クソ女神は絶対○す
「貴方には異世界でもやっていけるほどの富と力を与えまーす! これでまったりハーレムスローライフを作っちゃってくださーい!」
「いやっっっほぉう!! 女神様ダイスキィ!」
2週間前、そんな会話をしたことが、全ての始まりだった。
時刻は、深夜零時。
ここはとある町の飲み屋横丁。
客は騒ぎ、飲み、食い、デカい声で語り合う。
日本でもよくある飲み屋横丁の光景だった。
違うところは、店並が少し古めかしい、江戸時代のような店ばかりなことだろうか。
そんな中、1人の男がある飲み屋に入った。
「いらっしゃいませー」
彼はフードを深く被り、顔は口しか見えない。
男は足早にカウンターへ行き、団子、そしてテイクアウトの張り紙を指差した。
「……えっと、お団子をご所望ですか?」
店員は困ったように確認する。
男は何も言わず、同じ団子を指差す。
「は、はい……数は……」
男は両手をパーに開く。
「え……10本でお間違いないですか? えっと、それでは全部合わせて1200円になりま……」
男は言われるより先に1200円をカウンターに置き、品物を奪い取って逃げるように去っていった。
男は走る。
周りの光景を、なるべく目にしないように。
「はぁ! はぁ! お、ぉえええええ!!」
ようやく1人になれるところについた瞬間、込み上げた気持ち悪さで胃の中の物を地面にぶちまける。
「も、もうやだ……もうやだこんな世界いいいいい!!! 俺を元の世界に帰してくださぁああああああい!!!」
ここは、妖怪たちの世界
『幽冥町』
その世界に1人だけ転移してしまった、哀れな人間の男の話。
太田 零29歳。
俺の個人情報紹介、終わり。
何で人間の俺が妖怪の世界で半べそをかきながら団子を食う羽目になっているか。
そこで、冒頭の会話に戻る。
「貴方には異世界でもやっていけるほどの富と力を与えまーす! これでまったりハーレムスローライフを作っちゃってくださーい!」
「いやっっっほぉう!! 女神様ダイスキィ!」
謎空間で女神を自称する悪魔女にそう言われて、目を覚ましたらこの世界だったのだ。
最初は年甲斐にもなく心躍ったものだ。
異世界とかいう厨二心全開なワード。
俺つえーとか、チートハーレムとか、そんなことができちゃったりしてーとか馬鹿なことを考えていたわけだ。
そんな甘い考えにホイホイのった自分をぶん殴ってやりたい。
現実はどうだ?
やって来た世界というのが、右を見ても左を見ても、人間なんて1人もいない。
いるのは恐ろしい姿形をした魑魅魍魎。
「……帰りたい……元の世界……おうち帰りたい……」
ここまでの俺の様子を見ればわかると思うが、俺は妖怪とかお化けの類が、大の苦手なのである。
ハーレムスローライフ?
ふざけんじゃねぇよ。
見てみろ。
別嬪さんっていっても目が一つなのよ。
首長いのよ。
そもそも人間じゃないのよ。
こんなバケモノの巣窟でどうやってスローライフを送れっつーんだよ。
この世界に来て2週間。
俺は外に極力出たくないので、村の外れにある空き家に隠れるように住んでいる。
幸い、あの腐れ女神からこっちの世界で使える金はたらふくもらった。
亜空間にしまうことができて財布要らず。
そのおかげで働く必要はないわけだが、飯を買いに行くたびに寿命が縮む思いで外に出ている。
異世界転移なんざ、何にも楽しくない。
「……○す」
あのクソ女神。
絶対ぶち○してやるからな。
俺の生きる希望はもはやそれしかない。
何年かかろうが、何十年かかろうが。
俺をこんな目に合わせたあの野郎を生かしておけん。
塩味のする団子を貪りながら、神殺しを誓った。
「○す○す。絶対○……」
「なぁに引きこもってるのよ。そんなんじゃハーレム作れないじゃない」
急に宙に謎空間が現れ、そこからひょこっと女神が顔を出した。
「死ねぇえええええ!!!!!」
「ぶへら!!」
その忌々しい顔が見えた瞬間、俺の体は反射的に動き、飛び蹴りをかました。
俺の蹴りは女神の顔面にクリーンヒットし、鼻の骨をぶち折る。
「ぐはぁ! 何すんのよいきなり!」
「よくもノコノコと顔を出せたもんだなクソアマ!! さっさと元の世界に戻せカス!!」
「やば、キレ散らかしてるじゃんウケる」
俺の怒りなんて知らんとばかりにクソ女神は自分の鼻に手を翳す。
たちまち折れた鼻は無傷の元通りに治った。
「残念ながら元の世界には戻せないわよー。そういうルールなの。諦めなさーい」
「てめ……!」
クソアマは俺の蹴りが届かない高所まで逃げながら鼻くそを飛ばしてきた。
「じゃあなんで俺をこんなところに連れてきたんだ!」
「へー?」
「何が目的だって聞いてんだ! 俺をこんな世界に送り込んで、あんたいったい何がしたいんだ!!」
女神は俺に向き直り、耳を穿りながら言った。
「自由研究よ」
「……は?」
──なんて言ったコイツ今。
「だから、神学校の自由研究の課題よ。怖いものが苦手な男を妖怪の世界に転移させたらハーレムを作れるのかってテーマでやってるの」
「ふっざけんじゃねえ! そんな小学生がカブトムシ観察する的なノリで人間捕まえていいわけねぇいだろ!!」
女神は俺に耳くそを飛ばしながら言った。
「いいのよ。地球も私の庭みたいなものよ? 貴方も小学生の頃庭にカブトムシが出たら捕まえてたでしょう?」
「このクソ神……!」
「だから困るのよ。せっかくあんたをこの世界に連れてきたのに、何にもしないんじゃ。このままじゃ『研究はしましたけど、結局ハーレムできませんでしたー』って、つまらない報告をしなきゃいけなくなるじゃない」
「てめぇの都合なんてしらねぇよ! 絶対協力なんてしねぇからな!!」
倫理観のカケラもないクソ神に向かって吠えると、女神は分かっていたかのようにため息を吐いた。
「しょうがないわね。このままじゃ埒があかないわ。ちょっと無理矢理社会に関わらせてあげましょうか」
「は?」
女神が消えたと思ったら、足元に謎空間が現れた。
俺は文句を言う暇もなく、その空間に飲み込まれた。
先ほど零が買い物していた幽冥町の飲み屋街。
道の端で編笠を深く被った女の妖怪がいた。
顔はわからないが着ている黄色の着物の上からでもわかるほど、身体が豊満だった。
そんな女の妖怪を、ナンパしている鬼達がいた。赤、青、黄、緑の4体。
女性のウエストの2倍ほどでかい腕で、赤鬼が女の腕を引っ張る。
「やいねーちゃん! ちょっと付き合えよぉ!」
「いや、は、離して──離してくださ……」
「一杯酌してくれるだけでいいのよ!」
「まぁちょっくらその下品なケツ揉ませてもらってもいいけどな!」
下品な笑い声を上げる鬼達。
彼女は嫌がっているが、誰も助けに入ろうとはしなかった。
鬼達は幽冥町に蔓延る鬼のヤクザ『紅裂霧輪組』の一員だったからだ。
奴らの邪魔をすれば、この町では生きていけない。
「ほらほらこっちの店だ! なんならあそこのホテルでもいいぜぇ?」
「い、嫌です──だ、誰か……だれか、助けて……」
彼女が悲鳴をあげた。
その瞬間。彼らの頭上に黒い空間が現れた。
「……え?」
女は惚けた声を上げた。
その時、その空間から勢いよく何かが射出された。
「どわぁあああああああ!!!!!」
その射出されたものは悲鳴をあげ、女の腕を掴んでいた赤鬼の頭にドロップキックを喰らわせたのだった。




