインがぐだぐだ言うから」
「それを言うなら君だろう」
またわちゃわちゃと言い争いをはじめたふたり。
食堂の一角で繰り広げられるものだから、ヴィオラたちを中心に、生徒たちは巻き込まれてはならないと周辺を避けて小さな円ができあがっていた。
再び時間を共にするようになったユリアはやはり以前と変わらずに見えるが、時折人が変わったかのように冷たい表情をするのに気づいている。
給仕妖精に食事を頼み、出来上がるのを待っているところだった。
「ユリア! ここにいたのか!」
「リーデルシュタイン君! 見つけたわ!」
避けていく生徒たちをかきわけて、左右から現れたのは月の寮の三年生。
男子寮の寮長と、気が強いと有名な女生徒だ。
「あら、ヴィオラちゃんもいたのね。そこのガングロ、連れてってもいいかしら」
疑問符ではなく決定事項だ。ガングロ呼ばわりされたスヴェンは唖然と「ガングロ……僕が、ガングロ?」とショックを受けている。
クスクスと笑って「どうぞ」と言えば腕を掴まれ引っ張っていかれた。
「これでふたりきりだね、ヴィオラ」
「馬鹿ッ! これから合同授業の事前打ち合わせだ。ユリアも行くぞ」
「えっそんな! ヴィオラぁー!」
屈強な先輩に細身のユリアが勝てるはずなく、ずるずると引き摺られていく。
「……ふぅ」
紅茶を啜り、息を吐く。
なんだかとっても静かになった。これでようやく落ち着いて食事ができるだろう。
「――落ち着いているところ申し訳ないが、食事を共にしてよいだろうか」
深紅の髪が目に入る。
痛いくらいの美貌。深紅の瞳に、深紅の髪。月の寮服を着こなした強い見た目のお美しい女性。
「寮長、わたしでよければ喜んでご一緒させてもらいますわ」
「ふむ、カラナもいるが良いか?」
「はい、どうぞ」
月の寮女子寮寮長。深紅の女王。アテナ・スカーレット。
才色兼備で座学も実技もピカイチ。女神と同じ名を冠する彼女は、名前に負けないくらい才能に満ち溢れている。古くから続くスカーレット家の次期女当主だ。
彼女の後ろにちんまりと隠れているのはカラナ・スカーレット。一学年の成績優秀者であり、アテナの実妹だ。
気の強いアテナに比べれば大人しく、静かな性格だが優秀な魔女になることは間違いない。
このふたりが来たということは、週末に迫った合同授業の話だろう。




