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また会えたら。

数日後の仕事帰りに、結は例のカジュアルショップに寄ってみた。服も見たかったが、また“神田風”の彼の顔を見たくなったから。まだ名前も確かめていないので“神田風”と心の中で呼んでいる。


「いらっしゃいませ。」

“神田風”のステキな声が出迎える中、店内に入る。声だけでもにやついてしまうので、そっと下を向いて歩く。

結としては、先日のように気がそぞろになってしまう前に服を選びたい。季節の変わり目に、仕事にも着られる一枚が欲しいのだ。結の仕事は、ソフトクレイ講師。生徒は、講座が、平日の昼間ということもあって、主婦が大半だ。そんな講座なので、堅すぎない、キレイめな一枚が望ましい。

「本日はどのような服をお探しですか?あれ?…先日の…?」

結が顔を上げると、“神田風”は驚いたような顔をした。

「あの…何か?」

「いえ、先日もいらっしゃいましたよね?」

「はい。そうですけど。」

…もしかして、ニヤニヤしてるとこ、見られたのかしら?

「急いで帰られたから、覚えていたんです。」

「そうでしたっけ?」

それ以上、覚えていませんようにと祈りながら、首にかけてある名札に目をやる。“佐田勇人”と記されている。名前がわかって、なんだか嬉しくなる結だった。

「よろしければ、ご試着してみてください。」

なんとなく手にとっていたワンピースの試着をすすめられた。

「手にした時に微笑んでいらっしゃったので、よろしければ。」

違う理由で微笑んでいた、いや、にやついていたとも言えずに試着室に入る結。

「あ…。意外。」

着てみると、着慣れない色なのに、意外に似合っていてびっくりしていると外から声がかかる。

「いかがですか?」

思い切ってカーテンを開けて、きいてみる。

「変じゃ…ない、ですか?」

「よくお似合いですよ。」

佐田が笑顔で答える。笑顔も神田に似ているので、思わず、じっと見ていると、佐田も結をじっと見ている。

「や、やっぱり変ですか?」

「あ、いえ、とてもお似合いですよ。」

佐田も、結がある人物に似ていると、じっと見ていたのだ。

「よろしければ、サンダルを履いて、フロアを歩いてみてください。」

試着室用のキレイなサンダルをすすめられるままに履くと、佐田が結の手を取った。手が触れたことにびっくりしているうちに、フロアの大きな鏡の前に案内された。

「歩いてみて、いかがですか?」

佐田はまだ結の手に触れている。結はまたしても、鏡の中の姿が視界に入らなくなりそうだった。

「あの…。手…。」

「し、失礼しました。」

やっとのことで言うと、佐田が慌てて手を離した。

「あの…。よくお似合いですよ。」

佐田が恥ずかしそうに俯いて言う。少し赤くなっているようだ。

「じゃあ、これに決めます。」

結としても、なんだか照れくさくなって早く店から出たかったので、即決したのだ。


「やっぱり、似てるなあ…。」

結が帰った後の店内で佐田がつぶやく。結が実年齢よりも若く見られるのでなおさら錯覚しやすかったのだろう。思わず結の手を取ってしまったのも、かつての恋人を思い出さずにいられなかったのだ。

「阿川結、さん…。また来てくれるといいな。」会員情報で名前を確かめていた、佐田だった。

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