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世界を滅ぼす七人の悪女を更生させた俺、死亡したと思われていたら彼女たちが世界大戦を始めようとしていた  作者: てへろっぱ


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第51話 世界大戦を始めさせた証拠を調べたら、七人全員が俺を帰すための『錨』にされていた



 温め直された朝食が食卓へ戻ってきても、古い記録板に浮かんだ一文だけは消えなかった。


『十年前の死亡報告は、予定どおり成功した』


 俺は焼き直されたパンを一口かじりながら、その文字を眺めていた。向かいではセレスが同じように食事を再開しているが、視線の半分は記録板へ向いたままだ。ミレイユやリリスも似たようなもので、アウラに至ってはパンを持った手を止めたまま、完全に文字へ見入っている。


「アウラ。蜂蜜、垂れてるぞ」


「え?」


 慌ててパンを持ち上げた時には遅く、蜂蜜が一滴、机へ落ちた。クロエが反射的に布を取り出し、ノアは記録板だけを影で数センチ遠ざける。


「危なかった」


「ごめん」


「十年前の重要記録を蜂蜜漬けにするところだったな」


「食べながら見ようって言ったの、先生」


「そこまで俺のせいにするのか?」


 少しだけ笑いが起きた。


 それでも全員、すぐ記録へ視線を戻した。さっきまでなら、この一文だけで朝食どころではなくなっていただろう。それでも今は、食事を続けている。腹を満たし、気持ちを落ち着け、その上で続きを見る。


 今の俺たちには、そのくらいがちょうどよかった。


「フィオナ。続きはまだ復元できる?」


「できると思う。ただ、今度は私が触らなくてもよさそうね」


 フィオナが記録板を指差した。


「さっき本人認証が通ったでしょう? そこから先は、最初からレオンに読ませるために保存されていた記録みたい。欠損しているんじゃなくて、一行ずつ解放されてる」


「ずいぶん回りくどいな」


「あなたが読む時まで残すつもりなら、安全性は高いわ。問題は――」


 フィオナの表情が少し険しくなる。


「これを書いた誰かが、あなたが帰ってくることを知っていたってことよ」


 そこだった。


 虚無へ消えた俺自身ですら、本当に帰れるか分からなかった。アステラも同じだ。三か月かけてどうにか脱出した結果、こちらでは十年が過ぎていた。それなのに、この記録を残した何者かだけは、十年前の段階で俺が帰還して読むことを前提にしている。


「続けよう」


 俺が記録板へ触れると、文字が静かに切り替わった。


『第一段階――死亡情報の固定』


『目的――外部側に存在する七接続点の虚無侵入を阻止』


 食卓の空気が変わった。


 最初に反応したのはエリナだった。


「七接続点って……私たち?」


「たぶん」


 アステラが記録へ顔を近づける。


「人数が一致するだけじゃない。虚無側では、人とのつながりを『接続』と表現することがあるの。普通の魔法契約みたいな意味じゃなくて、記憶とか執着とか帰属意識とか、本人を本人として世界につなぎ止めているもの全部を含めて」


「執着、ですか」


 クロエが呟き、自分でも少し納得したように目を細めた。


「私たちの場合、かなり強固だった可能性がありますね」


「可能性というか、俺の死後に世界の頂点まで登って、十年後に戦争まで始めかけたんだから、相当だろ」


 誰も否定しなかった。


 セレスが少し気まずそうに咳払いしてから、記録板へ視線を戻す。


「では先生を死亡したものとして扱うこと自体が、私たちを虚無へ向かわせないためだったのでしょうか」


「でも逆じゃない?」


 エリナが眉を寄せる。


「先生が死んだって聞いたから、私たちは追おうとしたんだよ。ノアなんて実際に入口まで入ったし」


「入口だけ」


「そこを小さく言うな」


 俺が止めると、ノアは何も言わず口を閉じた。


 その直後、まるでこちらの疑問を聞いていたように、次の記録が表示された。


『死亡情報のみでは抑止不十分』


『外部管理個体による代替措置を確認』


『複製体生成――想定外』


『結果――許容』


 全員が壁を見る。


「家。外部管理個体って、お前じゃないか?」


『私である可能性が極めて高いと判断します』


「複製体生成が想定外っていうのは……俺か」


 レオが自分を指差した。


「たぶんな」


 家が七人を虚無へ入らせないため、俺の複製体を作った。その体が後に自分自身を選び、レオとして俺の弟になった。


 だが、この記録を書いた何者かにとって、それは予定になかったらしい。


「待ってくれ」


 レオが記録板を睨む。


「こいつ、十年前から家を見ていたのか?」


『少なくとも結果を観測できる位置にいたと考えられます』


「気持ち悪いな」


「俺もそう思う」


 同じ顔が並んで同じように顔をしかめたせいか、フィオナが一瞬だけ笑いそうになった。


「何だよ」


「何でもないわ。兄弟らしくなったと思っただけ」


「今?」


「今だからよ。少しくらい息を抜かないと持たないでしょう?」


 もっともだった。


     ◇


 次に現れた文字は、それまでより長かった。


『第一段階終了条件――七接続点が虚無への直接追跡を停止すること』


『終了確認――達成』


『第二段階開始条件――外部時間十年経過』


『目的――七接続点を同一座標へ収束』


 今度は誰もすぐには口を開かなかった。


 十年。


 同一座標。


 嫌でも思い当たる。


「……先生のお墓」


 ミレイユが静かに言った。


「十回目の命日に、私たちは全員あそこへ集まりました」


「その直前に証拠が届いた」


 セレスの声が低くなる。


「私には、先生を殺した者が他国に存在すると示す証拠が。そして皆さんにも、それぞれ別の国を疑わせる証拠が届いた」


 ノアも短く頷く。


「全部、本物だった」


「ああ」


 そこが厄介だった。


 偽物なら見破れた。七人は全員、自分の分野では世界最高峰だ。そんな連中を騙すために、犯人は証拠そのものを捏造していなかった。


 本物の記録。


 本物の取引。


 本当に起きた出来事。


 ただし、それぞれの意味を故意に誤解させるよう切り取っていた。


「続きを見よう」


 俺がそう言うと、記録板がまた光った。


『収束手段――真正記録の選択的提示』


『偽造――禁止』


『必要条件――七接続点すべてが自発的に指定座標へ移動すること』


「自発的?」


 リリスの翼がわずかに動く。


「世界大戦を始めるつもりで集まったのも、自発的と呼ぶのか?」


「操られたわけじゃないって意味かも」


 アステラが答えた。


「強制転移や精神操作では駄目だったんでしょうね。七人が自分の意思でレオンのところへ向かわないと、接続として機能しなかった」


「でも私たち、先生のところへ向かったわけじゃないよ」


 アウラが首を傾げる。


「先生のお墓には行ったけど、先生がいるなんて思ってなかった」


「そこがたぶん重要なの」


 アステラは記録板ではなく、俺を見る。


「レオン本人がいない十年間も、七人はあの墓を『レオンのいる場所』として扱い続けた。亡くなった人のお墓って、そういうものでしょう?」


「……ああ」


 俺には自分の墓へ通った経験なんてない。


 それでも意味は分かる。


 七人にとって、あの墓は俺の死を示す場所であると同時に、俺へ会いに行く場所だった。


 その七人が同じ時刻に、同じ場所へ、最大級の感情を抱えて集まった。


「アステラ」


「何?」


「まさか――」


「私も同じことを考えてる」


 彼女が境界核へ手を当てる。


「帰還座標だわ」


     ◇


「虚無には、普通の意味での距離がないの」


 アステラは食卓の上に指で簡単な円を描きながら説明を始めた。


「レオンが三か月かけて帰還経路を探していた時も、実際に故郷までの道を歩いていたわけじゃない。『元いた世界』を探していた。でも、世界が八百四十二も接続されている上に、境界の外側から見ると座標そのものが揺らぐ。だから最後まで、正しい出口を固定できなかった」


「それが急に開いた」


 俺は覚えている。


 三か月目。


 何度試しても戻されていた境界の一つが、突然こちらへつながった。俺は罠を疑った。それでも家へ帰りたくて飛び込んだ。


 そして出た場所には、自分の墓があった。


「偶然じゃなかった?」


「たぶん違う」


 アステラが記録板を示す。


 まるで答え合わせのように、新しい文字が現れていた。


『帰還対象――レオン・アルヴェイン』


『内部固定点――境界核保持者』


 アステラの表情が強張る。


「私」


 俺が虚無側で迷子にならずにいられたのは、アステラがいたからだ。


 彼女は三か月間、俺と一緒に帰還経路を探してくれた。


 続いて表示された文字を見て、今度は七人全員の表情が変わる。


『外部固定点――七接続点』


『共通座標――帰還対象の墓標』


 誰も間違えなかった。


 七人。


 俺の墓。


 そして俺。


『内外固定成立時、境界座標を一時固定』


『帰還路生成――成功』


 俺はしばらく文字を見たまま動けなかった。


「つまり」


 エリナがゆっくり口を開く。


「私たちが先生のお墓に集まったから、先生は帰ってこられたの?」


「記録上は、そういうことになる」


 アステラの声も、少し震えていた。


 セレスが自分の手を見つめる。


「では、私たちが別々の場所にいたなら」


「帰還路が開かなかった可能性がある」


「一人でも欠けていたら?」


「分からない。でも『七接続点すべて』と書いてある」


 空気が重くなった。


 リリスの翼がゆっくり畳まれ、ミレイユも言葉を失っている。アウラはパンを握ったまま、今度こそ食べることを完全に忘れていた。


 ノアだけが俺を見た。


「先生。私たち、役に立った?」


 その聞き方がノアらしくて、俺は少し笑った。


「すごく。七人全員」


 ノアの表情が、ほんの少しだけ柔らかくなる。


 するとセレスも目を伏せた。


「私たちは先生を殺した犯人を見つけるつもりで、互いへ剣を向けようとしていました。その結果として、先生を帰還させた。それを喜んでよいのでしょうか」


「そこは分けよう」


「分ける?」


「俺が帰れたことは嬉しい。でも世界大戦を始めかけたことは反省。それでいいだろ」


「……はい」


「一個の結果で全部正当化しない」


 七人は揃って頷いた。


 その反応を見て、俺は少し安心した。


     ◇


「先生」


 クロエが記録を睨んだまま口を開く。


「この計画には、明らかに不合理な点があります」


「どこ?」


「先生を帰還させることだけが目的なら、もっと安全な方法で七名を墓前へ集めればよかったはずです。十回目の命日に追悼式を開かせる。匿名で集合を促す。各国へ同じ情報を送る。いくらでもあります」


「俺も思った」


「にもかかわらず、この何者かは私たちが互いを疑うように真正記録を配置した。その結果、世界大戦が起きる寸前まで進んでいます」


 その通りだった。


「単に俺を帰すだけなら、あんな証拠はいらない」


 エリナが拳を握る。


「私たちを怒らせる必要もない」


「感情の強さが必要だった?」


 アウラが尋ねる。


 アステラはすぐには答えなかった。


「可能性はある。境界固定は記憶の強度に影響されるから。でも悲しみでも愛情でも十分だったと思う。少なくとも、戦争寸前の憎悪である必要まではない」


「では」


 ミレイユが記録板へ目を落とす。


「この方は、世界大戦が起きる危険を承知で、最も確実に私たちを集められる方法を選んだのでしょうか」


 次の文字が、その疑問へ残酷なほど簡単に答えた。


『想定副作用――七接続点間の武力衝突』


『世界規模への拡大可能性――高』


 セレスの目が冷たくなる。


 ノアの影も一瞬だけ濃くなった。


 それでも、誰も動かなかった。


『許容判定――可』


「……は?」


 俺の口から低い声が出た。


『帰還対象確保を優先』


『外部世界損耗――許容範囲』


 そこで、俺は完全に腹が立った。


「ふざけるな」


 食卓が静まり返る。


 誰かが俺を帰したかった。


 その結果、俺は帰れた。


 七人にまた会えた。


 アステラもこちらへ来られた。


 それは嬉しい。否定する気もない。


 でも。


「俺一人帰すために、世界大戦を許容するなよ」


「先生」


 セレスが俺を見る。


「怒っていらっしゃいますか」


「ああ」


「私たちを利用したことに?」


「それもある」


「世界を危険にさらしたことに?」


「それもだ」


 セレスは少しだけ目を伏せた。


「以前の私なら、『先生が帰ってこられるなら、それでも構わない』と言ったかもしれません」


 俺は黙って彼女の続きを待つ。


「ですが、今は違います。先生を帰してくださったことには感謝します。それでも、先生を帰すためだからといって、無関係な人々まで死ぬ危険を勝手に許容したことは認めません」


 ミレイユも静かに頷く。


「私もです。先生が戻られたことは何より嬉しい。それでも、そのために世界中の命を代価として扱ってよいとは思いません」


「私も」


 エリナが続く。


「先生を選ぶ。でも、先生ならそんな選び方を喜ばない」


 リリスも翼を一度だけ広げ、すぐ畳んだ。


「先生を帰すために世界を焼けと言われれば、昔の私なら焼いたかもしれぬ。今なら、別の方法を探す」


「私も」


 アウラが真剣な顔で頷く。


「お菓子なら半分にできるけど、命は戻らない」


「例えがアウラだな」


「でも合ってる?」


「合ってる」


 クロエはしばらく黙っていたが、やがて息を吐いた。


「費用対効果という言葉を使いたくなりましたが、今回は使いません。人命を費用として計算する前提自体が間違っています」


 ノアは最後まで記録を見ていた。


「先生。犯人を見つけても、消さない」


「ああ」


「でも、すごく怒る」


「それはいいよ」


「先生も?」


「一緒に怒ろう」


「うん」


     ◇


 アステラだけは、まだ別のことを考えていた。


「レオン。ここまで読んで、もっとおかしいことがある」


「まだあるのか」


「帰還路の固定条件」


「ああ」


「外部時間十年って指定されてる」


「それが?」


「虚無の時間は読めないの」


 彼女の声が低くなる。


「レオンにとって三か月が、外で十年になるなんて私にも分からなかった。あの場所では、同じ三か月でも外で一日になることもあれば、百年になることもある」


「じゃあ」


 レオが先に理解した。


「こいつは、兄がいつ出口へ到達するかまで知っていた?」


「そうなる」


「未来予知?」


「違うと思う」


 アステラが首を振る。


「虚無の未来は普通の予知じゃ読めない。可能性が多すぎるから」


「なら何で分かる?」


 アステラはすぐには答えず、やがて俺を見る。


「一度、結果を見ているとしか思えない」


 食卓がまた静かになった。


「結果を見てる?」


「先にレオンが十年後へ帰ることを確認してから、十年前に計画を置いた」


「そんなことできる?」


「普通は無理」


「虚無王なら?」


 アステラは答えなかった。


 答えないことが、ほとんど答えだった。


     ◇


 記録板が再び光る。


『第二段階――完了』


『帰還対象の外部世界復帰を確認』


 俺の帰還。


 そこまではもう分かった。


 そして次。


『第三段階――待機』


「まだあるのかよ」


 思わず口にすると、アウラが小さく手を挙げた。


「今度は何?」


「できれば世界大戦じゃないのがいい」


「俺もそう思う」


 少しだけ笑いが戻った。


 けれど次の一文で、すぐに消えた。


『第三段階開始条件――帰還対象が自ら虚無王権限の存在を認識すること』


 全員の視線が俺へ向く。


「……今?」


 誰も答えなかった。


 記録板が代わりに答える。


『条件達成』


「達成するな!」


 つい叫んだ。


「今知ったばかりだぞ!」


『第三段階を開始します』


「勝手に始めるな!」


 家とは違う。


 記録板から無機質な文字が次々と浮かぶ。


『帰還者レオン・アルヴェインへ』


『誤解を訂正する』


「何の?」


『本計画は、あなたを救済するために実行されたものではない』


 嫌な予感がした。


『あなたの帰還は目的ではなく、必要条件である』


 俺は文字から目を離せなかった。


『虚無王の空席を維持できる猶予が終了する』


 アステラの顔から完全に笑みが消える。


「アステラ?」


「知らない」


「これ」


「知らない。こんなの聞いたことない」


 本気で怖がっている。


『帰還者には、選択が必要となる』


『虚無王となるか』


 そこで一度、文字が止まった。


「……ならないって言ったら?」


 エリナが俺より先に聞く。


 次の文字が浮かぶ。


『あるいは――』


 全員が続きを待つ。


『虚無王を必要としない世界を作るか』


「……」


 俺は瞬きをした。


「そっちも選べるの?」


 記録板は反応しない。


「いや、待て。だったら最初から説明しろよ! 世界大戦起こしかける前に!」


 やっぱり反応しない。


「都合悪くなったら黙るな!」


『旦那様』


「何だ!」


『私ではありません』


「家に怒ってない!」


『安心しました』


「今入ってくるな!」


 重かった空気が少しだけ崩れる。


 アウラがパンを食べ直し、リリスが小さく笑い、エリナも肩から力を抜いた。


 俺はもう一度、記録を見る。


 虚無王になる。


 あるいは、虚無王そのものを必要なくする。


 どちらを選ぶかなんて、今すぐ決める気はない。


「先生」


 セレスが尋ねる。


「どうなさいますか?」


「まず朝飯を食べる」


「まだ?」


「途中だよ!」


 俺はパンを持ち上げた。


「それから、七人がそれぞれ調べるって言ってた記録を確認する。レオと家と俺自身の可能性も消さない。アステラには、虚無王が何なのか知ってる範囲で改めて教えてもらう」


「その後は?」


「その後に考える」


「王になるかどうかも?」


「ああ」


「今、決めない?」


「決めない」


 七人が少し笑った。


「先生」


 クロエも口元を緩める。


「それ、最近私たちへ教えていることですね」


「何が?」


「明日の分まで今日決めない」


「……そうだな」


 どうやら俺まで同じらしい。


     ◇


 食事を再開して数分後、アウラが俺の皿を見る。


「先生、パンもうない」


「あ」


「半分いる?」


 自分のパンを差し出す。


「もらう」


「うん」


 アウラが半分に割り、片方を俺へ渡した。


 その様子を見て、エリナが笑う。


「先生、虚無王になるか決める前にパン半分こしてる」


「悪い?」


「ううん。先生らしい」


 セレスも、ミレイユも、リリスも、クロエも、ノアも、アステラも笑った。


 十年前から仕組まれていた計画。


 俺の死亡報告。


 七人を利用した本物の証拠。


 世界大戦すら許容して、俺を墓へ帰還させた何者か。


 そして、虚無王の空席。


 考えなければならないことは山ほど増えた。


 それでも、今すぐ全部に答えを出す必要はない。


 俺はアウラにもらったパンを食べながら、机の上の記録を見る。


「ところで」


 レオが口を開いた。


「何だ」


「兄が虚無王になったら、俺は何になる?」


「知らないよ」


「虚無王の弟?」


「そうなるのか?」


「肩書きとして非常に危険ね」


 フィオナが笑う。


 クロエが少し考え込みかけた。


「商業的には――」


「売るな」


「まだ何も言っておりません」


「顔で分かる」


「……最近、先生まで私たちの技術を使うようになりましたね」


「十年分見てればな」


 また笑いが起きた。


 その間にも、記録板の隅では誰にも気づかれないほど小さな文字が、一つだけ新しく浮かんでいた。


『第三段階残存猶予――』


 数字はまだ表示されない。


 ただ、その下で。


『減少中』


 その二文字だけが、静かに点滅していた。


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