第4話:物語が始まる前ですよ
十四キロの徒歩下校という苦行を終え、ようやく辿り着いた「聖域」。
そこで楓を待っていたのは、あまりにも早すぎる「事件」の幕開けでした。
学校生活で一番好きな時間は部活だ。
俺はこの不動高校で吹奏楽局に所属している。
俺は吹奏楽を中学の頃からやっている。
パーカッション、いわゆる打楽器担当だ。
ドラムが家にあったので、まあ流れで続けてる。
吹奏楽のいいところ。それは、女の子がいっぱいいること!
先輩、同級生、後輩と、2年生になった俺は、まさにいいとこ取りの立場だ!
俺の周りの世界にヒロイン候補がいないわけじゃない。ただ、その距離が遠すぎるだけ。
特に俺の目標といえば、この人だ。
優しくて可愛い、ほんわかしてる小野田先輩。
テナーサックス担当で、その柔らかな音色は、俺の心をいつも癒やしてくれていた。
一年生の時から憧れてました。
さて、今日はどこでサックスの練習してるかなー?
俺はパーカッションパートの部屋に行く前に、先輩がいつも個人練習に使っている音楽室を覗いた。
誰もいない。
近くでトランペットを磨いていたオネェ臭がする男の先輩に声をかける。
「先輩ちょっといいですか?」
上目遣いをしながら、
「どうしたの、りん?」
いや、お前とのイベントは何もいらんから!
と思いながらも
「小野田先輩は今日休みですか?」
「ああ、小野田ちゃん部活やめたよ。進学のために勉強に集中したいってさ」
がーん。
俺の脳裏で、ライトノベルの紹介文が再生される。
〜僕が唯一の目標を失うのは、大好きなサックス奏者の先輩が引退してしまう日。
それまでに、僕はこの恋(と僕の音)を届かせたい。〜
完。
これ、次回作に期待くださいって奴でしょ?
いやいや、展開が早過ぎん?
俺、昨日まで先輩のソロを背景に、どうやって話しかけるかシミュレーションしてたのに。
よし、気を取り直して同級生はどうか。
そこへ、騒がしい足音と共に井上さつきが飛び出してきた。
「大丈夫だって! 先輩がいなくなっても、ウチがいるじゃん!」
「さっちゃん……、慰めてくれるのか?」
「うん! だから明日からウチの個人練習、付き合ってよ。運搬係として!」
「……さっちゃんのパシリになるだけじゃないかい?」
「……ねぇ、いつまで情けない顔して嘆いてんの?」
聞き覚えのある、少し冷ややかな声。
振り返ると、お淑やかな雰囲気を台無しにするほど呆れ顔の春日葵が立っていた。
いや、仲はいいんだよ。
それこそ中学からのメンバーがほとんどだから。
だからこそ、恋愛的な「何も無いのよ」。
家族感が強すぎる。
よし、新入生だな。うん。これからだ。
そうだよね。高校2年生の春は、新入生を待つところから始まるんだ。
早く誰か見学来ないかなー。トランペットとか、可愛いパートに!
小野田先輩ー!
物語が始まる前になんで辞めちゃうかなー 泣
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
憧れの先輩が部活を辞めてしまうという、物語が始まる前からの大ピンチ(笑)
新入生に望みを託す楓ですが、さっちゃんやハルちゃんといった馴染みのメンバーとの「家族すぎる距離感」も、この物語の温かくて不器用な魅力のひとつです。
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