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最弱召喚者は這い上がる(凍結中)  作者: 多田野箱
地の底編
9/35

邪黒馬ガマラス現る!!

 

 広成が呟いたガマラスと言う魔物は「ぶるぁぁああああ!!!!」とこちら近く地面に落ちていた小石がカタカタと揺れるほどの凄まじい咆哮を行う、先ほどのリザードマンと違い硬直はしなかったが声の大きさが桁違いにデカイ。

 さらにその咆哮と同時にガマラスの後ろから30を超える魔法陣が現れ、中から黒いのっぺらぼうか影が実体を持ったと言えるような不気味な何かが現れた。

 ガマラスは足にグッと力を込めるとクレーターを作りながらゴォッ!!!とまるで自分の頭上近くに飛行機が通ったような轟音を出しながら階段からは反対の方向に着地する。

 その様を口を食わえて見ていることとなった団長はその遅れを取り戻すようにもの凄い早口で指示を出す。


「ダリア、ハクナス、レブ、急いで壁を張れ!グデとタロンは生徒を率いてさっきガマラスの後ろから出てきた『ナイトメアシャドウ』を光魔法で威嚇しながら階段へ行け!呼ばれなかった他のやつは全員ここに残ってあいつを止めるぞ!もしあれが坊主が言ったとおりの伝説に出てきたガマラスなら、ここにいる全員でかかっても歯が立つ相手じゃない。お前らさっきも言ったように全力で走って階段まで行くんだ!!!」


「待ってください団長!もう団長達を置いて行けません。あの馬ってさっきのリザードマンよりも確実にやばいでしょう!?時間稼ぎなら俺にもやらせてください!」


「こんな時に我儘を言うんじゃない!それにお前は皆を導くんだろう!?だったらここであいつらを先導して希望を持たせてやれ!」


 凄みのある表情で説得する団長、怖い。この時点で生徒たちは二度目の恐怖に我慢できなくなったのか目の前の階段目指して順番などそっちのけで我先にと走っていた。完全にパニック状態だ。


「こういう時にこそ小司さんが必要なんっすよ!ほら早く!皆さん隊列乱さないでください!!」


 タロンも後ろの生徒の皆に大声で指示を出しながら説得に参戦し、逃げるよう促す。

 しかし距離があるこの状態で恐怖に目の前しか見えなていないため一言言っただけで直ぐにまとめに行った。


「っ…そ、それでも嫌です!!団長だって俺たちの仲間じゃないですか!!もう置いてなんて行けません!!!。」


 小司の周りの誰かが止めるまで自身の過ちに気付きにくいという悪い癖が今という最悪のタイミングで出てしまった。

 そして先ほど壁を張れと言われた3人は詠唱をはじめ、他の兵士はガマラスのような大きな魔物が出てきた際の対処法を訓練通り行っていた。しかしダメージを与えられている様子ではない、むしろ遊ばれていると言ったところだろう。

 生徒の動揺をタロンが必死に抑えようとしているが殆んど意味をなしていない。

 それから程なくして山吹色に輝く透明な壁が張られたが、その数瞬後に応戦していた兵士たちをなぎ倒しながらガマラスが突っ込んで来た。そしてあの一本角でぶつかると部屋全体に衝撃が走り、あの小司が訓練の際何度攻撃しても傷一つつかなかった障壁に弾痕のようなヒビが入った。もちろんサイズは桁違いのが。

 その後も何度も繰り返し突進を繰り返すガマラス、今ではもう砕け散りそうな程に全体がひび割れている。物理一色の団長や兵士でさえも加わり壁を維持しているがもう持ちそうにない。それに小司をまだ説得中だ。


「駄目だもう持たん、小司!!早く行け!!」


「嫌です!!ローグさんを置いてきぼりにするなんて出来ません!何度言わせるんですか!?」

 

「あぁ何度だって言ってやるよ、早く行きやがれこの我が儘クソ野郎!!!!」


 イライラとした、また焦りの感情が混ざった顔で命令する。


「わ、分かりましたよ!行けばいいんでしょう行けば!!」


 半ギレして言う小司だが、一応は説得に成功した。団長からも安堵の表情が見られる。


「死なないでください、約束です」


 走りながら最後の方を小司はぼそっと言ったつもりだったが団長は「そうなることを祈りたいがな」と呟く、この時点でもう死亡フラグだ。

その2~3秒後「団長!割れます!!下がってください!!」と、先程ハクナスと呼ばれた魔道士がそう叫んだ瞬間、ガッシャーンというガラスが割れるような音と共に山吹色の壁が砕け散った。

 衝撃波と暴風で砂埃や小石、そこそこの大きさの石が高速で吹き飛ばされて来たが当たる前に魔道士達が簡易の障壁を張り、威力を削ぐ。

 しかしそれでもかなりの速度でぶつかってくる。ガンガンと石が鉄製の鎧にぶつかり凹凸ができる。兵士の何割かはそこで意識を失い、数名は当たり所が悪く、絶命。

 そしてその煙が晴れた先に見えたのは黒いオーラを全身に纏わせ、蒸気が出るほどに熱い息を出しながら額に生えた一本角にバチバチと電を纏う無傷のガマラスがいた。


「化け物が…」


 団長はそう呟き慣れない防壁魔法を使い続けたための魔力枯渇で意識が途絶え倒れ込んだ。しかしガマラスがそのことを気にする様子なども無く、次の動作に移ろうとする。


 その時広成は考えていた。


 自分は雑魚だが自身がガマラスに立ち向かうことで少しでも注意が引ければ、そしてできるなら強くなった植物でガマラスを拘束すれば数分は無理でも数十秒程度なら時間を稼げるのではないか?

 それで自分が死んだとしてもみんなが助かるのに比べれば損害はそれほどだし逃げ足にも自信がある。こういう場面も実は何度か体験済みだった。そして…


「皆、俺、ちょっと行ってくるわ!おい小司、お前はしっかり皆まとめてくれよ!!俺は俺で上手くやるから無問題。そう!無問題だ!!!」


 そう言って広成は逃げる皆の方向とは逆に飛び出した。後ろからは「無茶っす!戻るっすよ!!」とか「無謀だ!」とかいうタロンや何人かの生徒の声、親友たちの「やめろ!!」というが聞こえるのを全て無視。

 ここでもし戻ってしまったらみんなは多分助からない、どうせ死ぬのならここでみんなを助けるために少しでも良いから力になって死んで、名誉の戦死にしてやる。そう自分に言い聞かせる。それにあれだけのことを言ってのこのこと戻ったら恥ずか死ぬ。もしかしたら得意のおちゃらけでどうにかなるかもしれないがそんなことは全てここを乗り越えられればの話だ。全員死ねば全てができない。

 そんなことを考えながらまず途中に倒れている団員を乗り越え、団長を手荒だが蹴って起こす。さすが団長というところか一度蹴りを入れただけで起き上がると広成は手短かに説明を完了した。「本当にやれるのか?」と団長は聞いてきたがここまで来た広成の答えは当然ながら”はい”だ。

 それに頷くとすぐさま自身の怒鳴り声で動ける兵士を起こしていき、後ろへと下がっていく。


 広成はこのようなやり取りをしている間、一向に攻めることのなかった御伽噺の本で見た「ガマラス」に立ち向かう。

 内心では滝のように汗が流れていたがそんなのは関係無しにこいつを死に物狂いで足止めしないと全員が確実に殺される程の、かつての勇者でさえも倒せなかったと言われる絶対に勝てない相手に立ち向かった。



 まずはそこらへんに落ちていた手頃な石を思いっきり振りかぶってずっとそこへと佇んでいるガマラスに投げつける。

 石は鈍い音を立て見事に命中したが、5メートルもあるその巨体には蟻が噛んだ程度に感じるかもしれない、しかし意識はこっちの方に向けられたようでギロっと視線を移してきた。

 そのままガマラスは大きく息を吸い込み「ぶるるるぅぅぁああああああ!!!!!!」という鼓膜が引き裂けそうな程デカい雄叫びと共にこちらにはもの凄い速さで突進して来た。

 咄嗟に身を横へ横転させて回避するがガマラスが通過した後には20センチはありそうな深さの溝が出来ていた。しかも溶けているのを見ると、爪には酸性の溶解液のようなモノが付いているのだろう。

 今の広成にはとてつもなく要らないおまけだ。


 その後もしばらくは落ちていた石を投げながら逃げ回っていた広成だったが、ただただ無計画に逃げ回っていたわけではない。

 きちんと自分の魔力をたっぷりと混ぜ込んだ植物の種をそこらじゅうに少しずつ蒔いておいたのだ、これは広成が普段からフル活用している厨二妄想武器の一つでいうなれば草結び装置といえる。

 今、岩だらけで草木が一本も生えていなかった洞窟の中に少しずつ緑を増やしながらぐんぐんと成長を続ける「ノビック草」はもうそろそろ10センチ程になってきた。

 ノビック草とは伸びるのが異様に早い草で一番近いもので例えるならばたけのこのような速さで伸び、大体一日で3メートルにはなる。

 踏んだりしても10秒もすれば元に戻るほどにしなやかで丈夫だ、最終的に高さは5メートルにはなりちょっとした森を形成するが、大体10日経つと枯れ始める。

 これは家畜の餌にする為、成長が早い代わりに寿命が短く早く枯れてしまうという致命的な欠点がある草だった。

 それを植物園の研究機関で開発された伸びる速度をさらに向上させた物を植物操作効果上昇の杖を使用することによって戦闘中に使えるようにし、うねうねと草を動かし足に絡みつかせる。

 模擬戦の時、単純に逃げ続け、倒せると油断してこちらの懐に入ろうとしてきた相手の体勢を崩して隙を突き勝ってきた。

 それにサイズは大きくとも一応は馬、広成の記憶が確かならば350度は見れるが側頭部に目が付いているため真ん中の足元は見れないはずだ。

 広成に向かって突進してきた瞬間に発動させればもしかしたら体勢を崩せるかもしれない、可能性がかなり低いが賭けてみる価値はある。

 だがこれはタイミングが命、失敗すれば確実に死ぬような危険な賭けでもあった。突進の恐怖に耐え、もしも成功させたとしてもすぐに避けなければ体当たりを喰らってしまう、今の広成だと当たれば確実に一撃死だろう。

 緊張と恐怖で自分の心臓の鼓動がドクンドクンと聞こえてくるがそんな余計なことを考えている暇はない、確実に成功させなければ…死ぬ。

 またガマラスが突っ込んでくるが臆さずにタイミングを待つ、本来ならこの時間は1秒にも満たなかっただろう、しかし集中した広成にはそれが10秒にも20秒にも感じられた。

 そして、限界まで引き付けたのを判断した広成は、身をかがめ自らの魔法を発動させるための詠唱をはじめる。


「我の手足のごとく動け、植物操作プラントコントロール!」


とんでもない程の早口でそう詠唱した瞬間、広成の周囲の草の内、50本程が一瞬で伸び、うねうねと動きながら結びつく。そしてそのノビック草結びに突進していたガマラスは咄嗟に対応できず見事に引っかかった。

 さすがに伝説の魔物だけあってかなりの速度で引っかかったのに転ぶまでは行かず、膝をくの字に折る程度に留まってしまった。

 が、すぐにその折れた足を大量のノビック草で固定する。だがガマラスはその拘束を抜け出るために馬特有のガッチリとした筋肉に力を入れると草からはミチミチと嫌な音が聞こえてきた。

 マナポーションで強化した10階層かそこらの魔物程度なら動かすのがやっとな拘束を、いともたやすく抜けようとしているガマラスへ広成は脱出させてなるものかとさらに草を増員し、ガマラスの拘束に力を入れる。

 そしてちらりと後ろを振り向くと小司たちは道にして言えばもう9割と行った所にいた。あと10mといったところだがあの黒い影のような魔物「ナイトメアシャドウ」の突破に時間がかかっているようだ。

 広成は散らしたそばからすぐ復活する影のためまさに悪夢が体現されたようなあんな名前がついているんだよなぁと少し余裕を出しながら拘束を続ける

 その対処法は光の聖剣などの聖なる何かで倒すのだが余程の聖剣か浄化魔法じゃないと倒せないという厄介者だ。攻撃力は中程だがほぼ不死身のためこちらが何度も攻撃してるうちにだんだん疲労が溜まってくる、故に見つけたら即刻逃げる。見つかったら光のボールで目くらましをして逃げる位しか手がない。

 この3週間で溜め込んだ知識はちゃんと身に付いているようだ。


 だが小司の聖剣で数は減っているもののひらりひらりとまるで布が宙を舞うように逃げながら攻撃してくるナイトメアシャドウに苦戦している。

 このペースだともう30秒あれば突破できるだろ、と広成は内心安堵した。

 しかし安心したのも束の間、広成は急に体が浮遊感に、と言うよりかは落ちている感覚に包まれたのを感じた。そして下を見るとそこには…

 底が見えない程に深い、直径3メートル程の穴が出来上がっていた。

 

「へっ?あっ、オオオオォォォォォォ!!!!!」


 広成はこんな間抜けな声と共に急速に落下し、その下の深い闇へと落ちていった。その直後広成が落ちた穴は開いた口を閉じるように素早く塞がった。


 拘束していた広成がいなくなった。という事はすなわち、ガマラスが、動き出す…

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