第〇〇七一話 親衛隊の特殊能力紹介
ラーゴが確認したところ、現在ミリンはまだ自室を出る様子がない。
しかしミツは、ミリンと同い年齢ぐらいの設定だと思われた。いずれも女性としての魅力を十分に持っているものの、まるで月と太陽みたいに印象が違う。
そう言えば、親衛隊の固有能力、そして変身時の設定年齢というのを聞いておくことも必要だ。赤ん坊までいるため、なにか人間の姿でやってもらうときに、幼女や未成年ではできない仕事もあるだろうし、逆もまたしかりである。
それも伝えると、クラサビの仲間紹介が始まった。
それぞれが持つ、偏った能力はしっかり抑えておきたいと思う。特殊能力といっても剛力や眷属召喚、隷属などといったウイプリーの基本として、備えるものと同じ能力もあった。ただこれらの能力は、一般的なウイプリーと比較しても異常に高い。しかも、ほかのウイプリーにない付与能力なども備えるところから、『特殊』と呼んでいるようだ。
一方でウイプリー能力とは違う術や、深く知らなければ能力というよりも、特技とか趣味ではないかと思えるわざまで散見された。そもそもの魔力不足から、ウイプリー基本能力が使いこなせない者が多いため、お互い補完しあって生き残ってきたに違いない。
偏った能力と聞かされていたにもかかわらず、魔力が少ないのに特別な能力を発揮できるという。それは基本能力の一部が、異常に発達したといった形ではなかった。生来固有能力との相乗効果や、基本能力とは無関係の、単なる生来固有能力もあるようだ。だから他のウイプリーは、そんな能力に似たようなサブセットを持ち合わせない。その一方で、魔力保持量が足りず自力では人型に変われない者もいる。
結果、人間の姿へ変わるときにクラサビの力を借りなくてはならない者や、大人の姿を維持できず、少女とか幼女の姿をとる者も多い。しかし、推薦組のメンバーはおよそクラサビより年長の、おそらくクラサビより五歳以上年長の者ばかりだったと思える。
(─ いや、あまりに整った見た目なためかなり上に見えるだけで、本当の設定は二、三歳上に固定なのかもしれない)
だがミツの見かけ年齢が、十分なエネルギーを溜めてもなお、クラサビよりも一、二歳下に見えるのはなにか理由でもあるのだろうか。
さて、各自の特殊能力の話に戻ろう。実は助け合うことで実現可能な、奥の手というのもあるようだが、今はそこまで手は回らない。まずはベースを押さえておくのが重要だ。クラサビの説明をすべて聞き終わってから、とラーゴは思った。
ちなみに付け加えられたクラサビから見たおよそ年齢は、この世界の標準年齢でわかりにくい。そのためラーゴの既成知識を基準に、置きなおしたもので覚えていくとしよう。
(─ しかし、こんなに多様な能力を持っているのに、エリートたちが彼女たちを部屋隅に放置してきたのはなぜなんだ?)
首をひねって想像してみるが、本当のところは分からない。だがおそらく、圧倒的力量の差を誇る魔族である。彼らにとって、人間の軍が抵抗するのに対し正攻法で叩き潰さなければならない、プライドのようなものがあったのだろう。
姑息な偵察やハニートラップ、記憶操作による首脳部の攻略、動物や眷属の力を借りるなど、強者にとって邪道。自分の手で手柄を上げることが大事で、敵の降伏や自滅などは許せないと考えるのも解らないわけではない。人間の屍の上に勝利の旗を掲げればいいので、治療や恐怖耐性、偽りの命など人間に親切な能力も不要だったのもよく分かる。
だが、ラーゴのこれからの活動にとって、彼女たちの今まで不要と言われ続けた能力は、きっと大いに役立ってくれるに違いない。
多種多様な能力者が二十人以上もいるので、一度自分なりに能力をグループに分けて整理し直してみることにした。まずは、多数の援軍が呼べる能力を持つ者たちだ。
ウイプリーは吸血鬼の特性で、この世界でも手ごろな大きさのコウモリを使役するほか、眷属召喚を一般的にできるが数は限られる。彼女ら特殊能力者の中には、そのレベルに圧倒的な違いを持つ者がいた。それが8411 ── ヤヨイ・九歳であり、眷属召喚がおよそ限りなくできる。ここでいう眷族とは吸血した人や動物、一般のカラスとかコウモリではなく、クラサビから聞く限り魑魅魍魎の類と思えた。人間相手であれば、結構強いらしい。数で圧倒すれば、勇者でもない限り、かなりの強者といえども駆逐できると云う。待ち伏せて迎え撃つには、かっこうの能力だ。
9011 ── クレイ・五歳は、たまたまつけた名前の通り、粘土細工。つまり土からいろいろなものを本物そっくりに造形する能力があり、動くものなら操るのも可能らしい。子供の遊びかと思える能力だが、小さい体ながら王都包囲戦ではゴーレムを作って善戦したようだ。
8121 ── ハイジ・六歳は吸血の必要もなく、動物の操作が得意と云う。ウイプリーのコウモリを操るような、基本能力とも違う、彼女自身の生来固有能力と思われた。名前はハイジとつけたが、高原にいる山羊や犬に限らない。哺乳類のほとんどが、モンスターと呼ばれるこの世界では心強いだろう。以上三人は、きわめて低年齢層のメンバーである。
つぎに、自分固有の能力を持つものだ。
9644 ── クロス・十三歳は聖霊系耐性能力がある。結界無しで聖域に入れるのに止まらず、聖なる攻撃を受け付けないというのは驚きだ。常時巫女として、聖堂で働くことも可能らしい。クラサビによると、小さいのに頭が回る頭脳派で、とにかく言い訳はうまいようだ。仲間うちでもそういう方面で、よく頼られるタイプだと云う。親衛隊中、最高のラージナンバーである彼女は、今まで他人より先になにかをさせられた試しがなかった。それが今回、最初に名前を戴いたり、血液配分が最初だったりと、降ってわいた幸運にたいへん喜んでいたと聞かされる。
8004 ── ヤチヨ・十二歳は無制限の変身が可能。自分がカマール姿のとき、変身能力を持たない魔族や、たとえ人間であっても、一体なら変身させてやることができるようだ。クラサビが仲間を人間に変える能力は、変身後の姿が決まっている限定的であるものの、人数に制限がない。そもそも変身能力を持つ者の、スイッチ代わりといったところなのだろう。一方ヤチヨは相手を選ばず、何にでも変身させられるという便利な能力だ。
9071 ── クレナイ・十五歳は血潜りという特技がある。カマールではない姿で吸血した対象の血液内に潜んで、相手の記憶を共有することができるらしい。自白剤を必要とせず、秘密を聞き出すには格好の能力で、名前が忍者っぽいのとあいまり、諜報に活躍できそうな期待を抱く。
8277 ── ハツナ・十四歳は短時間復帰 ── つまり時間を戻せるようだ。自分以外にも、戻さない部分を指定することも可能だが、せいぜい一~二分程度という。名前は、セツナのほうがよかったかも知れない。
8888 ── ヤヤ・十一歳の場合は時間遅延が可能だ。指定した一部以外の時間をゆっくり流して、その部分を高速化できるのだが、倍速程度なので『やや』遅くできると覚えよう。とくに最後二人の能力は、仲間を指定部分に入れるとお助け能力にもなる。小学校高学年から中学生のグループだ。
続いて操作・支配系能力は、ヒト種に対するものが多い。
7531 ── ナゴミは赤ん坊で、鎮静・和合の精神支配を行なえる。一方赤ん坊だけに自分の声を持たず、その代わりオールマイティな声色が使えた。面接のとき受け答えに使ったのは、列に並んだ優等生の中でも、歌のうまいので有名なダブルオーの声だったようだ。
8000 ── ハッチ・十歳はすでに活躍してもらったが、皮膚の外から血管に触れただけで、無制限に隷属させられるらしい。自分のことを癖で『あっち』と呼んでいたらしいが、ついた名前から『はっち』と呼び方を変え、けっこう気に入ってくれたそうだ。
7266 ── ナズム・十五歳は幻影が得意技。たしか『泥む』という言葉は、『心がとらわれる』といった意味を持つはずだ。あたかもそこに実物があるような、幻影が見せられると云う。
9001 ── クオレ・十六歳もその能力を使わせてもらった。血液による記憶操作ができる。相続者の知識によると、心のことをクオレという国があったはずだ。吸血は必要であるが、クレナイの能力や千里眼と違って、記憶の改ざんを可能とするらしい。ミツやミリンと同年代、ちょうど王国女性の成人にあたる。
9356 ── クミコ・十七歳は視認/声による一時支配ができ、これは隷属とは違う。エリートたちを運ぶため、王都から出るときに役立てたようだ。人を組み込む、と読もう。
7031 ── ナオミ・四歳は、血液による治癒を行なうことができる。術をかけるには吸血が必要であり、瀕死の重傷であればそのショックに耐えられない場合もあるらしい。ナオミは身体を治さんと ── ということで。ハッチを除き、高校生グループと見ておこう。
残る七名は、自分の能力であると同時に魔力の存在を表面化させないという意味で、主として他者へ能力を供与する系が比較的多い。
7750 ── ナナコ・十四歳は、ターゲットに不屈の精神を付与できる。対象と接触してなくとも見えていればオーケーだし、吸血の必要はないようだ。しかし、あまり無鉄砲に敵わない相手に突進していってもらっても困る。足がすくんで逃げられないときなどに、やってもらうといいかも知れない。
8831 ── ハヤミ・八歳は高速移動でき、それを付与もできる。もちろん、ハヤミ=速いでいいだろう。この娘たちも幼女グループだ。
7231 ── ナツミ・二十歳は強壮能力を付与できるらしい。やはり強壮というのは、『あちらのほう』が元気なことを言うのだろうか。そうなると、使えるときがあっても、小さい子供の仲間もいる中、おおっぴらには公表できない気がした。
8450 ── ヤスコ・二十三歳は強靭な肉体を持ち、それを付与することもできるようだ。康子、健康な子と記憶しておく。
いままで持ち前のリーダーシップで、仲間たちを引っ張ってきたのはヤスコだと言う。だが、今朝のご乱心事件以来、みんなからの信頼を一挙に喪失してしまったようだ。少なくとも本人は、それをかなり重く受け止めている。
というのも、対人間比魔力保持容積も仲間うちでは大きいほうであり、これまで体をはって、弱い仲間たちを守ってきた役回りだった。にもかかわらず、身内にミツやラゴンと言ったものが増えたため、自分の出番がないと落ち込み気味だとか。グループ分けをするときがあれば、リーダーシップを発揮できる役回りに据えてみようと思う。
8750 ── ハナコ・二十一歳は同様に剛力とその付与。
7373 ── ナミ・二十二歳も能力を見せてもらったが、偽りの命の付与であった。本気で吸血したらヴァンパイア化前にショック死するほどの瀕死状態でも、この術はかけられる。これは一度使うと外したときには死ぬか、ヴァンパイア化するしかないので、人間としてはあの世行きに等しいかも知れない。黄泉といえば、あの世のことだったと思うが。
7050 ── ナオコ・十九歳は、吸血対象とのテレパシーが使える。彼女たちは立派な大人の女性グループだ。
そこでラーゴは思った。
(─ あれ、じゃあ間接的とはいえ、自分の血を吸ったのだから、自分は彼女と連絡ができるのではないか?)
そう考えたラーゴは、ナオコを呼び出してみる。もちろんどうやればいいのかわからないため、『ナオコ、ナオコ』と心の中で呼びかける程度にすぎない。だがそう簡単にはいかないようだ。
まわりにだれもいないので、声を出してクラサビに尋ねる。するとどうも、最初はナオコのほうから意図的につないでもらわなければ、回線が確立しないらしい。実際、親衛隊のみんなには、吸った血がラーゴのものとは言っていないため、まずはナオコにそこから説明する必要があった。顔を合わせる機会を待たなければならないようだ。
この能力だけではないが、それぞれにいろいろな能力の制限や応用とかもあると云う。そのあたりは、実際使わせてもらって評価するしかないようだ。
たとえば付与できる能力の場合、すでに同じ能力を備える者に対して行なえば、結果も変わってくる。剛力や強靭なら、そもそもそれを持っているウイプリーに与えるのと、普通の人間に作用させるのが違うというのは想像に難くない。
以上、親衛隊のウイプリー能力の整理が完了した。ちなみに、現在王都内で大智者ロノウエを探索中なのが、クラサビとミツ以外には、クオレ(記憶操作_十六)、ハイジ(動物操作_六)、ヤチヨ(変身_十二)、ハッチ(隷属_十)、ナナコ(不屈の精神_十四)、ナゴミ(鎮静・声色_零)、ナミ(偽りの命_二十二)、ナズム(幻影_十五)、ナツミ(強壮_二十)、ナオコ(テレパス_十九)、ナオミ(血液治癒_四)の十三人である。
一方緩衝地帯に行ってもらっているのは、クロス(聖能力耐性_十三)、クミコ(一時支配_十七)、クレナイ(血潜り_十八)、クレイ(粘土細工_五)、ヤヤ(時間遅延_十一)、ハヤミ(高速移動_八)、ハナコ(剛力_二十一)、ヤスコ(強靭_二十三)、ヤヨイ(眷属召喚_九)、ハツナ(短時間復帰_十四)の十人だ。
彼女らは命令通り、緩衝地帯まで歩いて行った。
クラサビに聞いた雰囲気によれば、十キロメートル余りあり、徒歩ならまだ時間がかかるらしく、今のところ連絡はないようである。もちろん、鹿より速く走って行くのを見られても困るのでそれでかまわない。
彼女たちの能力の出番が来るなど、無いほうがいいとは思うものの、問題は山積なのだから、そうなったときはがんばってもらおう。
「クラサビは、ナツミくらいの年齢設定なの?」
「違うわよ、主様。あたいは、ナオコとクレナイの間くらい。がんばれば、ナツミくらいの年恰好にもなれるわよ。主様は、そのくらいがお好み?」
「いや、いまのままで十分だよ。ハハハ‥‥」
お好みも何も、お年頃の一~二歳の違いだ。トカゲの身では女の子の年恰好が、どうとかいうのも変だろう。
推薦組ほどではないにしても、容姿端麗の大人の女性からイケイケギャル、美少女そして美幼女(?)まで取り揃えている。とはいえラゴンなどイケメンといっても着ぐるみのようなものだし、自分にいたってはキモイ爬虫類のペットだ。
小さいすなわちかわいいのかも知れないが、ここはやはり冷たい冷血獣でなく、もふもふの温血獣ならもっとかわいがられたろうに。
そんなふうに思ってしまうラーゴであった。




