1話: 女神の殺し方、教えてください。
「…せ、せめて面接くらいしてくれないかな」
彼の名前は加賀柊。今年で17歳になるどこにでもいる高校生である。
成績はそれなりに優秀、運動だって出来る方、顔も悪くなかったので友達の女の子に告白されたことだってあった。…全部断っていたから、ガールフレンドはいなかった。
そんなちょっと捻くれてるだけの普通の高校生が今現在、両足を地につけているところは、学校でもなく、どこかのバイト面接でもない。それどころか日本でもなく、アメリカでもなく、中国でもない。また地球の裏側でもなければ、残念ながら、地球でもない。
そう、今彼が立っている場所は、〝異世界〟であった。
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拝啓 加賀駿様へ
こんにちは、女神ですっ♡。無事の異世界転移、まずはおめでとうございます。お体の調子はどうですか?記憶に障害が出ていたりしませんか?…まぁ、あったとしてももう手遅れなんですけどね(笑)。どうしてもと言うなら神頼みもいいかもしれません(お前が言うのかよ!テヘペロっ)。
えっと、あいさつもこれくらいにして本題に移りたいと思います。
この度の異世界転移についての詳しい経緯ですが、特にないです。ぶっちゃけ適当に選びました。悪意も善意もないです。締め切りが迫ってたんです(泣)。許してください。
なのでステータスは結構いい感じに無双できるようにしておきました!魔王とか、その他人外の化け物どもと戦わない限り、死ぬことはないと思います(希望的観測)。
各種オプションについては箇条書きのメモの方をご覧ください。
では、あなたの充実した異世界ライフを願っています♪(社交辞令)
p.s 成人の肉体を送ると何かと厄介なので、そっちの世界の都合上、肉体年齢は12歳になっています。名前はクガ・シュウ。当面の目標としては魔法学校入学することをオススメします(これ常識)(笑笑)
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「……取り敢えず、神を殺そう」
ある森の入り口で、この神は生かしておかないと。駿は固く心に誓ったのだった。
「えっと、制服はそのまま。変わった点といえば、ちょっとイケメンにいじられた幼顔くらいか」
まぁ、ブサイクよりはいいか。シュウは変わった顔に特に文句はなかった。
「ふぅ、まずオプション?だっけか」
メモメモと、制服のポケットを探っていると、胸ポケットに白い紙が入っていた。開いてみると、そこには箇条書きでいくつかの項目が書いてあった。
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☆この世界でのルール☆
・国ごとに違います。ただし、お金と冒険者カードは共通です。
・お金について
白金貨(金貨100枚)
金貨(銀貨50枚)
銀貨(銅貨10枚)
銅貨(鉄貨10枚)
鉄貨
・能力について
能力については2枚目に大体のこと書いてあるから。そっち見てねー
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クガ・シュウ 男 12歳
スキル:固有
〈パーフェクト・アイ〉
魔法式を見れば、どんな魔法も使えるようになる。ただし、種族や血統によって使えない魔法も存在する。
〈バトルジャンキー〉
戦闘に集中するほど、ステータスが向上する。
〈王の素質〉
支配、精神系の魔法の影響を受けない。
スキル:通常
〈火属性魔法〉〈水属性魔法〉〈土属性魔法〉〈風属性魔法〉〈雷属性魔法〉〈闇属性魔法〉〈無属性魔法〉〈詠唱省略〉〈剣術〉〈格闘〉〈鍛治〉〈錬金術〉
装備
制服(上下)、アイテムボックス、日本刀:鬼鉄
〈アイテムボックス〉
指輪型。容量無制限。時間凍結。生物以外なら何でも入る便利アイテム。手を触れれば収納でき、取り出したいときは異空間が現れる。
〈日本刀:鬼鉄〉
刃こぼれしない究極の日本刀。魂が宿り、使い手次第で能力拡大。
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「何というか…多分、すごい…よな」
基準がわからないため何とも言えないが、高い水準なのだろう。
「アイテムボックスの中身は…金貨10枚に数日分の食料、あと地図か」
しばらくは野垂れ死ぬことはなさそうだが、やはり収入の目処はつけておかなければならないだろう。
「ってことは、まずは街に行かないとな」
地図を表示。近くの町を検索する。
「一番近いのは、迷宮都市グラディエールか。よし、まずはそこに行くか」
まずは安定した生活。シュウはそれからのことはその時考えることにした。
◇◆◇◆
「すみません、タダで乗せてもらって」
シュウはグラディエールに行く途中。行商人と出会い、道すがら拾ってくれることになった。
「子供一人乗せるくらい、大したことねぇーさ。それにこの辺はたまに魔物がでるエリアだ。見捨てる様な真似はできねぇーよ」
「えっ、この辺で魔物がでるんですか?」
「なんだ兄ちゃん。お上りさんか?がははは、そりゃあの辺を一人で歩いてる奴がいるとすりゃぁ、それしか考えられないわな」
豪快に笑うこの男はクルトという行商団リーダーの男だ。
身体つきはがっしりしていて、濃い顎髭が特徴的だ。行商人ということもあってかかなり力も強く、さっき背中を叩かれたところがまだヒリヒリした。
「ところで兄ちゃん。グラディには何しに行くんだい?」
「そうですねー。田舎上がりなもので、情報収集と金を稼ぐためにですね」
「ほう、その歳で独り立ちか。ちっと頼りねぇー気がするが、まぁなんとかなりそうな坊主だな」
むぅと顔をジロジロ見られ、若干引き気味になってしまったが、外見は12歳、内面は17歳のシュウに対しての評価として、中々的を射ている。
「あはは、両親が厳しいもので。自分の学費は自分で稼げと家を追い出されてしまいました」
まだ学校に行くとも決まっおらず、全くのデタラメなのだが、この世界で生きていくために自分の境遇について何らかの設定をして損はないだろう。シュウは伝えるべき情報に気を配りながら、辺境の出であること、家一番の名刀を譲ってもらったということ、など話しながら色々と構想の練っていた。
「おいおい、そりゃどこの大人だよ…。家の家宝預けて、12歳のガキを家から追い出すなんて聞いたことねぇ…」
「ま、まぁ一通り剣術を学んだので、死ぬことはないかと」
作り話のはずが、クルトには厳しすぎる両親を持った苦労息子の印象を与えたようだ。いきなり転移させられて、迷惑をかけられたことには変わらないのだが、ただ、かけたのは顔も名前も知らない女神なんです。とは言えず、シュウは愛想笑いを浮かべた。
「グラディへはまだ時間がかかる。馬車の中だがゆっくり休んでくれよ」
強く生きろよ、と激励し、馬車の外で警護に当たる冒険者の元へ向かった。しばらくするとそこから笑い声が聞こえ、彼らとの関係も悪くないものであると察せられる。ちょっといい人すぎる気もするが、この世界で信頼できる人というだけでシュウには有難い存在であった。
外は陽が傾き、茜色に染まっている。異世界だろうが元の世界であろうが、夕日の色は同じであるようだ。そんな共通点を見つけるのも、楽しみの一つになるのかもしれない。
今日一日。突然召喚されたと思いきや、特に何も起こらず、それどころか馬車に乗せてくれる行商人に出会えた。異世界転移ものは初日から何かの面倒ごとに巻き込まれたりするものだと思っていたが、どうやら杞憂だったらしい。
のんびりやって行きたいな。異世界に飛ばされれば、のんびりなど出来るものかどうか分からないが、シュウは様々な文化や人に触れながら、見聞を広めて行きたいと思うのであった。
特にこれといった事件が起こった訳ではなかったが、異世界生活1日目ということもあって、シュウの精神的疲労はピークに達していた。心地よい馬車の揺れを感じ、ぼんやりと夕日を見ながら、いつのまにか重くなってゆく瞼に任せて、ゆっくりと意識を手放していった。
……
……
……
「魔物だ!!魔物が出たぞ!!」
眠る直前だったが、どうやらコテコテの異世界イベントが訪れた様です。
「数は!?」
クルトさんが武器を持ち、慌てて外へ出る。
「あぁ、クルトさん。バトル・ウルフ5体とゴブリン5体の計10体です!」
顔を真っ青にして説明する青年。クルトさんは一瞬驚き、苦い顔をしている。
「ゴブリンなら問題ねぇーが、よりにもよってバトル・ウルフか…今回雇ってる傭兵はみんな脳筋ばっかだ。あいつらの足で掻き回されたらたまったもんぞなねぇーぞ!」
「ええ、ただいま交戦中ですが…正直厳しい様です」
無念、といったように奥歯を噛みしめる青年。このまま放っておいては行商人が全滅してしまうのは必須。この後、クルトが取る行動を察しての表情なのだろう。
「…仕方ない。おい!荷物を全て捨てろ!命あっての商売だ。全力で逃げるぞ」
悔しそうな表情を浮かべる青年だが、他に打てる手がないのだろう。はい、と一言返事をし、踵を返すとほかの商人たちにあれこれ指示を飛ばしていた。
(魔物か…助けられれば助けたいけど)
正直、自分の力が未知数な今、無用なリスクは負うべきではない。しかし、その辺の魔物くらいなら楽に倒せる可能性もある。それに、自分の力を試してみたいという気持ちもあった。
「あのー、クルトさん」
「なんだ、兄ちゃん。今忙しいところなんだ。後にしてもらえるか」
「えっと、もしよければ倒してきましょうか?」
「がははは、なーに、子供を危険に晒すような真似はできんさ。大丈夫だ、逃げるだけなら荷物を捨てればどうとでもなる」
子供を心配させないようにと、強面の顔を歪め、気丈にも笑ってみせたクルト。やっぱいい人だ。そう感じたシュウの決意は固まった。
「分かりました。では、勝手に行ってきたいと思います!」
「おい兄ちゃん!ちょ、待て!」
そう言い残したシュウの行動を早かった。クルトの制止を振りほどき、喧騒が聞こえる方へと走って行った。
「冒険者3人に対して、黒い狼が5体とゴブリンが3体。ゴブリンの方は冒険者たちでも十分対処可能だな。問題はあの狼みたいなやつだけど」
シュウが駆けつけたときには既にゴブリン2体は討伐され、死体とかしていた。しかし、問題はやはりバトル・ウルフの方にあるらしい。筋骨隆々な男たちが、バトル・ウルフの機動力と口から放たれる火属性魔法に手を焼いていた。
「おい坊主!危ねぇから下がってろ!」
大柄でスキンヘッドで片手剣に盾を持ち、向かってきたゴブリンを蹴飛ばしている。
「あ、冒険者の皆さん。下がってて大丈夫ですよ」
若干間延びした声を上げるシュウ。周りにいた冒険者達はギョッと目を巻むいた。
「はぁ?ちょ、まてぼう––」
クガは鬼鉄を抜くと、狼に襲いかかる。
「グルルゥゥゥ…」
刀を上から下へ、一太刀を振る。
「グゥラァっ!」
その体は左右二つに分かれ、動かなくなった。
「なっ…坊主、一体何を」
いくら早いとはいえ、シュウの体は腐っても駄女神仕様である。そこいらの下級魔物相手に手こずるはずもない。
「ただ斬っただけですよ。あの狼みたいな魔物は?」
「あぁ、あいつはバトル・ウルフってやつだ。ランクはEだが、すばしっこくてな。乱戦になると厄介なんだ」
「ランク?…今はそれどころじゃないか。じゃあ、俺はバトル・ウルフのほうを殺る」
隙を見て飛びかかってきた魔物を問題なく一刀両断。冒険者たちはその圧倒的な力にあんぐり口を開けている。不意打ちであれ、あのくらいの速さなら危機の内には入らない。シュウの身体能力を考えれば当然と言えるのだが。
「それはいくらなんでも…無理じゃねぇのか?」
「ん?まぁ、なんとかなる…と思う」
「そ、そうか?こんな子供に任せるのは気が進まないんだが…さっきの動きは本物だったし…んーーー、無理はするなよ?」
苦悶しながらもシュウの提案を飲んだようだ。
「ああ、やばそうだったら何振り構わず逃げるさ」
「くはは、よーし!気に入った!俺の名前はダインだ。絶望的な状況だったが、お前さんが来て光が見えた。あんがとよ」
「分かったよダイン。俺の名はクガ・シュウだ。呼び方は好きに呼んでくれ」
そう言ってダインたち冒険者はゴブリン三体へ向かっていった。
「ふぅ、さてさて初戦は上々。ゴブリンの方は心配なし、あとは狼だけ」
刀を構え直し、バトル・ウルフに斬りかかる。
「はぁっ!」
二匹目を斬り倒し、向かってきた三匹目も刀を横に振り、ただの屍とした。
「特に鍛えたわけでもないのに、この強さとは…我ながら恐ろしい」
残り二匹のバトル・ウルフは実力差を感じたのか、逃げて行き、ゴブリンと戦っていた冒険者たちも問題なく殲滅できたようだ。
「おーい、シュウ!狼の方は?」
「あぁ、二匹逃した。残りの三匹はそこに転がっている」
「お、おぉ…しかし綺麗に真っ二つだな。魔石は抜いたか?」
「魔石?」
「なんだしらねぇーのか?魔物が持っているマナが凝縮されている石だよ。街に行ったら金になるからさ。ほれ、ナイフやるから取ってきな」
ダインにもらったナイフで魔物の死体をあさると確かに赤い石が紛れていた。
「なるほど、これが魔石か…皮とか素材は売れないのか?」
「あー、売れないこともないんだが、持ってくる人が多いから値段は激安だ」
たとえ安くとも、アイテムボックスを持っているクガにとっては取っておいて損にはならない。
「説明ありがとう。なんせ田舎育ちなもので分からないことが多くてな」
「さっきクルトから話を聞いたんだが、さっきが初戦闘なんだって?ったく、末恐ろしいな」
「それは褒め言葉として受け取っとくよ」
「まぁ、いい。警戒は俺たちがやっとくからお前は寝とけ。また力を借りることになるかもしれないからな」
「あぁ、悪いがそうさせてもらうよ」
こうして、クガ・シュウの異世界生活1日目が終わりを迎えたのであった。
––––魔物襲撃から数日後
馬車の隙間から心地よい西日が差し込み、昼寝日和な一日。もちろんクガも年相応の寝顔を浮かべ、スヤスヤと寝息を立てていた。
「おい、シュウ。起きろ!」
「んっ…なんだよ?」
あれから何も問題はなく、シュウはこの数日間寝てばかりいる。そんなシュウを揺り起したのは冒険者ダインだ。
「見てみろよ。あそこが迷宮都市グラディエールだ」
外見はパッとしない都市だが、門からの人の出入りは多い。迷宮産の素材など商品には事欠かないため、貿易都市として栄えている。
「ふぁ〜っ、やっと着いたか」
「ったく、そうしてると魔物五体を秒殺したやつには見えねぇーな」
くははは、とダインが笑うと、周りの人々も一斉に笑いだした。先日の魔物襲撃で大きな活躍を見せたクガに対し、冒険者や商人たちはここ何日かで随分と打ち解けたようである。
「ここグラディエでは、迷宮探索出来るが、その前に冒険者登録しなきゃならねぇ。クガ、お前は登録してないよな?」
「してないけど。冒険者登録って身分の証明なしに出来るものなのか?」
「それなら大丈夫だ。冒険者の中にはどこぞで禁忌を犯したはぐれ者もいるし、その辺の規制は緩くなっている」
その後のダインの話では、冒険者になるためには鉄貨5枚の登録料金がかかるらしい。しかし、冒険者になれば、宿の割引や素材や魔石を売る際にいくらかの税金免除が得られるため、なっておいて損はないということだった。
「それに冒険者にはランクがあってな……ってそろそろ門の前だな。続きはギルドの方で聞きな」
「ああ、ありがとう。ダインともここでお別れってことになるのか」
「なに、クガが冒険者をやってればそのうち会うこともあるだろーさ」
「そうだな。じゃあ、また」
「おう、またな」
ダインと別れたシュウ。見計らっていたのか、すぐにクルトが近づいて来た。
「よぉ!兄ちゃん。お前さん、冒険者登録した後うちに来い。いい宿を紹介してやるよ」
「ありがとうございます。あの、馬車に乗せてもらった代金は…」
「がははは、なーに兄ちゃんのことだ。きっとこの先すげぇ冒険者になるだろ。その時にこのクルト商会を贔屓にして貰えば十分さ」
さすがは商人。先行投資も商売のうちということか。ここまでお世話になったのだ。素材などを売るときは是非利用させてもらおう。
「しかし、油断は禁物だ。その若さで死ぬんじゃねぇーぞ」
「分かりました。ありがとうございます」
「じゃあ、また後でな」
かくして迷宮都市グラディエールに着いたクガ・シュウは、15歳の春までの3年間、この街で過ごすこととなった。
……彼がこの地域全体で有名になるのは割と早い時期になるのだが、語るのはまた次の機会となるだろう。
修正もちょくちょくします!




