第17話 愛人の城が崩れる日
査問の朝、最初に砦へ現れたのはレナードではなくセリーヌだった。
彼女は青白い顔で応接室へ押し入り、椅子へ崩れ落ちるように座った。昨日までの艶やかな女とは別人のようだ。
「助けて」
開口一番それだったので、私は目を瞬いた。
「債権者が屋敷へ来るの。サロンの賃料も、宝飾品の支払いも、全部止まったわ。レナード様は私のせいだって……」
「違うの?」
私が淡々と返すと、セリーヌは泣きそうに顔を歪めた。
「私だけじゃないもの! あの人だって、軍の金ならばあとで埋められるって」
結局、彼女は自分を救うためにここへ来たのだ。反省でも謝罪でもない。けれど、それで十分だった。
「話して。どこへ隠したの」
サビーネが鋭く問うと、セリーヌは震える声で答えた。
「王都の屋敷、私の化粧台の下段です。底板が二重になっていて、そこに別帳簿が……」
イザークがすぐに確認の使いを出した。
セリーヌはなおも言い募る。
「私はただ、きれいな暮らしがしたかっただけなの」
「兵の食事を削って?」
私の問いに、彼女は黙った。
欲しいものを欲しいと言うのは自由だ。けれど、その代金を関係のない誰かの空腹へ押しつけた時点で、それはただの盗みになる。
昼前、使者が戻ってきた。化粧台の隠し底から、砦の補給金を流用した別帳簿が見つかったという。
セリーヌは椅子の上で崩れ落ちた。
「終わった……」
「ええ」
私は静かに答える。
「あなたが飾っていた暮らしは、最初から誰かの皿の上に乗っていたんです」
彼女の城は、見栄と借金でできていた。崩れるのは早かった。




