第19話 新しい肩書き
査問の翌日、砦の会議室へ再び呼ばれた。
今回は追及ではなく、提案のためだった。ヴィクトル、イザーク、マルタ、そして監査を終える前のサビーネまで揃っている。
「ノルトヴァルト騎士団の給養監督官を引き受けてほしい」
ヴィクトルが真っ直ぐに告げる。
「食堂だけじゃない。倉庫、仕入れ、補給路の管理も含めて、正式な役職として」
驚いて言葉を失った。役に立つと言われることはあっても、肩書きごと差し出されたことはない。
「私でいいんですか」
「あなたがいい」
イザークが笑う。
「今の砦でその役目を断られると、全員が困る」
マルタまで腕を組んで頷いた。
「朝飯がまずくなったら暴動だよ」
思わず笑ってしまう。笑いながら、胸の奥に別の不安が顔を出した。
「もし今後、私が誰かと再婚したら……」
そこまで言いかけたところで、ヴィクトルが静かに遮った。
「肩書きを失う必要はない」
灰色の目がまっすぐ私を見る。
「俺は、あなたに俺の名へ隠れてほしいわけじゃない。並んで立ってほしい」
鼓動が早くなる。
ヴィクトルは胸元から小さな箱を出した。中にあったのは派手ではない銀の指輪だ。
「これは仕事とは別だ」
会議室なのに、空気が急に静かになる。
「今すぐ答えをくれとは言わない。だが、俺は毎朝あなたを迎えに行く理由を、ずっと持っていたい」
私は箱を見つめ、それから彼を見る。
欲しかったのは、支配されない暮らしと、役に立つ仕事と、対等に扱われること。その全部を失わずに差し出そうとしてくれる人が、目の前にいる。
「少しだけ考える時間をください」
「もちろんだ」
ヴィクトルは少しも急かさず頷いた。
その優しさに、もう答えはほとんど決まっていると、自分でも分かってしまった。




