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ゆるキモトカゲは分相応な夢を見る~ファンタジーな異世界は思い込みと勘違いでできたミステリー~ 1  作者: 哀岬 ふうか(Hoooka Aisaki)
第三章 出会い篇 弐日目の夜間作業 前編
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第〇〇二九話 坑道の聖霊と魔法使い

 ラーゴは、ガニメデの聖泉(ホリフォンズ)から、声に呼びこまれるように瞬間に転移した。


 そこは通じた場所というよりも、地下に広がる、半分自然にできた坑道(ジェノモケイヴ)といった場所だ。魔法灯火(ソーサリルクス)もない洞窟のわりに明るいのは、ほんのり壁全体が発光しているためだとわかる。

 転移する一瞬前、聖泉(ホリフォンズ)彼方(かなた)から、呼ばれる声をたよりに見えた映像の、風景や顔ぶれと一致した。その中央には他のものよりひときわ大きく、ごつい(つえ)を持ったヒトらしき者が一人。年代ものとみえるローブですっぽり覆われ、顔までも少し隠れている。

 まずマーガレッタと変わらない大きさのそれが、地面の底から響いてくるような、性別のわからない声で語りかけてきた。

「あなたさまのけはいを感じ、こちらへお呼びしたのは身共でございます。身共はガニメデ神殿の聖霊に招聘(しょうへい)され、剣士アレサンドロさまのご容態をはかりに参りました、魔法使いのペスペクティーバと申す者。代々薬学に通じ、身共自身は十里眼(ボヤンス)の使い手などと、名をはせて参りました。そしてまわりにいるのが、身共を招聘したガニメデ神殿の聖霊たちと、お見知りおき下さい」

 ここまで出向いてコミュニケーションをとらないのなら、何のために来たのかわからない。彼らは、自分の力になんらかの価値を見出し、助けを求めてきたのだ。直感的に、意志の疎通も問題ないと判断し、初めて他人(ひと)(まえ)で声を出すラーゴ。

「え、えぇと、自分、いえ ── ボクはラーゴです」

 初めて他人(ひと)(?)ととった、コミュニケーションである。檻の中で、独りひそかに、発声の練習をしておいてよかったとラーゴは思う。


「身共は、人間から魔法使いと呼ばれる種族。そもそも、魔法使いと神殿とは相いれない仲なのはご存じでしょう。しかし、王や聖職者は自分の力で解決できない事柄を相談します。また聖霊にはしばしば、手に入れるのが困難な奇跡を起こす触媒(キャタリスト)といったものを、頼んだりする必要もございました。一方、聖霊は同じように触媒(キャタリスト)を供給するつきあいから、よりヒト族に見識がある身共ら魔法使いへ、自分たちの手に余る仕事を依頼する。─── そういう関係でつながれているのでございます」

 ペスペクティーバは、自分たちの関係から簡単に説明する。いきなり魔法使いと聞いて、魔族(ディアボロス)同様自分を食べるのではないかと不安がよぎるが、どうやらそこまで心配する必要はなさそうだ。親愛と言うより城内の者がミリンに示す、敬意に近いものを感じて警戒心を解いた。

 挿絵(By みてみん)

 魔法使いは、ラーゴが敵意を持たないというのが分かったのか、おもむろにローブのフードをとる。その見た目は、あの前振りがなければ、ただの人間と思うに違いない。緑の髪と金色にも見える褐色の瞳が印象的な、やせ型ながら大柄の、いかめしい感じのおじいさんだ。

「そうなんですね。で、ここは神殿の中なんですか?」

「ここは龍脈(デウサダー)ガニメデの脈()まり。ガニメデ神殿の真下、聖霊が住む坑道(ジェノモケイヴ)と呼びならわしている、聖霊の住み()でございます。ところで、あなたさまからは、聖脈(ホリアダー)と同じ脈の力がにじみ出ておりました。拝見したところ冷血獣(ヘテロサム)にも見えるにもかかわらず、我々と交流できる知性があり、脈が感じられる。 ── いったいあなたさまは何者なのですか?」

(─ それは、自分が魔族(ディアボロス)であることを、隠蔽しているからわからないんだろうなぁ)


 初めてあった人に、自分の正体を魔族(ディアボロス)だとばらすのは、やめたほうがいいだろうと考えるラーゴ。

「いえ、それがボク ──」

 自分は生まれたてで、言われている意味がわからないという顔を通し、できる限り細かい情報を引き出す作戦に出た。それをうのみにした魔法使いは、不審がる様子もなく、ラーゴが知らなかった基本的な事情をていねいに説明してくれる。

 まずこの世界においては、龍脈(デウサダー)というものが、世のエネルギーの根源であること。地上世界が誕生したときから、太陽の力を蓄え、地中に、水中に、気中に張られた力の脈。これがすべての生物へ、生命エネルギーを行きわたらせる源であるという。

「人間がガニメデの聖泉(ホリフォンズ)と呼んでいるのは、(あたた)められた地下水系のこと。龍脈(デウサダー)の出口にできやすい脈溜まりに接し、そのエネルギーが力を与えたものでございます。地空水にめぐらされた龍脈(デウサダー)から、無尽蔵とも言える大量の魔力として吸収できる存在。それがこの龍脈(デウサダー)と同じものを、体内にも備える種ごとの王族に他なりません。あなたさまより感じられるのは、そういった力であると思われますが ──」


 魔法使いは続ける ── 。

 例外は魔法使いや魔族(ディアボロス)。それらは龍脈(デウサダー)と切り離された、魔脈(ディアポラダー)と呼ばれる固有の脈より、もっぱら力を得る。実際には、魔脈(ディアポラダー)も、龍脈(デウサダー)の波動や自然からの ── 太陽をおおもとに、自然界の生命も経由して恵まれた ── エネルギーから、その力を蓄えられるのだ。魔力をほとんど体内に溜められない王族以外のヒト種と違い、彼らはそうした魔脈(ディアポラダー)から魔力を吸収する。そして脈の力の具現化、つまり魔法の行使を可能にしていた。

 通常、ヒト種の王族と魔法使いは、脈のサブセットとも言える体内脈を備える。たとえ隠蔽する手立てを持っていても、体全体が龍脈(デウサダー)の中にあれば、別の脈に閉じ込められた魔力同士が激しく共鳴しあうらしい。そのため、ここの聖霊の知るところとなったというわけだ。

(─ あ、はい。たしかに隠蔽してました。 ── ごめんなさい)


 ときに魔王も魔族(ディアボロス)の王族であるがゆえ、自分の中に龍脈(デウサダー)に似た巨大な脈を持つという。もちろんここで、『人型でない自分のことを魔族(ディアボロス)だとは疑わないのですか』などと聞くほど間抜けではない。

 だがもしかすると、ラーゴは食用魔族種の王族、またはそれに近い係累なのだろうか。そこはできる限り、だれにも秘密にしておきたいところだ。

 ちなみに魔法使いは悪でも善でもないとペスペクティーバは言う。ただ自分の研究成果や魔法が活用され評価されるなら、通常はなにかの対価と引き換えに、知識や力を提供するのが一般的な姿のようだ。といっても、対価は恩恵を受けた者が示す、評価の具現化に過ぎず必須ではない。

 ペスペクティーバによると、そもそも善悪判断などそれぞれの立場によって変わるものと言うが、その考えはラーゴも理解できる。


 大昔、ヒトは豊かな大地『草原(ゲバラゾーネ)』近傍の、洞穴に巣くって生きていた。しかしいつのころか現れ、人間たち中心に龍脈(デウサダー)信仰(しんこう)を広げたと言われる、神の使徒(ディサイポ)と呼ばれた者たち。彼らはモンスターが住まないような、荒れた場所の脈を活性化させ、一定規模の聖泉(ホリフォンズ)に変えて行った。ヒト種に奇跡を教えて町作りに励ませ、聖泉(ホリフォンズ)と神殿を中心にした国の立ち上げに務めさせる。そうして現在の治世のあり方を、世界のあらゆる場所で様々な知性体に説いてきたのだ。

 国を治めるには支配者が必要だが、それは龍脈(デウサダー)に宿った意志から、それなりの力を備えた支配者の体内へ、脈を授けることで顕現する。聖霊はそもそも、龍脈(デウサダー)の脈溜まりによりついて栄えていたため、その恩寵(ギフト)の助けになる立場を与えられた。脈は継承可能な親族に強く受け継ぎ、成人してしばらくすると顕現するもののようだ。

 その継承の(しるし)を看破し、告知を行なうのは脈溜まりに巣くう聖霊の役目と言われてきた。身につけられる体内脈の上限は、本人の素養以上に王となる国が備える龍脈(デウサダー)の、大きさに比例するのが一般的だという。

 こういった国づくりに、成功したのは人間種だけではなく、亜人種や人間以外のヒト種の国もあるらしい。

(─ だからミリンのお母さんが女王で、お父さんは王になれないとかなのか。 ── それで自分は、知性のあるトカゲの王族とかと間違えられているのかも知れないな。しらばくれとこう ──)

 一般的には信仰に厚い、神殿の統率者や聖人と言われる者、さらに王族などは龍脈(デウサダー)を制し、奇跡が利用できる。教会(エクレジア)は彼らが公けに、魔法使いから力を借りることはよしとしない。

 だがそれ以外の者、平民や一部の貴族などなら、古くから魔法使いに頼る機会は多く、その場合は食料やお金で対価を支払う。たとえば農地改良とか、雨ごい、井戸の掘削、測量や治水などの土木工事、生活魔法道具の譲渡など、魔法使いの恩恵は多岐にわたった。

(─ それじゃ、理屈に合わない超常の不思議能力ではなくて、ある程度科学技術者なんかと変わらないんだ)

 ペスペクティーバも王族と、直接交渉を行なわない建て前だけは崩さない。それでも、日々の生活に不可欠な魔術道具を利用する必要はある。そのために、ヒトでありながら魔法使いの弟子だった者などを、雇用することはできた。

 そういうときは、魔法使いの弟子を、洗礼で清めるなどの手続きが必要であると定められている。ただし実際のところ、鷹揚(おうよう)にされる場合も少なくないそうだ。魔術師(マーゴー)ゲーベは、その一例だろう。

「じゃあ、ペスペクティーバさんは聖霊さんから、いわば裏でアレサンドロさんを、なんとかしてくれって頼まれたんですね」

「そういうことでございます。さすがにすべてお見通しでございましょうか ── 。ただ病の癒やしというのが、薬または聖水(ホリアクア)に頼る場合を除けば、姿こそ見せられないものの、彼ら聖霊の得意分野。ですから今回も治療の依頼にはあらず、どういう状況かといった診断のようなものに過ぎませぬ。先ほど(らい)十里眼(ボヤンス)の魔法を行使するための準備にかかり、脈に触接(アクセス)した聖霊たちは、偉大な脈を感じるあなたさまに気づきました。すぐに知らせてもらった身共が、見込んでここへお呼びさせていただいたというわけです」


 はっきりとは言わないが、魔法使いはアレサンドロ快癒の手がかりを見つけてくれ、と頼まれてここに来た。そして大きな魔術を行使するためには、魔術師(マーゴー)同様脈のエネルギーが必要になったらしい。ただ魔法使いが無断で、龍脈(デウサダー)の力を譲り受けることはできないルールという。聖霊はそれを引き出す必要から脈にアクセスし、たまたま聖脈(ホリアダー)に飛び込んだラーゴを発見したようだ。

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