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第97話:収穫の極意

【前書き】


 インゲンとイチゴの選果を終えた一行は、夕食の材料を求めて再びハウスへ。

 ピーマン、ナス、トマト……。

 普段何気なく食べている野菜にも、農家ならではの「美味しく食べるための知恵」が詰まっていました。


 そして、一人で黙々とこなしていた作業が、大切な仲間と一緒ならこんなにも鮮やかに変わる。

 そんな楓の心の機微を感じていただければ幸いです。


 一通りの作業を終えて、さっちゃんとハルちゃんが選果をしていた納屋に戻る。

 二人はすでに作業を終えたようで、母さんと一緒にお茶を飲みながら談笑していた。



「さてと。母さんは父さんと出荷に行ってくるから、その間にアスパラとトマト、ナス、ピーマンを獲っておいてくれるかい?」


「わかったよー」



 俺が返事をして、摘果ばさみと収穫カゴを手に、三人で再びハウスへと向かった。



「それじゃ、収穫の仕方をざっと説明するね」


「「はーい」」



 二人の元気な返事が響く。



「まずはピーマンから行こうか。ピーマンはヘタのすぐ上をハサミで切るんだ」


「はーい」



 さっちゃんが、不慣れな手付きでハサミを構える。



「手で引っ張ると枝が折れちゃうから、必ずハサミを使ってね」


「大きさはどのくらいがいいの?」



 ハルちゃんが真剣な表情で聞いてくる。



「大きいのはもちろんだけど、小ぶりなやつでも構わないよ。ピーマンは小さいうちに収穫した方が、次から次へと実がなるから効率がいいんだ」


「大きく育てすぎちゃうとダメなの?」


「実に栄養を持っていかれすぎて、株全体の元気がなくなっちゃうんだよ。そうなると、あんまり実がつかなくなるんだ」


「「へぇー」」



 二人は感心したように頷き、さっそくパチンパチンと小気味よい音を立て始めた。



「次はナスね。ナスもピーマンと同じで、ヘタのすぐ上をカットして収穫だよ」


「どれがいいのかな?」



 ハルちゃんが、葉の影に隠れた紫色の実を慎重に選んでいる。



「色が濃い紫で、テカリがあるのがいいね。ヘタの下が少し白っぽくなっているのが一番おいしいよ。あと、完全に熟してテカリがなくなったのも獲っておいて。食べないけど、そのままにすると株の栄養を奪っちゃうから」


「食べないの? もったいない気がするけど……」



 さっちゃんが少し残念そうに言う。



「実が固くなって味が落ちるんだよ。そういうのを『ボケナス』って言うんだ」


「えっ、なんか悪口みたい」


「たぶん、それが語源だよ」


「面白いね!」


挿絵(By みてみん)


 ハルちゃんが笑いながら、ボケナスをカゴの隅に分けた。



「最後はトマトだ。トマトはね、ヘタの上を少し長めに切るんだよ」


「なんで? 短い方がスッキリするのに」



 不思議そうなさっちゃんに、俺は実演してみせる。



「トマトは皮が薄くて傷つきやすいから。ハサミの先が実に当たらないように一度長めに切って、それから改めてヘタのすぐ上で短く切り直すんだ」


「なるほど、二度手間だけど大事なんだね」



「ミニトマトも獲ろうか。うちは剪定も兼ねて、鈴なりになってたら枝ごと切っちゃうんだよ」


「大胆!」



 ハルちゃんがびっくりしている。



「一個ずつやってると、揺れて他の実が落ちちゃうからね」


「なるほどね」



 納得したハルちゃんの手元も、だんだん慣れてきたようだ。



「量とか気にせず、熟してたらどんどん獲ってね。放っておくと株が弱るし、虫がつく原因にもなるからさ」



 三人で夢中になりながら、笑い合いながら収穫をしていく。

 ふと、立ち上る土の匂いの中に、二人の華やいだ笑い声が混じる。


 これまで一人で、あるいは親父と黙々とこなしてきた、ただの「農作業」だ。

 義務でしかなかったはずの時間が、今はこんなにも温かくて、鮮やかに感じる。


 こんなに楽しいものだったっけ、うちのハウスは。



「やったー、いっぱい獲れた!」



 さっちゃんがカゴを抱えてピースサインを作る。



「カゴいっぱいだよー」



 ハルちゃんも満足げな笑顔を見せた。



「お疲れ様。最後にアスパラも見ていこうか」



 鎌を持って、露地のアスパラ畑へ移動する。



「もう時期も終わりだから、あんまり気にしなくていいんだけど。鎌の柄に印がついてるだろ? これで長さを測って、印を越えていれば収穫していいよ」


「わかりやすい!」



 さっちゃんがさっそく測り、サクッという音と共にアスパラを刈り取っていく。

 夕方の少し傾いた日差しが、刈り取られたばかりのアスパラの切り口をキラキラと照らしていた。


 一通りの収穫を終えて家に戻ると、ちょうど出荷から戻ってきた父さんと母さんの車が滑り込んできた。



「じゃあ、獲れたての野菜で晩御飯の準備をしようか」



 母さんの言葉に、二人は「はい!」と声を揃えた。


【後書き】


 最後までお読みいただき、ありがとうございます。


 普段食べている「ボケナス」の語源や、トマトの「二段切り」。

 実家のハウスで学んだ、ちょっとした「プロのこだわり」を詰め込んでみました。


 楓にとっても、当たり前だった実家の光景が、二人のヒロインのおかげで少しだけ輝いて見え始めたようです。


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