第〇〇二八話 アネクドート・巨人ヨーロシウ
「こまったべぇ」
友好的巨人族の首魁を補佐する六賢者にして、王国畜産事業支配のヨーロシウは頭を抱える。
巨人族は、闘争心が旺盛な好戦的巨人族と、温厚な友好的巨人族の二部族が、王国から見て東に隣接して栄える族国家だ。王国は長年、おとなしい友好的巨人族と、畜産事業において相互扶助の協力関係を築き上げてきた。
この世界に生きる温血獣のほとんどは、人間にとって巨大なモンスターだ。だがそんな中にも、王国において労働に使われてきた使役可能温血獣という種類も存在する。これらの畜産事業を、温厚な友好的巨人族に、場所と食料などの供与と引き換えで代行させてきた。
それら使役可能温血獣には比較的、温血獣の中でも極小の種を利用される。しかも子供 ── すなわち小型の期間が長い種を飼育して、王国民の力仕事を支援、あるいは移動の用途などで活用されるのだ。ただし小さい人間が扱うには、巨体にすぎる成体になるまでの数年間だけであるが。
そして二国の間では、労働力に役だった獣を食用に供しないことが、盟約として取り交わされていた。中には、早く大きくなりすぎてしまう個体を、巨人族での労働力として送られる場合もある。通常は長らく働かせた子供の期間を過ぎ、成長したものを種動物としてかけあわせ、有用な子孫を増やすのだ。
繁殖力がなくなると、肥沃な草原、いわゆるモンスターエリアに放逐する。あとは自然の摂理に任せるのみであるが、草原に野生資源は豊富なので決して飢えたりはしない。こうした流れは、種族が違ってもともに働いたものを仲間と考える、巨人族特有の宗教感がバックにあった。
温厚な友好的巨人族は、そんな共同事業を行なうため、王国内に配下数名と王国畜産事業支配のヨーロシウを常駐させている。そして非力な王国の人間に協力し、畜産事業を継続的に推進してきた。
だが今回、同じ巨人族でもきわめて闘争的な好戦的巨人族が、ことを構えようとしているらしい。王国が先日、魔王軍に取り囲まれ、危機一髪を乗り越えたばかりにもかかわらずだ。
「ヤタローカーはいったい、何を考えているんだべぇか?」
情報によると、闘争心溢れる好戦的巨人族において、太陽戦略で支持を集めた首魁の母が病床にあるのは間違いない。人気の高かった母が人前に出なくなったせいで、首魁ヤタローカーの求心力が弱まったという。ついには部族の首魁を取って代わろうと画策する、ドナイドーイが台頭して来たのが発端と聞こえていた。
とはいえ好戦的巨人族七人衆の一人、豪傑ドナイドーイは首魁ヤタローカーの母親が推進してきた、政策の推進担当大臣である。
しかも七人衆統括で、首魁ヤタローカーの弟でもある猛将オニキルとも、固めの杯を交わし合った心腹の友だ。そうなると反体制を表明する豪傑ドナイドーイに、好戦的巨人族軍を掌握する猛将オニキルが付いたという、危うい憶測も成り立つ。
それは巨人族全体にとっても、かなり危険な状態ということであった。
「たしか、両親を早くになくしたドナイドーイは、先代から部族の首魁だったヤタローカーの家に引き取られたんだべ。そして慈愛深き母の手で兄弟のように、育てられたんでなかったべえか?」
そもそも、国の根幹たる聖脈がきわめて脆弱なことから、為政者への求心力も不十分になりがちな巨人国だ。厳冬の期間には、首都にある主泉が凍てつく日々も、かなり続くと言われているほどである。
そこで好戦的巨人族では、歴史的に政情の危機に陥るたび、人民を統治力復権のため、戦いに駆り立てた。そうした求心力の向上に結びつける政策が、幾度となくとられてきたといわれているのは、決して政権批判のたわごとではない。
今回、その戦の矛先があろうことか王国であり、交戦理由は王国に隷従される同胞、友好的巨人族の解放だ。現在、好戦的巨人族内部で着々と戦の準備が進められており、新年早々にも宣戦布告が行なわれるだろう。そう友好的巨人族本国では分析していた。
「好戦的巨人族は、いさかいごとが好きだかんなぁ ──」
歴史的に好戦的巨人族は、 ── 絶滅危惧種の龍人族を除いて ── 地上すべての知的生命体に対し、圧倒的に強大な戦闘力を誇る。これを背景に、自ら戦争を始めるだけでなく、他国の内戦などへも首を突っ込むなどで、何度も政権の危機を乗り越えてきた部族だ。
その昔、ひとつの部族であった友好的巨人族と好戦的巨人族。しかしそうした部族求心力を鼓舞する戦により、不幸にもときの王女チョタンターの、婚約者が犠牲となった。それがもとで穏健派がまとまり国を分け、新たに友好的巨人族部族を立ち上げる、という歴史をもつ。以降、友好的巨人族も王国同様、女王制度をとってきた。
ただし、王国と違い実際に国政を執務するのは、事実上ヨーロシウら首魁補佐の六賢者である。女王は事実上傀儡となっているなど、実情にはいささかの違いがあった。
ヨーロシウは思う。
(何か裏がありそうなんだべが、戦だけはどうにかして、止められねぇんだべか?)
魔王軍の騒ぎが収まる数日前まで、王国畜産事業支配ヨーロシウは本国に戻っていた。もちろん巨人族とはいえ、一人二人では、とても万を超して大挙する魔族の相手にならない。盟約によって、戦闘状態の王国に留まることを禁じられたため、共同事業に携わる巨人族の仲間といっしょに一時帰国していたのだ。
以上はそこで仕入れてきた話である。もっとも、豪傑ドナイドーイが首魁の位を奪取せんとする情報は、ヤタローカー側近の一人が吹聴しているだけ、という可能性が高い。これは友好的巨人族の本国にいる賢者の一人、エーライノの見解だ。
しかも王国へ、侵攻する体を繕うためだけの、方便に見えるとも漏らした。首魁ヤタローカーと猛将オニキルたち中枢が、まるで首魁争いにかこつけているようだという。
それになんのメリットがあるのかはわからない。だが現在は友好的巨人族より、好戦的巨人族の首魁ヤタローカーへの連絡方法が途絶えている。となれば、友好的巨人族が王国から迫害など、受けてないという声を届ける方法もないのだ。
そもそも、友好的巨人族が王国に隷従させられているという、根も葉もない話はだれが言い始め、ヤタローカーへ伝えたのか。さらにこの攻勢によって、だれが得をするのだろう?
「ほんまのこつヤタローカーは、何のために開戦を決めただべぇか。病気とは聞くものの、戦争を起こすと知って、母親はどうしてるんだべぇ?」




