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ゆるキモトカゲは分相応な夢を見る~ファンタジーな異世界は思い込みと勘違いでできたミステリー~ 1  作者: 哀岬 ふうか(Hoooka Aisaki)
第四章 思い違い篇 弐日目の夜間作業 後編
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第〇〇四四話 美しい魔族は尽くすタイプ

 ラーゴは、出血した感覚のある口の中で、9037が微妙に動くのを感じていた。死にかけて痙攣(けいれん)する動きとも思えるが、あまりに重さのないものだからわからない。

 そこは千里眼(プレビジオニス)の出番、というのを思い出す。自分の口を見たいと念ずると、口を半開きにしたしまりのない自分の顔が映り、そして口の中に近づいた。蚊は、先ほど開けた穴に針を差し込んで吸っているように見える。今までへたり込んでしまっていた蚊が、見事に六本の足で立ったのは分かった。

(─ 大丈夫、血を吸っているようだ。よかったぁ)


 しばらくすると、自らの羽の力で、口から飛びだしてくる9037。

「凄い! 主様、すごいわ!」

 叫びまくっている。何がすごいのかわからないが、檻の外へ出たいらしい。もう大丈夫なのかと疑いつつ、部屋中に範囲を広げ床や壁、家具と接触しないよう、コーティングする程度まで結界(オービチェ)を張り巡らせる。


 いままでなら結界(オービチェ)の張り直しには別にもう一つ作って、今までの結界(オービチェ)を消すところだ。しかしそれでは、忌避の影響を取り込んでしまうため、今まで張っていた結界(オービチェ)を、拡げてみた。そのままの形で大きく膨らませて行くと、やがて檻や壁にぶつかる。さらにそれを拡張しようとすると、結界(オービチェ)の力でそれらを破壊しそうだ。

 壊れては困るので、何か方法はないかと、9037にコピーしたとき見つけた自分の生体呪文(プロシージャ)を読めば解った。その通りに結界(オービチェ)を膨張し終わると、同時にラーゴは首輪を元にもどす。

 どうも、拡張させた結界(オービチェ)中では、空気が通常よりも薄くなってしまったらしく、羽を今まで以上に羽ばたかせる9037。


 格子の間から、檻の外に出て床まで降りて行き、そこでやや弱い光を放ち始めた。何が光っているのだろうと思い、床のほうが見えるよう視点を変えると、そこには ── 人間の姿。

「だれ?」

 素っ頓狂な声を出してしまったと、ラーゴは後悔する。しかも人間に向かい、不用意に言葉を発していた。

 そう、9037が降りて行った床にいるのは、プレーボーイバーやカジノに働いてそうなバニーのお姉さん。真っ赤なボディコンのレオタード姿で、二十歳 ── この世界では十五歳 ── にも見えない、まさに深紅の赤毛の美女が横たわっている。

 マーガレッタの美しさもなかなかだが、決してひけをとらない。戦士の彼女よりかなり華奢(きゃしゃ)ながらスタイルがよく、薄手で赤いレオタードは、その妖艶なまでの、魅力的な凸凹を絶妙に表現していた。


「え?」 起きあがろうとした彼女から、発せられた短い声には聞き覚えがある。そう、今までしゃべっていたウイプリー ── 「あたいだよ。もう、すごい魔力をもらっちゃったら、カマールのままじゃ、飛んでいっちゃいそう。だ・か・らっ。変身しちゃった。これがあたいの、人間に転身した姿だよ」

 挿絵(By みてみん)

 そう言いながら、すっと立ち上がった9037。しっぽと耳を付けたら、かなりカジノでチップが稼げる自信があった。

(─ げげっ、こいつ本当に魔族(ディアボロス)なんだ)

 (うそ)だと思ってはなかったが、急展開についていけないラーゴは、頭に浮かんでいる言葉を口走ってしまう。

「とっても ── きれいなんですね」

「エーッ! そうでしょう! そうなのよぉ。あたいってきれいなの。 ── でもね、ウイプリーはみんな、あたいくらい綺麗(きれい)な子ばっかだけどね」

 『あたいくらい』と簡単に言うが、若さ頼りでかわいく見える女の子、といったレベルではない。彼女と同等レベルが並ぶというなら、話半分でもそれはミスコンではないかと思う。


「す、すごいですね。そんなきれいな子ばっかりいたら ──」

「エエー、好きなの? あたいならね、うん。スキでもいいわよ。さっきあたいが消えかけたとき、本当に必死で助けてくれたの、すごく感謝しています」 急にしおらしい態度の9037。おとなしくなると、この手の美人はさらに魅力が増すという ── また『ツンデレ』なる謎ワード付きの ── 事実を目の当たりにする。「これから、あたいが滅ぶまで、主様には誠心誠意、消滅もいとわずお仕えすることをお誓いいたします」

(─ いや、それは大げさな、でもないか。一応、『いのち』拾いしたんだもんね。だから『封滅(いのち)を懸けて、ヒトの血を吸えば』とか言ってたんだ)

 なんとなくニュアンスが違うのは、そういう意味だったようだ。


「いや、そんなのいいけどね、よかったよ、きみが無事で」

「いいえ! よくありません! あたいはね、主様、実際嫌だったのよ! 呪いで縛られた、絶対服従なんて! でも、主様みたいに優しくて、(しも)べ思いの方になら、あたいはすべてを投げ出しても、尽くします!  ── 言ったでしょう。あたいはさあ、尽くすタイプなんだって」

 呪いで縛るとはさすが魔族(ディアボロス)というべきか。あるいは魔族(ディアボロス)だからこそ単なる命令ではおとなしく従わず、呪いでもかけないと服従させられないのかも知れない。

「う、うん、聞いてたよ。わかったから、急に元気になって興奮しないで。たまには中庭も見回りの衛士とか来るから、ね」

 ハッと周りをうかがいながら、突然(かが)み込み、檻の中のラーゴに耳打ちするように、小声で(ささや)き始める。

「ごめんなさぁい。あたいったら、興奮するとすぐこうなっちゃって。エヘ」

 げんこつで、自分の頭をコツンと叩く、ヒト型の9037。秀抜の美人が見せる、そんな仕草はかわいいし、胸の谷間も覗けて嬉しいので、許すことにした。全体に細いので、衣装のわりに巨乳とはいわないまでも、ゆうにCカップはあるだろう。


「いやいいけどね。でさぁ、もう一度初めから話したいんだけど、ええと、まずウイプリーは、魔族(ディアボロス)の名前?」

「え ── ? そこからぁ?」

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