おねだり。
「ママのワンピース、いいなー。瑠花も欲しい!お揃いしたい!」
翌日の朝、新しいワンピースを着たら早速、娘の瑠花からチェックが入る。仕事の日ではないが、着てみたのだ。
「瑠花。服ならこないだ買ったばかりだろう?」
「買ったけど、これ、かわいいんだもん。ママ、今日買ってきてー。パパ、いいでしょ?お願い!」
恭志がたしなめても、自分に甘いことを見抜いているので平気だ。
「発表会のご褒美なら買ってあげようかな。」
結が助け船を出す。バレエの発表会が2週間後に控えているのだ。
「発表会までに売り切れちゃうかもしれないじゃない!」
「おいおい。俺は買うことそのものを賛成してないだろう?」
「じゃあ、クリスマスを前倒しでもいいから!」
「朝からうるせーんだよ!服くらいで騒ぐな!」
朝の苦手な春樹が不機嫌モード全開で起きてきた。朝だけは“怖いお兄ちゃん”なので、瑠花は一瞬だけ静かになった。
瑠花は、いそいそと朝食を済ませて、身支度を済ませるとそーっと結に近づく。そして、ヒソヒソ声で懇願した。手まで合わせている。
「ママ、お願い!」
びっくりしていると、春樹の視線を感じた。見ると、まだ不機嫌モードの春樹が朝食を食べながらにらみつけている。
「ったく!ガキのくせに!」
「お兄ちゃんは、女心がわかってないのよ!」
「こないだまでオムツだったヤツが女心とか、バカじゃねーの?」
「お前たち、朝からいい加減にしろ!時間わかってるのか!」
恭志の一声で二人とも時計を見て、ハッとする。
「はいはい。いい加減にしますよー。行ってきまーす。」
「ママー、お願いね。行ってきまーす。」
子供達がバタバタと出発していくと、恭志は結に言った。
「見つけたら、買っておいてくれないか。渡すのは、その、お前の言うように、発表会の後ってことで。」
「言うと思ったわ。ほんっと、瑠花には甘いんだから!」
「まあ、そう言うなよ。」
「私には?たまには私にも、ご褒美が欲しいな〜。瑠花にだけなんてこと、しないわよね?」
「…欲しいものがあるのか?」
「今は、ない。」
「欲しいものが見つかったら、買いなさい。」
「そうこなくっちゃ!」
新聞を読む恭志の首に抱きつく結だった。
…午前中に見に行って、ついでにお茶でも飲んでこようかな。
恭志を送り出してから、鼻唄を歌いながら家事を済ませる。こういう時は洗濯物を干す手も軽やかだ。洗い物もテンポ良くこなす。夕飯の下ごしらえも余裕だ。
身支度を整えて、靴を履こうとした時、佐田が手を取ったことを思い出した。心臓がトクトク鳴る。
「大丈夫。あれは偶然のこと。」
独り言を言って靴を履き、ドアを開ける。玄関を施錠して、車に乗る。目指すは、昨日のカジュアルショップ。親子のお揃いを展開しているショップなので、子供用のデザインのアレンジを見るのも楽しい。
…私のご褒美は、あの店の服でもいいかも。ル・クルーゼのグッズも捨てがたいな。期間限定のカラーが出てるかもしれないし。靴かバッグでもいいかも。
欲しいものが特にないせいか、却って目移りする結だった。




