第1話SEED、現れる
はじめまして。"ヤマシロ"と申します。
個人作家/映像制作会社代表。
二〇〇四年から二〇二六年までの二十二年間、ひとつの長編SFを書き続けていました。
『星の染め方 ─ DYE THE UNIVERSE ─』というタイトルです。
二〇二六年に上梓しました。
これが、作家としての最初の作品になります。
何を書いているか
SFです。NASA系のリアルSFと呼ばれるジャンルに近いと思います。
物語の舞台は二〇七五年。
地球と火星を航行する貨物輸送船「アルバトロス号」と、量子重力理論の博士号を持つ二十九歳の主人公・渡海亜希子、そして人間と協働するAIヒューマノイドたちが、ある未知の天体と遭遇するところから始まります。
ただし、私が本当に書きたかったのは、宇宙の謎ではありません。
「未知を前にした人間が、何を観測し、何を仮説とし、何を選ぶか」
それが、この作品の主軸です。
どうぞよろしくお願い致します。
第一章 SEED、現れる
二〇七五年 / アルバトロス号・船外活動中
─ ─ ─
宇宙放射線磁気バリアシステムの定期検査は、要するに退屈な仕事だ。
パネルを開けて、数値を読んで、記録して、閉める。それを十二箇所繰り返す。量子重力理論の博士号を取るのに、私は十年かけた。その使いどころとしては、些か勿体ない気もするが──宇宙では、どんな頭脳もPGT──ピストルグリップ・ツールを握る。それが嫌なら地上にいればいい。
私は地上にいたくなかった。
「七番、異常なし!」
マルコ・ベリーニの声が通信に弾む。この男は作業中も歌うように喋る。エンジョイしているのか、それとも地球の家族への土産話を仕入れているのか、おそらく両方だろう。
「了解。八番、取り掛かる」
私はスラスターを微調整しながら、船体側面の八番パネルへ移動した。アルバトロス号の外壁は、深宇宙の冷気と太陽風を無言で受け続けている。宇宙服越しでも、その硬質な静けさは伝わってくる。
船外作業では安全上、必ず同行するフィジカルAIロボットAOI-07通称"セブン"が私の三メートル先で作業を続けている。感情レベルを低めに設定しているのか、今日は特に静かだ。その銀色の外装が、遠くの太陽光を鈍く反射している。
ピストルツールを当てる。トルクを設定する。ボルトが外れる。パネルが開く。
数値は正常だった。
当然だ、と思いながら記録する。この航路で異常が出たことは、私がOLSに入社してからの一年間で一度もない。整然として、効率的で、タイタンシステムが算出した最適ルートを、私たちはただ辿っている。
タイタンからすれば、私たちは指示通り駆動する部品なのだろう。
ボルトを締め直す。八番、異常なし。
─ ─ ─
(第2話へ続く)
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影響を受けた作家・作品群
中心に居続けるのは Carl Sagan 氏です。
※本業は天文学者
彼の『COSMOS』と『Contact』がなければ、
私はこの物語を書き始めることができませんでした。
「私たちは、星の材料でできている(We are made of star stuff)」
この一節が、二十二年間ずっと、執筆の北極星のような役割を果たしてくれました。
加えて、ご紹介しきれないほどある素晴らしい作品が世の中に沢山。
幼年期の終わり・未来の二つの顔・星を継ぐもの・三体や、映画だと『2001年』『コンタクト』『インターステラー』『Project Hail Mary』等、
偉大で素晴らしい数々の作品から私は感銘を受け、本作は徐々に形を成していきました。
「リアルSF」と「感情ドラマ」の両立
本作で挑戦したのは、ハードな科学考証と、人間の感情ドラマを、同じ手のひらに収めることでした。
量子重力理論、真空相転移、対生成、ニュートリノフラックス、カルダシェフ尺度。これらの実在する物理学概念を、「魔法」のように扱わないこと。観測→仮説→検証→否定→再構築という科学的思考の構造を、物語の骨格に貫くこと。
その一方で、染色職人だった主人公の叔父が遺した言葉、宇宙船クルー六名の絆、AIヒューマノイドとの静かな信頼関係、二〇七五年の地球社会で進行する富の階層構造。
科学と感情、宇宙と地上、未来と二〇二六年の私たち。
それらの境界線を、できるだけ薄く描こうとしました。
ご興味を持っていただけましたら幸いです。




