表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゆるキモトカゲは分相応な夢を見る~ファンタジーな異世界は思い込みと勘違いでできたミステリー~ 1  作者: 哀岬 ふうか(Hoooka Aisaki)
第三章 出会い篇 弐日目の夜間作業 前編
32/106

第〇〇二六話 オートマトン・プログラミング

(─ これは、ロボットじゃないのか?)

 『ロボット』なる単語は、ラーゴにとってまたもやどこからともなく沸いてきた、謎の既成知識である。それが自律的になんらかの作業が行なえる機械など、人の手によって作られる装置全般を指すということも知っていた。

 とはいえ、今ラーゴが思いついたのは、その中でも人型をとった、いわば動く人形に似たもの。どうりで男の体内は、たしかに作り物のようだ。他にも口から入ったものは、腹部の臓器にみえる袋に()められる作りである。この袋につながった装置からは下腹部にある二つの別の袋と、胸の中の大きな入れ物にホースっぽい管がのびていた。

 想像するに、捨てる水分と固形物は分けられて下腹部へ送られる。一方、肺部分には処理されたエネルギー源にあたるなにかが、溜められると思っていい。

(─ じゃ、そこに対する呪文暗号(スクリプト)は?)

 案の定『自律系』というタブページで、それらの手続き類は用意されていた。咀嚼(そしゃく)、消化、血液化、エネルギー循環といった裏方である。そのあたり、普通の生きものとはまったく違うと感じるが、他の生き物のすべてを、わかっているわけでないから何とも言えない。

 『血液化』とした詠唱は使われないのでは? と思ったが、これは他の呪文暗号(スクリプト)から呼び出される、副手続きとして利用されるようだ。具体的には『胃袋にものが入ったら』という分岐の中に、『血液化』の起動が書かれていたりする。手続き定義 ── サブルーチンと考えてもよいだろう。

 ちなみにここでいう血液というものは、肺型のエネルギータンクに蓄積される。そして空気 ── おそらく気中のなにかの成分により、常に活性化されてエネルギーが作られ、導線で全身に送られる仕組みらしい。

 他にもページの最初に『rev.12』とあった。だがそれが呪文暗号(スクリプト)のレビジョンを示すのか、これ単体が十二作目なのかは不明である。

 ちなみにこのロボットもどきの、胃や肺と考えられる臓器にはなにも入っていない。エネルギー化を行なう魔力もなく、身体(からだ)にひとかけらのエネルギーも循環してないようだ。これでは、外見の完璧さにまどわされて、アレサンドロとおなじような目にあった人間と、間違われてもいた仕方ないだろう。

 いつものことながら何の脈絡もなく、ロボットというよりオートマトンとかホムンクルスと称するものだ、と頭に浮かんでくる。とりあえず、自分の中ではオートマトンと呼んでおこうと考えた。


 まあ、こんな封建(ほうけん)社会にあれば、このオートマトンもいつかは意識不明から戻らない(むくろ)とみなされるはず。今のままなら植物人間として、ほどなく葬られる運命であるのは間違い無さそうだ。どうせ捨てられる人形なら、ここに置かれた間だけでも活用してやろう。そうラーゴは考えた。

 実は、(かご)の鳥 ── もとい檻の蜥蜴(とかげ)とも思われているが、この檻とて鍵を使わなければ開けられないものではないようだ。ラーゴのように少しばかり知性を持つ者であれば、中からでも簡単に出獄するのが可能なのである。つまり、少なくともラーゴに与えられた飼育小屋の部屋の中なら、自由に徘徊(はいかい)できるということに他ならない。

 そうは言っても、中庭に出るには窓がある。どの部屋も代わり映えはしないものの、窓は重い鉄格子と分厚いガラスが、一体となったものだ。ユスカリオが全力でかろうじて、風通しのために二割程度開けたのを覚えている。決して、非力でミニサイズな冷血獣(ヘテロサム)が、どうこうできるモノではない。

 では、この人形ならどうか。一見してすらりときれいな指、ひ弱な皮膚を見る限り、ピアノでも弾かせておけば良さそうだが、筋力の程は試してみないと分からない。

 問題は、エネルギー供給の手段が魔法灯火(ソーサリルクス)と違って、定義されていないということである。もちろん、何か源になるモノを摂取し、エネルギー化ができるのであれば、曲がりなりにも動作はしてくれそうだ。しかし、まずそのエネルギーが体内に枯渇した状態で、これは動作できるのだろうか?

 ラーゴはしばし考え、やはりここは『案ずるより生むが(やす)し』とばかりに実行に移す。

(─ さっきは消えかかった魔法灯火(ソーサリルクス)を、一秒間大きく(とも)すことができたんだ)

 あのとき、内部エネルギーが使われたようには思えなかった。ゲーベの説明にあった魔法使い同様、ラーゴの魔力によって光らせた、と考えるのが順当だろう。内部エネルギーがなければ、魔法道具が一切動作しないとしたら、最初にチャージする魔法を起動することすらできないはずだ。

 論理の証明が成功したと考え、試行を開始する。

 簡単なところから、『立つ』を詠唱すると、いきなりオートマトンは起動した。

 人間の構造に根差す力学に反した、いささか不自然な上体起こしであるが、許容範囲だろう。

 次はほぼ人間的な動作で、寝かされていた台の上に立ち上がった。ただし、そこまでであり、仮死状態で突っ立つ人形という風情だ。

 自然にかぶせられた布袋は、下に落ちている。背丈はマーガレッタより少し低いくらいの、無表情で精巧に人間に似せて作られた、お人形としか形容のしようがない。どうやら笑うなど表情を出すのも、またそれを他に連動させることも可能らしいが、面倒なので今はしないでおく。

 次は『歩く』だが、そのためには、進む方向に視線を向けなければならない。意識をオートマトンの後ろから、小屋が見たいと念じて視点を動かす。そしてラーゴのいる、部屋の窓に向かって『歩く』だ。

 台の上で立ち上がったため、歩いてくるにはこれを降りないといけない。それでも呪文暗号(スクリプト)にある様々な状態判断で、器用に飛び降りたり、木材を避けたりと動き、上手く小屋までたどり着く。

 しかしそのままでは小屋にぶつかってしまうと思い、ラーゴは『止まる』の呪文詠唱でオートマトンを停止させた。

(─ ちゃんと動くじゃないか)

 これで窓を開けられれば、オートマトンのいる間、夜中ぐらいなら中庭に出放題にならないかと、ラーゴは皮算用を決め込んだ。ラーゴは檻から出て窓際に動いており、鍵とかがついていないのはすでに確認済みである。とはいえ、たとえばオートマトンに対し、『部屋の窓を開ける』くらいの呪文詠唱で利用しようとすれば、さらに工夫が必要そうだ。


 さて、いよいよオートマトンに窓を開けさせる。ユスカリオの腕力の程はわからないものの、窓にはかなり重さがあるようだった。念のため、ラーゴはオートマトンの手の表面に、手袋代わりの結界(オービチェ)を張っておく。そのうえで『つかむ』で窓の格子を(つか)み、『持ち上げる』を詠唱するが、びくともしない。おそらくは、力不足と見た。

(─ 力の加減はどうすればいいんだ?)

 ページをめくって片っ端から、呪文暗号(スクリプト)定義を読んで行く。もう全然呪文暗号(スクリプト)を、解読(インタプリート)するのに抵抗はない。この目の力もあるのだろうか、斜め読み程度で呪文暗号(スクリプト)の動きが、どんどん頭に入ってくる、文字列検索レベルのスピードだ。

 すると、『コントロール』のページに『出力レベル』という定義を発見する。これは呪文暗号(スクリプト)定義ではなく、変数扱いになっているようだ。

 ページ冒頭には、変数を設定する呪文暗号(スクリプト)定義もある。現在の各部位における出力レベルは、おおむね『一』となっていた。この出力レベルで、歩行や起立をやったのだろう。

 試しに『五』を設定し、『持ち上げる』の呪文を再度詠唱してみると、今まで動かなかった窓が、滑るかのごとく持ち上がった。見た目には勢いがつきすぎているし、『五』はやや過大に過ぎたようである。

 とりあえず『三』に変えて上下してみると、無理なく、またある程度の抵抗があるようで調整も容易(たやす)いと感じられた。

 窓も開いたのでラーゴはオートマトンに飛び移り、まずは小屋の裏手から、ガニメデの聖泉(ホリフォンズ)のほうに向かって歩かせる。ガニメデの聖泉(ホリフォンズ)が見えるあたりまで着くと、人のけはいがないか充分注意をしてから泉の前にしゃがませた。

 挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ