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勇者達と聖女さん

「はあ……折角手持ちが潤ったと思ったら……」


「ど、ドンマイなのじゃアンジュ殿」


 ある程度まとまったお金が入ってきたのでしばらくはゆっくり出来るかと思っていたら、案の定でした。


 宿屋のご主人が「弁償代さえ払うなら文句は言わん」という方で助かりましたが、また依頼を受けなくてはいけませんね。


 そんな私達、というか私とルピスさんですが、現在はギルドに向かっている最中です。一応ルピスさんを冒険者として登録しておこう、というのが主目的でしたが、結局依頼を探す必要もありそうです。


 ちなみに他のパーティーメンバーは、どうやら皆さん街へと遊びに出かけてしまったようです。まあ確かに、今日は休日にすると昨日伝えましたが……


「はあ……」


「溜息をつくと幸運が逃げると言うぞ。ほら、しゃんとするのじゃ」


 そうは言われましても、肩の重みが取れないです。宿屋を破壊した張本人のレリアさんも「すまねえ」と一言残してどこかへ行ってしまいましたし。


 まあルピスさんの言うとおり、溜息ばかりついていても仕方ないですね。


「よし、気持ちを切り替えて依頼でも探しますか! っと、その前にルピスさんの登録でしたね」


「うむ、その意気じゃ」


 



 ギルドに入ると、相も変わらずたむろしている冒険者達からの視線が集まります。この人たち仕事しなくて大丈夫なんでしょうか。


「おい、聖女様だぞ」


「なんか小さい子を連れてるな」


 昔は何かと絡まれたりしていましたが、最近はそういうことも減って……


 と思っていたら、何やら大柄な冒険者の方がこちらへと歩み寄ってきます。ここらでは見たことの無い方ですね。また(・・)でしょうか?


「おい、ねーちゃん達。ちょっとこっちきて俺達に酌でもしてくれよ」


「はあ……」


 気持ちを切り替えた矢先にこれです。溜息も出るってもんですよ。


「おい、あいつ死んだぞ」


「最近この街に来た奴か。よりによって聖女様に絡んじまうなんて、運がねーな」


 ギャラリーがざわつき始めましたね。あまり大きな騒ぎにはしたくないのですが。


「おい、聞いてんのか?」


「ああ、すいません。少し予定が立て込んでいるのでどいてもらっていいですか」


 若干いらつきつつも、大柄な彼を押しのけてカウンターへ向かおうとすると、唐突に腕をつかまれました。ああ、面倒極まりないです。ここで引いてくれればいいものを。


「まあいいじゃねーか。このAランク……ふげっ!」


 気安く女の肌に触れるなんて万死に値します。とりあえず掴まれた腕を取って放り投げてしまいます。


 仰向けに地面に倒れた冒険者の顔が、みるみるうちに赤く染まっていきます。


「この……クソ(あま)が……舐めやがって!」


「アンジュ殿、大丈夫なのか?」


「ええ、問題ありません」


 Aランクだか何だか知りませんが、この程度の身のこなしでしたら大したことはありません。


 激昂した冒険者が、背中にかけていた大剣に手をかけます。ギルド内で獲物を抜こうとするとは……マナーがなっていませんね。よくAランクまで上がれたものです。


「万魔を縛る氷獄の鎖よ」


 私の詠唱に反応し、地面から無数の黒い鎖が表れ、みるみる内に冒険者の身体を縛っていきます。必死に抵抗しているようですが、この魔法で作られた鎖は力技では解く事は出来ません。解除できるのは上級以上の光魔法くらいでしょう。


 あっというまに、ゴツイ冒険者の簀巻きの一丁上がりです。このままギルドの職員に引き渡してしまいましょう。


「ほら見ろ、聖女様に手を出すから……」


「さすがは『万天の支配者』だな。格が違うぜ」


 相変わらずギャラリーが煩いですね。


「なあアンジュ殿。今のは闇魔法ではないか?」


「ええ、ユーゴさん達が直ぐに暴走するので、それを止めるために便利なんですよ」


「いや、そういう事では無く……闇魔法は魔族にしか習得できない筈なのじゃが……」


「人間には習得しにくいだけですよ。頑張れば誰にでも使えますよ。たぶん」


「闇魔法を使う人間なぞ聞いた事もないが……」


 納得いかないような難しい表情のルピスさん。こういう表情も可愛らしいですね。


「まあそんな事はいいじゃないですか。面倒ごとも片付きましたし、さっさと登録を済ませてしまいましょう」


 無駄に時間を食ってしまったので、てきぱき行きましょう。





「何やらよそよそしい感じじゃったの」


「そうですね」


 ルピスさんの登録の際に、ルピスさんの高すぎる魔力やら何やらで受付嬢の方があたふたしたりしましたが、概ね問題なく事が片付きました。


 何やらいつもよりよそよそしい感じが気になりましたが、幸いにもルピスさんの素性がばれることはなかったので一安心です。


 本来であれば一番下のFランクから始まる所ですが、今回は私の紹介という事もあり、私達と同じSランクでの登録です。


「のうアンジュ殿。これなんかいいのではないか?」


 現在は二人で依頼書の貼り付けられたボードの前で、目先の金策中です。


 ルピスさんが手にしているのは、ダンジョン探索の依頼です。何々……『古びたダンジョンにアンデッドが大量発生中の為、掃討願う』ですか。


「これは駄目ですね」


「なぜじゃ? 報酬もかなり高いようじゃが」


「いえ、そこはいいのですが、古びたダンジョンというのが問題です。あの人たちが暴れてダンジョンが崩落するのが目に見えています」


「む、確かに」


 というか前科がありますからね、あの人達には。


「それじゃこれはどうじゃ? 『危険地域での採取依頼。Aランク以上の冒険者に限る』というのがあるぞ」


「あの人達に採取依頼は無理です。雑草と他の薬草等の区別もつきませんから」


「確かに」


 ああ、採取依頼に赴いて雑草の山を持って帰ってきた事を思い出します。


「うん、これにしましょうか」


 『廃都イルヴィスに魔物が大量に住み着いている模様。掃討求む』と書かれた依頼書を剥がし、カウンターへと持ち込みます。これならあの人達を好きに暴れさせておけば事が住むでしょう。


 幸い人も住んでおらず、建物も破壊して大丈夫なようなので、間違っても賠償騒ぎになる事はないと思います。


 手続きを済まし、明日から出発するとギルドに伝えます。


「そういえば、あの者達はどこへいったのかの?」


「さあ……どこかで遊んでいるのではないでしょうか。まあ厄介ごとさえ持ってこなければそれで……」


「アンジュ殿も損な役回りじゃのう……それに比べてあの者達は」


「まあ慣れていますから」


 慣れたくなかったですけどね。








 とりあえず明日からの予定も決まったので、軽く買出しをした後、ルピスさんと二人で宿まで帰ってきました。あの人たちはまだ帰ってきていないようですね。一体どこで何をしているのやら。


「あの者達はまだ帰ってきていないようじゃの。どこで油を売っているのやら……」


 ルピスさんも同じ事を考えたようですね。まあいいです、先に夜ご飯にしてしまいましょう。


 とまあ宿屋の一回にある食事処で、二人で食事にしようかと階段を下りていた時の事でした。


「うぉー危ねー間に合ったー!」


「ギリギリでしたね!」

 

 何やら大荷物のユーゴさん達が、どかどかと宿屋へと戻ってきました。四人ともフル装備で、どこへ行っていたのでしょうか?


「それじゃ行くぞ、せーの」


「「「「アンジュ、誕生日おめでとう!」」」」


 パン! とヴェインさんの指先から小さな魔法が飛び出して、炸裂音を響かせます。


「皆さん……覚えてたんですか?」


「あたり前だろ。仲間の誕生日なんて忘れるわけねーじゃん」


 歩きなれたこの街のギルドの場所すら覚えられない人のセリフとは思えませんが。


「いつもアンジュには世話になっていますからね」


 魔法の呪文が覚えられないから無詠唱を覚えた人のセリフとは思えませんね。


 とはいえ、嬉しいものです。仲間に誕生日を祝ってもらえるなんて。


「アンの為に皆でこれとって来たんだぜ!」


 レリアさんが背中に抱えていた大荷物を降ろします。大きな皮袋の中から現れたのは巨大な猪の魔物。


「これは……ハッピーボアじゃないですか!」


 ハッピーボア。ここから少し行った森に稀に現れる魔物で、その肉を食べた人に幸運が訪れるという伝承があると聞きます。私も見るのは初めてです。


「もしかして皆さん、これを取るために朝から……」


「おう! なんかギルドのねーちゃんに聞いたら誕生日にはこれだって言われてな!」


 通りで朝から姿が見えないし、ギルド嬢もよそよそしかった筈です。


 ハッピーボアはその希少性もさながら、かなり強力な魔物だったはずです。様々な魔法を使いこなして逃げようとするので、一流の冒険者でも取り逃がしてしまう事がほとんどだとか。


 よく見てみれば、ガンツさんとレリアさんの鎧には真新しい傷が目立ちます。よほどごり押しで討伐したのでしょう。


「よい仲間ではないか」


 いつもは迷惑をかけられてばかりですが、いい所もあるんですよね。


「よーし今日は宴だー!」


「いつもそうじゃないですか」


 騒ぎ始めた皆さんを横目に苦笑しつつも、聖女としているのも悪いもんじゃ無いかな、と思います。


 拝啓、お父さん、お母さん。アホばっかりのパーティですが、私は楽しくやっています。困らされる事も多いですが、いい仲間達だと思ってます。


「そういえば、このハッピーボアは解体してこなかったんですね」


「ん……解体? 何それ」


 あ、これは自分で解体しなきゃいけないパターンですか。 

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