それぞれの春
厳しい冬が明け、街の木々が柔らかな芽吹きを見せ始めた春の頃。セイブライフの拠点は、喜びに満ちた産声に包まれました。ミリヤムが無事に、元気な女の子を出産したのです。
赤ん坊は、ダリーに驚くほどよく似た、はっきりとした目鼻立ちをしていました。
「おい、見てくれよ……。俺に似て、なんて可愛いんだ……」
普段の豪快さはどこへやら、ダリーは小さな赤ん坊を壊れ物を扱うように抱きかかえ、目尻を下げてデレデレの状態です。その様子を見て、ミリヤムは
「もう、ダリーったら」
と苦笑しながらも、幸せそうに微笑んでいました。
ミリヤムの復帰にはまだ時間がかかりますが、真琴やユーリ、そして街の人々の手助けを受けながら、宿屋の一角は温かな育児の場となりました。ダリーは娘のために、これまで以上に張り切って依頼をこなすようになりました。
レイルズと真琴は、6月に迫った結婚式の準備に追われていました。
「私の故郷ではね、『ジューン・ブライド』と言って、6月に結婚する花嫁は一生幸せになれるっていう言い伝えがあるんです。でも、私の故郷は6月は梅雨で雨が多いんですけどね。」
真琴がそう教えると、レイルズは少し意外そうな顔をしながらも、愛おしそうに彼女を見つめました。
「それはいい言い伝えだな。この世界では6月は最も天候が安定して過ごしやすい時期だ。雨続き(梅雨)でないことを、お前の神様に感謝しないといけないな」
二人は式の準備の合間に、青く澄み渡った空を見上げ、これから共に歩む未来に想いを馳せました。秘密を乗り越えた二人の絆は、今や誰にも引き裂けないほど強く、深いものになっていました。
パーティの活動も順調です。ユーリは
「ミリヤムの代わりは私が完璧にこなしてあげるわ!」
と、これまで以上に鼻息荒く魔法を連発しています。真琴は柊平から伝授されたオールラウンダーとしての実力を発揮し、パーティの安全性は飛躍的に高まりましたが、決してユーリの領分を侵すことはありません。お互いの得意分野を尊重し合う、最高の連携が完成していました。
一方、メテオ・ティアの柊平はというと、レイルズと真琴のあまりの熱愛ぶりに当てられたのか、真面目に「運命のパートナー」を探し始めたようです。
「いやあ、真琴さんみたいな素敵な人はもういないかな。でも、俺もそろそろ落ち着きたいっていうか……」
相変わらず女性にはモテる柊平ですが、理想が高いのか、あるいは真琴という存在を知ってしまったせいか、なかなか「この一人」が決まりません。
「結局、柊平も選びたい放題なのが災いしてるんだろ。レイさんをお堅いなんて笑えないぞ」
ロアンにそう混ぜっ返され、
「手厳しいなあ!」
と笑う柊平。彼もまた、この世界での自分の生き方を楽しんでいるようでした。
「さあ、今日も行くぞ。無理はせず、だが着実にだ」
レイルズの号令に、仲間たちが力強く応えます。
命を救い、命を育み、そして自分たちの命を何よりも大切にする。
かつて孤独な異邦人だった真琴は、今、愛する人々の中心で、確かな鼓動を刻む「心臓」として笑っています。
セイブライフの物語は、これからも穏やかに、そして情熱的に、この世界にスローライフの軌跡を描き続けていくことでしょう。




