第85話:日焼けの跡と、取調室
羽幌での「女神」たちとのひと夏の経験。
心地よい疲れと日焼けの痛みを感じながら登校した楓を待っていたのは、
部活の練習……ではなく、二人のヒロインによる鋭い「審問」でした。
隠しきれない日焼けの跡から、楽しかった海の記憶が次々と暴かれていく。
修羅場と化した廊下で、楓はこの危機を乗り越えられるのか?
そして、物語は思わぬ方向へと動き出します。
羽幌の海から帰った翌日。
Tシャツの襟が擦れるだけで、日焼けした肌がヒリヒリと悲鳴を上げる。
俺はそんな痛みを誤魔化しながら、今日も部活へと足を運んだ。
「りーん!」
校舎に入った途端、弾けるような声と共にハルちゃんが駆け寄ってきた。
「昨日、部活休みだったけど……あー、ずいぶん焼けてる。ってことは、海かな?」
「……まあ、ね。ちょっと遠出してきた」
「楓、葵、おはようー」
続いて、さっちゃんもゆったりとした足取りで合流する。
だが、俺の顔を見るなり、その細い眉がピクリと動いた。
「楓、顔焼けてるね。痛そう」
「ああ、ちょっとヒリヒリするよ」
「へぇ。家族で行ったの?」
さっちゃんの何気ない問いに、俺の背筋に冷たいものが走った。
「いや、吉川たちと……」
ハルちゃんがグイッと顔を近づけてくる。
「具体的に!」
「……ムツと、皆ちゃんと、吉川と、ミヤと……」
あとの名前を出すのが、これほどまでにはばかられるとは。
本能が「これは良くない」と警鐘を鳴らしているのか。
「とぉ? まだ続きがあるんでしょ?」
ハルちゃんの声が少し低くなる。笑顔なのに目が笑っていない。これが一番怖い。
「……愛美と」
「なんで、そこで愛美ちゃんの名前が出てくるのかなぁ?」
ハルちゃんの口元が引き攣っている。
「美沙さんに車を出してもらったんだよ。……ほら、大人数が乗れる車が必要だったからさ」
「出た、美沙さん!」
さっちゃんが天を仰いで頭を抱えた。
「やっぱり、愛美ちゃんが絡んでたわけね……。でも、二人きりじゃなかったんなら、百歩譲って良しとするかな。六人で行ってきたの?」
さっちゃんの追及の手が緩まない。
「いや、愛美の妹の萌奈美と……」
「と!? まだいるの!?」
「吉川の家でも車を出してくれたんだよ。だから、その……」
「で、誰がいたの?」
逃げ場はない。俺は観念して、禁断の三人の名を口にした。
「ゆきちゃんと、亜沙子ちゃんと、里奈ちゃんの3人」
「……は? 誰それ?」
「小野寺ゆきと、逢坂亜沙子と、藤原里奈。その三人だよ」
その瞬間、二人が絶句した。
「それって……あの、カリテスの……? っていうか! なんで名前呼びなの!?」
「二人とも落ち着け! ゆきちゃんは皆ちゃんの彼女だし、一人だけ連れてくるわけにいかないだろ? だから友達の二人も誘っただけで……」
「で、どうして下の名前で呼んでるのかな、りん?」
ハルちゃんの顔がマジで怖い。般若の影が見える。
「……向こうから、名前で呼んでほしいって言われて。海のマジックっていうか、そういう流れになったんだよ」
「ウチらの時、あんなに抵抗したのに!?」
「うっ……」
「先輩たちー! ミーティング始まりますよー!」
遠くから後輩の呼ぶ声がした。ナイス後輩! 命の恩人だ!
「お、おう、今行く!」
かえではにげだした。しかし、まわりこまれてしまった!
「楓、また後でね」
「りん、ちゃんと話そうね」
痛恨の一撃。
二人の声は、逃れられぬ死刑宣告のように俺の背中に突き刺さった。
案の定、部活の内容など一切頭に入ってこない時間を過ごし、俺は音楽室の個室へと連行された。
そこで待っていたのは、根掘り葉掘りの徹底的な取り調べだ。
幸い、愛美の水着事件については触れずに済んだ。
それはお互いの名誉と、俺の命のために墓場まで持っていく。
「さぞかし、楽しかったんでしょうねぇ。女神様たちとの海水浴は」
さっちゃんが、ペットボトルのお茶を飲みながら皮肉っぽく笑う。
「……はい」
「ふぅーっ。キャンプであんなに仲良くなったと思ったのに、もう浮気かコラ、だよ?」
出た、ハルちゃんの笑ってない笑顔。
「いやいや、ハルちゃん、浮気とかじゃないだろ。俺、あの三人とは何もなかったし、むしろ完全に脇役だったんだから」
(実際、ミヤやムツの活躍の方がすごかったしな)と心の中で付け加える。
「ふーん。じゃあ、今回は信じてあげる」
「……助かった」
胸を撫で下ろしたのも束の間、二人が身を乗り出してきた。
「その代わり、私たちともちゃんと遊んで。企画はりんがすること!」
「そうね。近日中に、埋め合わせしてもらうから!」
「へっ? 二人と遊べるなら、むしろ嬉しいんだけど……」
やべ、安堵のあまり本音が口から漏れてしまった。
二人の顔が、一瞬で真っ赤に染まる。
「……ずるいなぁ」
「確信犯だよね……」
何はともあれ、音楽室の秘密の尋問は、思わぬ形で幕を閉じた。
日焼けのヒリヒリよりも、心臓のバクバクの方が少しだけ勝っていた。
「おっと、竜胆!」
彦根先生に呼び止められた。二人の視線が、再び俺に突き刺さる。
「明日なんだが、学校で三年生の模試があるから部活が出来ないのは聞いたな?」
「あ、はい。……一応」
「ちょうどいい。明日、比布町に行かないか?」
「……えっ?」
思わず声が裏返った。
比布? どうして今、その街の名前が?
呆然とする俺たちの前で、先生は不敵な笑みを浮かべていた。
最後までお読みいただきありがとうございます。
羽幌の海で少しだけ大人(?)になった楓でしたが、
ハルちゃんとさっちゃんの前では相変わらずの「不器用」な姿を晒してしまいました。
【比布町編、開幕!】
次回から舞台は比布町へ。
実は今回、村中町長から「公認」をいただき、異例のコラボが実現しました!
比布町の温かさを、物語を通じて全力でお届けします。
「この先が気になる!」「コラボ楽しみ!」と思ってくださった方は、
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皆さんの反応が、物語をさらに熱くするエネルギーです。
日焼けの火照りが冷めやらぬまま、
新しい舞台で響き渡る彼らの音色を、どうぞお楽しみに!




