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越後軍、関東へ

 越後軍は、三国峠を越えて、沼田からさらに南下し、厩橋(前橋)まで来た。

 厩橋では山内上杉軍が、まだ川越に向かわずに陣を張っていた。

 越後軍が山内上杉軍の陣から少し離れて陣を張ると山内上杉軍からの伝令がきた。


「出兵ご苦労である。此度は関東管領様自ら大将として軍を率いて来ておられるので、至急挨拶に来て関東管領様の指揮下に入れ」


 ときた。

 出陣前の想定内だ。


「越後軍は扇谷上杉からのたっての要請のもとに越後守護代長尾晴景が大将として軍を率いて援軍に来ておる。関東管領殿は越後からの援軍に礼をもって挨拶に来られよ」


 と、想定していた回答を返した。


 この後、山内上杉から誰か家老(クラス)の偉いさんが怒鳴り込んで来るだろうと想定されているところに、やってきたのは関東管領の家宰、白井長尾家の長尾左衛門尉ながおさえもんのじょう孫四郎憲景(まごしろうのりかげ)だった。


「貴様、弥六郎! 何様のつもりか!? おとなしく挨拶に来て指揮下に入れ!」とノリカゲ。


「これは白井の孫四郎殿か。管領殿は来ておらぬのか? 待っておるぞ」とハルカゲ。


「そのような態度で上野を通れると思うなよ」とノリカゲ。


「ほう、通さぬと申すか。我らは扇谷上杉からのたっての願いで援軍に来ておる。引くつもりはないので邪魔だていたすならば敵方とみなして相まみえても駆けつけるぞ」とハルカゲ。


「バカな。そんなことができるわけがなかろう」とノリカゲ。


「全軍に、直ちに戦闘態勢をとらせよ! 孫四郎、そちらが態度をあらためよ。一刻やる。越後からの援軍を礼をもって迎えるのか、敵対するのか返答をもってこい。一刻たっても返答がない場合は山内上杉は後北条に通じており、我らと敵対したとみなして攻撃を開始する。急ぎ管領殿にそう伝えよ!」


 と柄にもなく息巻くハルカゲ。

 周りが一斉にノリカゲに向けて刀を抜いた。


「おのれ、許されると思うなよ」


 といかにもな去り方をするノリカゲ。

 半刻と待たずに山内上杉軍からの伝令が来て、


「越後からのはるばるの援軍、関東管領として感謝する。思う存分働かれよ」


 と伝えてきた。


「委細承知いたしました。共に後北条を蹴散らしましょうぞ」


 と回答した。


 翌日、山内上杉軍はまだ出立する様子がないので、放置して軍を進める。

 深谷まで進軍して陣を張っていると、北条が撤退を始めたとの報が入る。


 越後の出陣に呼応して、千葉氏や結城氏ら関東の各将が雪崩うって反北条の動きを見せはじめた。

 この年、北条は今川と共に甲斐の武田にも攻め入って(そこそこ勝って)おり、引き際とみて早々に撤退を始めたようだ。


 河越城に籠城していた扇谷上杉軍や成田氏、上田氏の軍は、小田原に撤退する北条氏綱の軍を追撃しにかかり、追いついた越後軍も、その追撃隊に合流して江戸城付近まで追った。

 江戸城には北条の遠山綱景が詰めており、これに背を向けて氏綱を追撃するわけにもいかず、追撃はそこまでとなった。


 一方、古河公方や千葉氏、結城氏も江戸城に向かってきており、厩橋(前橋)で様子見をしていた山内上杉軍も、江戸城奪還の動きに呼応した。

 しかし、千葉氏は背後を突かれて自領の方を里見軍に攻められ早々に撤退し、結城氏や宇都宮氏なんかも、元々対立ばかりしているので、互いの連携も全く取れずに攻めあぐねるばかりだった。


 追撃軍も江戸城攻めに向かったが、ここで越後から早馬が来た。

 去年、一昨年と越後の内乱に便乗しようとして思うように内乱が広がらなかったため出兵できなかった蘆名が大軍で、越後会津街道を越えて攻め込んで来たとのことだ。


 急報を受けて越後軍は全軍とって返す。

 扇谷上杉の当主朝興(ともおき)は既に病がちなため河越城で留守居だ。

 追撃軍を率いていた嫡男朝定(ともさだ)に帰還の報告をすると、北条を追い返して途端に横柄になった朝定(ともさだ)は、江戸城を陥落させるまで帰還は許さぬと言ってきた。

 北条を追い返したところで既に義は果たしたとして帰還しようとすると、とことん上からの物言いで罵倒してきたので、越後は今後二度と関東には加担しないと言い捨てて帰った。

援軍に出て、山内上杉とも扇谷上杉とも揉めて帰る。

実は出兵前の想定通りだ。

ただ、蘆名の来襲は… 実はこれも想定内だ。

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