第22話 赤字街道の通行税
南回り街道は、春泥に車輪を取られながらも荷馬車が絶えない道だった。
問題は、その途中に新しく設けられた木柵の関所だ。看板には『クレッセ男爵領橋梁保全協力金』と立派に書かれているが、徴収している兵たちの顔には誇りより後ろめたさが浮いている。
「一台につき銀貨二枚だ」
荷車の御者が渋い顔で金を払い、そのあと別の台で通行札へまた別の印を押されていた。私は列から外れた御者たちへ声をかけ、領収書を見せてもらう。
「昨日は銀貨一枚だったんだがな」
「いや、うちは護衛料も取られたぞ」
「橋を渡っていないのに橋代だ」
数字がばらばらなのは、制度ではなく搾り取りだ。
私が紙を並べる隣で、ヴィクトルは黙って関所の柱を調べていた。古い泥の跳ね方で分かる。荷馬車の列がここで長時間止められているのだ。
「食料だけじゃなく、時間まで削られている」
「ええ。遅れた荷は途中で一泊して、その宿代も上乗せされます」
私は橋の向こうを見た。崩れている箇所はない。むしろ昨年より板は新しいくらいだ。
「修繕費は名目だけです」
私がそう言うと、関所役人のひとりが露骨に顔を背けた。追及しようとしたとき、ヴィクトルが静かに止める。
「今日は数字を集める日だ。喧嘩は後回しにしろ」
正しい。証拠もなしに声を荒げれば、相手は逃げるだけだ。
砦へ戻る道すがら、私は受け取った領収書を束ねた。
「同じ日、同じ荷、同じ道。それなのに料金だけが違う」
ヴィクトルが頷く。
「綺麗な盗みじゃないな」
「雑な盗みです。だからこそ、帳簿に必ず傷が残る」
関所の杭に打たれた印章は、クレッセ男爵家のものだった。次に見るべきは、あの領地のどこでこの金が止まっているかだ。




