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ゆるキモトカゲは分相応な夢を見る~ファンタジーな異世界は思い込みと勘違いでできたミステリー~ 1  作者: 哀岬 ふうか(Hoooka Aisaki)
第二章 王国の秘密篇(二日目、最初の就寝まで)
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第〇〇二二話 覗き見と食糧難

 先ほど陛下が出した、指示にあったのだろう。

 メイド二人が動き回り、ミリンとマーガレッタに新しいカップ、他の者にはお代わりのポットをテーブルに用意している。

 ブレイクタイム、といったところだろうか。


「そうそうミリアンルーン殿下、殿下つきのメイド筆頭に長らくおります、私の五女グラリスですが、この度……」

「はい、おめでとうございます。カエバ子爵のご長男との婚儀が整われたこと、すでに伺いました」

「ありがとうございます。はい。その通りです。グラリスはもう十五にもなるというのに、なかなか縁談を望まなかったのですが。 ── いやそれで、後任の補充にクリムをお考えいただけないか、お願いしようと思っておりました」

 なんとか笑顔を取り戻したミリンと、頭脳戦士の間で雑談めいた話が交わされる。

 どうやらラーゴの世話係である、元気印クリムの姉も従来ミリンの、筆頭メイドとして勤めていた。だが婚約したようで、近々結婚退職する補充に、クリムを生きもの係からメイドへ昇進させよう、という直接交渉らしい。


 先程の話によると、ここの時間感覚で十五といえば、ラーゴの認識なら二十歳にあたる。それでいき遅れたように言われるのはかわいそうな気がするものの、王国常識あるいは貴族社会では、このあたりが適齢期なのだろう。詳しい事情を知らないラーゴは、そのように想像した。

「まあ、わたしの飼育小屋から、クリムを卒業させようというのですか?」 と漏らした後、少し思い悩むふうに首をかしげるミリン。「……そうですね、わかりました。またわたしのほうから、クリムにお話しておきますわ」

「いやあ、クリムも新年が明ければ十一歳ですから。早くいい伴侶(はんりょ)を見つけなければならないのに、冷血獣(ヘテロサム)へしか目が行かず、困っております‥‥」

 すでにお茶を、配膳したメイドも退席していた。そのあたりで女王陛下がいささか、イライラしてきたのを感じたようで、ハーンナン公爵の家族の話は切り上げられる。

 計算高く雑談に込めたミリンの意思確認に、一定の成果を得られて満足げな頭脳戦士の仕切りによって、議場の雰囲気は一変した。


「では最初に、王国におけるこの冬の食糧事情の問題ですが……」

 話が始まって数分後、クリム嬢が迎えに来て、マーガレッタとラーゴ、ゴードフロイも、その場から退場する。

 挿絵(By みてみん)

 立たせると、『ゲテモノ食らい』は二メートルにも届きそうな大男であった。覗き込まれたわけではないが、なんとなく身の危険を感じて、マーガレッタにひしとからみつく。

 だが、さすがに王国内トップメンバーが集まっての密議だけあり、ラーゴはあそこにいて最後まで聞いていたかった。たしかに、トカゲごときが仕入れて何ができる情報でもないだろう。それでも世情や政情というのは、いくら知っても、そこに住んでいる以上、無駄にならないものだと思うラーゴ。

 そこで部屋から出るとまず、別方向に去っていった『ゲテモノ食らい』の後ろ姿を確認。安心したラーゴは、いつものように瞑目(めいもく)し、眠っているふりを決め込む。

 今までいた部屋を俯瞰(ふかん)し、話の傍聴 ── 覗き見に集中するためだ。麗わしのマーガレッタから、動かなくなったラーゴに残念そうなため息が漏れるが、それはあきらめてもらわなければならない。


 まず、ラーゴが退室するまでにも、すでに部屋の中では王国にとって重大な、食糧問題を取り上げていたが、それはかなり深刻なものだ。

 建国から数百年が過ぎ、一年が三割以上長くなってきた、大陸の北部に広がる王国。そうは言っても、この地において、今年も冬を越す食糧は不足なく備蓄していたはずだった。

 ただしそれは、例年と比較して十分な量にすぎない。あと四週間あまりで新年となり、冬はまだまだ続くのだ。だが今回多数の教会軍(カルタジニアス)を受け入れたため、その糧食にかなりの蓄えを放出してしまった。これでは冬の終わる前に、備蓄食糧が尽きる可能性が高い。

 友軍の糧食は助力を受けている国で揃えるのが、礼儀というのはもちろんの話だ。そのほかにも教会(エクレジア)を通じ、謝礼として金銭の支払われる必要もある。


 逐次交わされる会話から、ラーゴが窺い知った真実は、冬期の王国においてたんぱく質供給が、極端に厳しくなるという問題だった。麦や(あわ)(ひえ)、あるいは芋類などは、教会軍(カルタジニアス)が早期に撤退することで、なんとか食いつなげるはずと試算はされている。だがそれは、十分なたんばく源が確保されてこその話のようだ。

 軍人がとくに肉を要求したため、干した鶏肉や魚介類までが、品薄になっているという。今はまだ海で漁ができるものの、間もなく流氷が押し寄せてくると、小型で脆弱(ぜいじゃく)なものしかない漁民の船では、冬の海の漁に出られない。

 そうでなくても寒くなるとともに、腹が減って気を(あら)らげたモンスターが、岸近くまでやって来て船をひっくり返すのだ。肉食種ならヒト種であってもエサにしてしまうことさえある。

 まもなく新年という寒さから、鳥はすでに南へ移動した季節。いずれ小さい冷血獣(ヘテロサム)でも食べない限り、新鮮な肉にはありつけない。その分を穀物で補おうとすると、春まで備蓄がもたないうえ、春から収穫期までも食糧難となる。遠からず種麦や種芋にまで手を付けなければならなくなるのは、目に見えるようだ。

 そんな状況把握の最中に、再び食材の可能性が、聞こえてきそうなラーゴは連れ出された。いずれにしても声も出せないオブザーバーなのであるが、続きは傍聴というか盗聴の状態になる。


 盗聴がうまく行くと、少し聞き逃した部分はあったものの、やはり部屋では継続して食糧問題が話されていた。

「いずれは巨尖鼠(ソリチダ)など農耕用の家畜にも、手を出さなければならない日が来るでしょう」

「それでは、春からの農耕にも差し障りが……。しかも、王国においてはあれらともに働いてくれるモノたちを、食したことがありません」

「騎士が乗る、巨豆鹿(シャバティン)はどうですか? 古記によれば、いずれも飢餓時代には食べた者も見られたという、記録も残っているようですが……」


(─ そうだ、家畜がいるんじゃないのか。よしんば食用家畜が少なくても、野生の哺乳類はどうなんだろう?)

 ただ王国では、猫や犬などといったペットが見あたらない。今日、城の上から眺めた様子でも、騎士がのっているのは、馬というより鹿のような生き物だった。

 騎士が乗る ── の発言から、巨豆鹿(シャバティン)と呼ばれたのがその鹿なのだろうか。そんなことについて思い巡らせるうちに、話は新たな展開を見せる。

「現状では、巨人族がだまっていないでしょう」 女王が深刻に漏らした。「彼らの食料にもこと欠きますが、育ててもらった家畜を食べたりすることは明らかな盟約違反です。今後の国交までも、危うい事態になりましょう。そうでなくとも巨人族とは……」

 いわれのない知識、そしてまわりと違う常識を持っているものの、人間の世界や、とくに王国特有の事情について一般常識に欠けるラーゴ。それでも会議に交わされる話から、次のように理解した。

 王国では、力仕事に用いる家畜の畜産事業を、温厚な友好的巨人族(アンジョー)に代行させている。それら家畜はもっぱら労働用に限られ、食用にはしないことなどが盟約として取り交わされてきたようだと。


「陛下、情報によると好戦的巨人族(ナンドーヤ)においては、畜産に協力してくれている友好的巨人族(アンジョー)たちを、王国の奴隷とみているとか。解放を叫び、王国襲撃を(たくら)む噂があるようです」

 ハーンナン公爵が、おだやかでない情報を披露する。『温厚でない』巨人族が開戦間近と聞き、ミリンが驚いて声をあげた。

「なぜですか? 王国は巨人族友好的巨人族(アンジョー)と、相互扶助の協力関係を築き上げてきたというのに!」

「殿下。長らく王国でまかり通る奴隷制度を知った、血気盛んな好戦的巨人族(ナンドーヤ)首魁(マギステル)に座するヤタローカーというものがおります。そやつが自分たちの縁類である友好的巨人族(アンジョー)も、奴隷として使われていると、信じてしまっているようで ──」


 公爵は、その昔の徒弟制度から現在の、亜人すら売買されるようになった奴隷制度に移ってきた、必然性と経緯を手早く簡便に解説する。

 この会議は、すでに打ち合わされた内容を、ミリンに理解させるために行なわれているように思えた。再度ミリンは問う。

「それなら、……いかに闘争心(あふ)れる好戦的巨人族(ナンドーヤ)といっても、話せばわかるのではありませんか?」

 それに答えたのは、女王である。

「もちろん、そういった画策は行なってきました。しかし、我々の声が好戦的巨人族(ナンドーヤ)首魁(マギステル)ヤタローカーにまで、届かないのが実情です。それには好戦的巨人族(ナンドーヤ)の、首魁(マギステル)争いが深くかかわっているというのですが……」

 公爵の話によると、その巨人族はどこでもよいから、他国との間で開戦したいと考える暴れん坊らしい。

 それは現政権の求心力を復権するため、ヤタローカー首魁(マギステル)の側近がひねり出した策、という裏があるようだ。すぐに攻め入って来るわけではないものの、年が明ければ遅かれ早かれ宣戦を布告してくる情報ももたらされ、決して絵空事ではない。

「ただ私はそれらを、だれかが画策した話と睨んでいるのです」

 女王陛下は、さらにその後ろに黒幕を感じると付け加えた。


 一方、この食糧難を救う人道的な名目で、隣国が食糧の供給と引き換えに、ミリンとの婚姻を申し出ているという。隣国とはドンナイア帝国の辺境伯ソ=ラキヨーで、もちろんミリンを正妻に(めと)りたいとする申し出ではあった。

 だがミリンパパによると、辺境伯は亜人奴隷の侍妾(そばめ)を虐待する、悪い噂が絶えない卑劣漢。非人道的な人間で、教会(エクレジア)敬虔(けいけん)な王国王家からも忌み嫌われているようだ。

 当然ミリンも、変態伯への嫁入りは拒絶する。


 話が途切れてしまったので、母王陛下から『わかりきったことですが』と、その話に乗る問題点に言及した。

 ミリンは現在、王位継承順位(ロイヤルクラスメント)第一位。 ── 実のところ、王国では女王しかいない決まりであるが、嫁に行ってしまうと王位は継承できなくなる。

 次の継承順位でいえば、辺境伯の妹がミリンの遠戚に嫁いで、生まれたばかりの女児が濃厚らしい。この子が女王の座に就けば傀儡(かいらい)にされ、辺境伯が王国政治に口を出してくるおそれが大であると、現体制は見ているようだ。


 王位簒奪(さんだつ)を狙う噂は他にもいろいろある。そのうちの一つに先代王の時世、王国が乱れた動乱の時代に分裂した小国が、王位の奪取を目論(もくろ)んでいるという話も話題に上がった。

 性急な対応が必要でないから、この席では余談で済むのかもしれない。だが王国での安泰な暮らしを望むラーゴから言えば、それとてとても看過できる話題ではなかった。

 王国は、北国といっても山海の幸に恵まれ、良質の聖泉(ホリフォンズ)を受け継いで広大な耕地面積をも誇る。魔族(ディアボロス)を退治して脅威から脱した今、当面現在の食糧難さえなんとかなれば、いろいろな意味で垂涎(すいぜん)ものと見られている場所。そういう状況が、会話の中から類推できた。


 その一つの影響が、現在凋衰(ちょうすい)の一途をたどっている、市街地の治安悪化であると女王陛下の声に覇気がない。

 この話題に弁をふるったのが、意外なことにミリンパパ ── レオルド卿であった。

 王国の裏社会では、長らく市民に慕われるという、都市の自警団や登録衛生業などを指揮してきた、タオがまとめる任侠組織がある。そこから離反した新興結社ユニトータと抗争が始まったらしい。そこへ国際的な裏組織が、武器供与などで手を貸し始めたため、街の治安は悪化の一途をたどってきたと報告した。

「同時に結社ユニトータは、王国を裏から食い物にしようと、しだいに力を伸ばしてきた。その手段は国際マフィアの指導の(もと)、麻薬売買、人身売買、犯罪者逃亡支援やあまたの犯罪行為だ、と僕は見ている」

 ただのぼんやりおじさんかと思ったら、そうでもない。どうもこの人は貴族社会でのお付き合いよりも、こういったアングラな世界に情報を持つタイプのようだ。

 自ら地下にもぐって調べてきたような、匂いがするほどの詳しさである。


「本当に、頭の痛いことばかりです。今回の食糧問題も、結局その遠因は放置した魔王が元。すべては先の時代の、負の遺産と言わざるを得ません」

 女王が頭を抱え、その後はミリンが納得の行かない部分を質問し、父親とハーンナン公爵が答えていく。だがそれらはほとんど王国の一般常識のないラーゴにとって、有り難い補足説明となった。

 眠ったふりを続けるラーゴは、すでにクリムの手で自分の檻に戻されている。ユスカリオの作った、流動食っぽい夕げの餌も冷めてしまっているようだが、今は胸もいっぱいで食欲はない。


 一方女王の部屋ではしだいに眠気を催したミリンの質問が終局する。見かねた女王が密議の散会を宣言するころ、ラーゴは今日の疲れに負けて深い眠りについていた。

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