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第38話:春日葵は気付いてしまう(中編)

 高校一年の宿泊研修。火山の登山道という過酷な状況で、ハルちゃんにハプニングが襲います。

 怪我をした彼女を助けたのは、やはりあのお節介な彼でした。


 おんぶに、二人だけの合言葉。

 けれど、近すぎる関係ゆえの「怖さ」が、ハルちゃんの心を揺らします。

 彼女が自分の気持ちを誤魔化そうとした、切ない決意の物語です。


 高校一年生、初夏の宿泊研修。

 私たちは、足場の悪い火山の登山道を登っていた。


 火山岩がゴロゴロと転がってて、本当に歩きにくい道。

 あとどれくらいで頂上なんだろう……なんて、ため息をついた瞬間だった。


 思いっきり足を滑らせて、派手に転んじゃった。


 右膝と右の手のひらが、じりじりと熱い。

 ゴツゴツと尖った岩がジャージを突き破って、膝からは血が滲んでる。


 友達には「先に行って」って伝えて、一人でゆっくり登ろうとしたけれど。

 一歩踏み出すたびに激痛が走って、また転びそうになる。


 ……もう無理。

 痛いし、泣きたいし、なにより情けない。

 今すぐ全部放り出して、帰りたかった。


 そんな私のところに、下から二人の男子が上がってきた。

 りんと、野村くん。


「ハルちゃん!? どうしたの、その怪我」


 りんは私を見つけるなり駆け寄り、手際よく手当てを始めた。

 ジャージの裾を捲り上げて、靴と靴下を脱がせると、自分のペットボトルの水をドバドバ使って傷口を洗い流す。


「……っ」


 本当はすごく痛い。

 でも、男子に足を触られてる恥ずかしさと、りんの必死すぎる顔にドキドキしちゃって、私は声を出すのも忘れて我慢してた。


 りんはカバンからタオルを出すと、それを私の膝に優しく巻き付けた。


「……いいよ、タオル汚れちゃう」

「大丈夫だよ、こんなの」


 あいつは迷いなくそう言ってから、私の顔を覗き込んできた。


「どうする? あと少しだし、登っちゃおうか」

「え……? でも、きっと無理だよ」

「大丈夫。俺と野村で支えるから」


 その言葉を信じて数歩進んでみたけれど、やっぱり膝が笑っちゃって全然力が入らない。


「無理だよ、いい。迷惑かけたくないし、ゆっくり降りるから……」

「じゃあ、俺の背中に乗って!」


 ――え。

 戸惑ってる間に、私はりんの背中に背負われてた。


「……ねえ、私、重いでしょ? いいよ、もう降ろして」

「大丈夫、農家の息子は鍛えられてるから」


「……はい、減点」


 ウチは、わざと冷たく言い放ってやった。


「え、なんで?」


 きょとんとした声が返ってくる。


「そこは『そんなことないよ』って即答しなきゃダメなの。女の子がどれだけ体重のこと気にしてるか、あんたは一生わかんないんだろうね」


 あいつの耳元で、さらに小さく、でもはっきりと。


「……でも、ありがとう」


 いろんな感情が混ざり合って、堪えきれなくなった涙が溢れた。

 私は、バレないようにりんの広い背中に顔を押し当てた。


「……俺、キモい?」

「……うん。キモい」


 小さく、二人だけで囁き合った。

 ずっと前から変わらない、私たちだけの合言葉。



 ……けれど。

 そんな感動的なムード、あいつが長続きさせるわけなかった。


「野村、代わってくれー! もう無理だ、重い!」

「……りん?」


「自分からカッコつけて背負っておいて、五分も経たずにギブアップってどういうことだ!! ……だよ。ニコッ」


「……申し訳ありません」


 顔を引き攣らせて謝るりんを横目に、私は野村くんの背中へと移された。


 野村くんは私を気遣いながら、力強く一歩一歩、山道を登っていく。

 りんよりも一回り大きくて、安定感のある背中。

 

 ……なんだか、すごく安心する。


 本当は。

 本当は、ずっと近くにいたりんのことが、気になり始めていたんだと思う。


 でも、あいつとは近すぎた。

 好きだと認めてしまったら、今のこの心地いい関係が壊れてしまう。

 それが怖くて、気付かないフリをしていたのかもしれない。


 安心させてくれる野村くんの背中に揺られながら、私は「これは恋だ」って、自分に思い込ませようとしていた。

 その方が、きっと楽になれる気がしたから。


 ……そうして。

 あの日、私が彼に告白する運命の日へと、時間は進んでいく。

 最後までお読みいただきありがとうございます!


 怪我をしたハルちゃんを迷わず背負う楓くん、本当にかっこいい……と思いきや、五分でギブアップしてしまうのが、なんとも彼らしいというか、リアリティがありますね(笑)。

 

 「キモい」という合言葉を交わしながらも、その近すぎる距離に怯えて、野村くんへの気持ちに逃げようとしてしまうハルちゃん。

 自分の心を守るための嘘が、この後の展開にどう響いていくのか。


 次回、中編の後半。

 物語はついに、あの告白の舞台裏へと迫ります。

 ハルちゃんが「気付いてしまった」真実とは何だったのか。


 面白いと感じていただけましたら、ぜひ評価やブックマークで応援をよろしくお願いいたします!


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