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ゆるキモトカゲは分相応な夢を見る~ファンタジーな異世界は思い込みと勘違いでできたミステリー~ 1  作者: 哀岬 ふうか(Hoooka Aisaki)
第三章 出会い篇 弐日目の夜間作業 前編
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第〇〇三二話 アネクドート・ペスペクティーバ

「おお‥‥。消えてしまわれた」

 まあ、ここまでも、なんの説明もなしに『おいでください』程度で呼び込んでいる。いきなり行ってしまうのは、ペスペクティーバも想定内だった。

(まだ力の使い方に、戸惑っておられるようだ)


 ペスペクティーバは、まわりの聖霊に目配せして、聖堂への階段を駆け上がっていく。自分の知る中に、浮遊術や加速の術を行使する魔法使いもいるが、ペスペクティーバはそういった魔法は使えない。浮遊や加速だけでなく、千里眼(プレビジオニス)ほどでない透視や結界(オービチェ)も、自分たちの先祖には、ある程度備わっていた。

 だが、それを使える魔法使いは、現在皆無に近い。魔法使いという種になったとき、ほとんどの者がその力を、失ってしまったそうだ。

 そんな中で、自分のすべてを十里眼(ボヤンス)の研究から、千里眼(プレビジオニス)に至る可能性に費やしてきたペスペクティーバ。遠方眼鏡や拡大眼鏡はもちろん、試作品(プロトタイプ)ながら、距離や温度を測定する眼鏡に他国言語解読用、夜間の闇視用単独能力眼鏡などもある。研究の成果として、人間社会にも提供されているそれら一里眼鏡(ボヤグラス)は、すべてペスペクティーバの手によるものだった。


 自分が保持できる魔力の大きさは、王国内に代々()みついてきた魔法使いの中で、随一(ずいいち)といえるだろう。

 普通魔法使いといえば、自分が作ったもの以外の魔法道具などに頼るのは、恥ずかしいと思うもの。にもかかわらず、それを誇示するため、こうした放電用の魔法道具も持ち歩いているのだ。

 しかし、時代とともに魔法使いも代が変わる。最近もっぱら話題の中心になるのは、人間が使う場合を重きに考え、従前技術がいかに効率よく、利用しやすい魔法道具に形作れるか。またほとんど魔力を持たない人間でも、使えるようにできるか、さらには詠唱なしに魔法を発動させるかなどだ。

 魔法の神髄といった高みではなく、そんな小手先ばかりに、魔法研究者の興味が向いているのは嘆かわしい現実だと思う。

 今やヒト種に比較して長寿命の魔法使いにもかかわらず、短期の結果を求めるようになってしまった。それはヒト種と混血が進んだため、短命化したのが一因であるというのも否めない。

 またこの数百年の間に一年間の日数が変化してきた。あるいは千二百歳を誇っていたような、長命家系の純粋な魔法使いであっても、極端に言えば九百歳の寿命に縮んでしまったのだ。

 聞こえだけとは言え、親から見れば自分が四百年かけて成した業を、子には三百年でさせなければならない。そんなことから、功を焦る気持ちが芽生えるのも理解できる。


 まあ魔法使いという者は結局のところ、研究者だ。編み出した魔法の技術や作った魔法道具が世の中で認められ、利用されてもてはやされることに、無上の喜びを感じるもの。いかに、魔法の真髄が垣間見(かいまみ)られる奥義を見つけたとしても、世の中で評価してもらえなければ嬉しくない。そういった考え方には賛同できる。

 だがとくに目を覆いたくなるのは、不穏な空気があることだった。人間の中に国防と称する軍事力強化に応用するどころでなく、単なる殺傷手段として魔法道具を求めるようなものだ。

 戦争で城を攻めるために開発された、大砲なる兵器は古くから存在する。ところが最近、それを手に持てる程度の大きさまで小型化した、『魔法銃』という武具(アルミス)が出回りはじめた。そんなものを作る、心得の悪い魔法使いはだいたい想像がつくとはいえ、これが提供される先はどうやら、胡散臭(うさんくさ)い組織だ。

 それはペスペクティーバが協力するような、平穏に生活を送る人間の社会に、脅威となる集団であるのは間違いない。

(まだ王国に遺恨を抱いているのだろうか、バカな魔女だ ──)


 魔法使いという種は、自らの魔法技術以外、人間社会での栄華栄達などといった下世話なことについて、本来欲を持たない者なのだ。

 とはいえ、世の中それですべてが言い表せるわけではない。数十年前には、この王国においても自らの欲望のため、国を滅ぼそうとまでしかけた亡国の魔女が名を馳せた。それは道半ばに先王が自らの(あやま)ちに気づき、命を賭して国の滅亡だけは食い止める。

 そのときもはや王国は、国として自力で復興が困難なほど、疲弊していた。

(自らの過ちに、あやつも気づいたものと思ったが ──)

 しかし、そんな人間よりの魔法使いペスペクティーバの心配事も、払しょくされるのではないか。この桁外れな力の存在、ラーゴの登場によって ── などと考えながら、聖堂の霊廟へつながる階段を駆け上がって行くペスペクティーバであった。

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