お前らは違う
俺は家の前にいた。いつもの家だ。
「皆は·····無事なのか·····」
俺は急いで玄関を開けリビングのドアの前に立った。
焦り、悲しみ、そして孤独。母の帰りを待つ子供のように見えるだろう。
まるで希望にすがる、祈って待つことしかできない者のように·····
震える手でドアを開ける。
「あっ、兄ちゃんじゃん!おかえり!」
「翔じゃない!おかえり」
「翔ちゃんおかえり!」
「ん?おぉ、翔!おかえり」
咲ねえも裕太も母さんも電話ごしだが父さんもいる。
「真弓は·····どこだ?」
「まゆちゃんなら風呂だけど·····翔ちゃんだいじょ····あっ」
俺は急いで風呂場に行った。勢い良くドアを開けた。
「ん?誰·····って翔?!ちょ·····変態出てって!」
そこには真弓がいた。今にもぶん殴ってきそうなぐらい元気だ。
みんないる、無事だ。
「良かった·····良かったぁ」
声は震えて弱々しい。俺はいつの間にか真弓を抱きしめならが泣いていた。酷い顔をしていただろう。とにかく寂しかった。温もりが欲しかった。
「ちょっ、へんた····、翔?大丈夫?」
真弓は優しく抱きしめてくれた。全身から力が抜ける。
あたたかい。
「大丈夫、私もみんなもいる!1人じゃないよ」
そう声をかけてくれた。
「ありがとう」
真弓のやさしさに包まれ、俺は眠るように気を失った。
起きたら俺はベッドにいた。
「あっ、おはよう」
咲ねえが横にいた。
「大丈夫?なんかあったの?お姉ちゃん、力になるよ」
心配そうに聞いていれたが、危険なことに巻き込みたくない。またみんなの死体なんて見たくない。
だから·····
「大丈夫や、なんもない。それよりねえちゃんも疲れた顔してるで」
「ほんまに大丈夫?絶対?ほんまの絶対?」
「大丈夫や!」
やさしい笑みでそう言った。
「·····皆、下で待ってるから降りてきてな」
そう言って部屋を出た。
さあ、これからどうしよう。今わかっていることは皆無事だということ。前の襲撃は夜·····
「来るなら皆寝ぐらいか」
絶対死なせない。絶対守る。その為ならなんだってしてやる。あのときみたいに。
「おはよう、ただいま!心配かけた」
下には皆いてご飯を食べていた。
「翔!おかえり!大丈夫かぁ?急に泣き出したみたいやないか、裸の真弓に抱きついて」
「おはよう、兄ちゃん!びっくりしたでほんま。急に裸のまゆねえに抱きつくから」
そうだった。俺は真弓に抱きついたんだ。
裸の真弓に·····うんヤバい!終わったかもしれない!
「あのぉ〜真弓さん」
「なに?」
「この度は本当に申し訳ございませんでしたっ」
音よりも速く動き土下座した。産まれて初めて本気の土下座。色々考えていたから忘れてた。俺はなんてことをしてしまったんだ·····しばかれると思った。
でも真弓の返事は意外だった。
「まぁ、恥ずかしかったけどいいよ。それより大丈夫?酷い顔してたけど·····」
心配そうに真弓そう言ってくれた。だから俺は笑みで答える。
「ほんとごめん。俺は全然大丈夫だから」
「·····わかった。おかえり翔」
やさしい笑顔で真弓は言ってくれた。
「そういえば、翔が寝てる間に雪ちゃんに会ってきたよ」
母さんが言ったことは俺が本当にゲームに参加していることを実感させてくれた。体験版のときと同じ行動·····俺は知らないフリをする。
「ほんま!?雪どうやった?元気やった?」
「元気やったで。でも寂しそうやったで、翔に会えっくって」
「まあ、また明日会いに行くから楽しみにしとき」
明日雪に会いに行くためにも今日は絶対乗り切る。そう心に誓った。
「北海道ではどうなん?」
「北海道なぁ、クソ寒いし雪めっちゃ降るわ。大変やで」
また同じような会話をした。それでも楽しかった。幸せだ。
でも父さん、母さんと言った記憶、一緒に泣いた記憶は皆にはない。それが悲しかった。
「今日は皆で一緒に寝てへん?久しぶりやし!」
皆にそう提案した。全員いるほうが守りやすいからだ。
「おぉ、久しぶりやなぁ!皆で寝るん。リビングでええなぁ皆!」
「「「「おぉ!」」」」
流石父さん。ノリノリだ。皆笑って幸せそうにしている。だから絶対に誰も死なせない。死なせてたまるか。
俺は武器になりそうな物を探した。剣道だったから竹刀や木刀もいいと思ったがそれじゃあだめだ。相手がどんな武器を持っているか分からないし武器なら殺せるものがいい。包丁も良かったが倉庫にナタがあったのでそれにした。後は夜を待つだけだ。
「いやぁ、ほんま翔が気ぃ失ったときはどうなるか思ったけど良かったわ!元気そうで」
「心配かけたな。でももう元気やから」
「良かった。でも裸のまゆねえに抱きついたときはとうとう兄ちゃん我慢できんようなったかと思ったで〜」
「おい、裕太ぁ〜。俺聞いたでぇ〜。まだたまに咲ねえと風呂入ってるそうやないかぁ·····。まだまだおこちゃまやな!」
「うっさい!」
まあどうせ過保護な咲ねえが無理矢理入ったんだろ。そんな話をしながら布団を敷いた。
皆も集まって俺がいない間の出来事を話したりゲームをやったりした。皆笑って、俺も笑って·····楽しかった。ずっとこれが続けばいいがそうもいかない。皆を守って絶対に幸せになってやる。
皆が寝静まったころ。俺は玄関に置いたナタ2本を持って外で待機していた。外は静かで寒い。俺1人しかいないみたいだ。こういうのも嫌いじゃない。
そんなことを考えていると足音が聞こえた。しかも複数人。フードを被っていかにも怪しい。
「来たか」
俺は身構えた。足音がどんどん近づいてくる。
俺が隠れている塀のすぐそばまで来た時だ。
「足音が·····消えた?」
道を見たが誰もいない。もしかしてもう家に入ったのか!
急いで家の中を確認しようとしたとき、後に気配を感じた。それは殺気のようなもの。
「ヤバっ」
咄嗟にしゃがんだ。頭の上には包丁が玄関にぶっ刺さっていた。ふり返ってナタを振り下ろす。
しかし綺麗にかわされた。
「チッ あそこで死んだら楽だったのに!」
聞き覚えのある声がした。でも今考えている暇はない。敵は5人ほど·····きついな。
「ご丁寧に頭狙ってくれてどうも。避けやすかったわ」
相手の強さは未知数だし複数人だ。全員ナイフやらスタンガンやら物騒な物を持ってる。
「凄い!ほんまに待ち伏せしてた!流石翔。わかってるな。でも私たちのこと·····殺せる?」
そう言い1人が切りかかってきた。
攻撃を避ける。しかし他のやつらが追撃にくる。
「死んじゃうよ!翔」
「うっさいボケ」
俺は追撃に来た2人に思いっきりナタを振り下ろし殺した。奇妙なことに死体は灰になって消えていった。
「あ〜あ。可哀想に。殺しちゃったね!」
そう言ってそいつらはフードをとった。
そこには真弓、咲ねえ、裕太がいた。
「今殺したのはお母さんとお父さん。可哀想〜。この白状もの」
怒りのこもった声でそいつは言った。
そうかこいつらがコピー人間か。本当にいたのか。
「兄ちゃん·····なんでお母さんとお父さん殺したん?あんなに優しくしてたのに·····なんで?なんでそんことできるん?」
思わず笑ってしまった。
「ハハハハハっ!俺の家族は父さん、母さん、咲ねえ、真弓、裕太、雪や。それでお前らはただの真似事してる人形やろ?それになんで情がわくねん」
コピー人間とわかっているなら躊躇なんて要らない。こいつらは俺の家族でも何でもない。
そう言うとコピー人間は驚いていた。
「そっか。翔にとって家族はそんな軽い存在やったんや。もういいわ、殺すで」
3人全員できた。俺は距離を取りながら攻撃したがかわされる。コピー人間はかなり身体能力が高そうだ。
「あ〜、やっかいやなぁ。ならこれでどうや」
俺はナタを一本投げて懐にある銃を取り出した。
一気にコピー人間が引いたところに俺は逃げ遅れたコピー裕太を狙った
「兄ちゃんやめて助けっ」
「ガッ」
頭にナタを振り下ろした。
「この銃な〜エアガンや。本物なんて持ってるわけないやん」
自分の頭にBB弾を撃ちながらそう言った。
でも2度は使えない。ここからどうしようか。
「はぁ、もう2人かぁ。早いなぁ。ちょっと本気だそお姉ちゃん」
「そうやねまゆちゃん。一緒に翔·····殺そか」
多分一番厄介なのは咲ねえのコピー人間だ。まずまず咲ねえが空手で全国大会優勝してる。思いっきり殴ったら内臓程度破壊できるぐらいヤバい。
先に真弓のコピー人間がきた。包丁を乱暴に振り回している。かなり振りが速い。だから振り終わりを狙いナタを振り下ろした。殺したと思った。
でも俺は何故か遠くへ飛ばされていた。
「は?なんでゴボッオェ」
あぁ終わった。胃の中身が全部出るぐらい吐いた。多分鳩尾を殴られたら。痛すぎて立ち上がれない。このまま殺される。
「翔ちゃん!ちゃんとお姉ちゃんのこと見みとかないと!」
「結構粘ったと思うで?まぁもう終わりやけど。じゃあね翔。バイバイ」
コピー人間は包丁を振りかぶった。抵抗しようとしたが体が動かない。
「くそが·····次は絶対殺す」
そっと目を閉じ死を待った。
でも幾ら待っても俺は死ななかった。
そっと目を開ける。そこには咲ねえが咲ねえの顔を殴り飛ばしている光景が広がっていた。
「え?」
殴り飛ばされた咲ねえは灰になって消えていった。こいうことは·····
「翔ちゃんは絶対お姉ちゃんが守る」
本物の咲ねえがいた。
「な、ゴボッなんで咲ねえがいるんや?寝てたはずやろ?」
「翔の様子がおかしいからずっと起きててん!まさかこんなことになってるなんて·····しかも私が·····私がいる」
真弓もいた。
「え?真弓?なんで二人とも?」
幻覚かと思ったが痛みのおかげでこれが現実なんだとわかる。
「翔!大丈夫?ごめん·····遅くなった」
「まゆちゃん、翔のことしっかり見ててね」
そういって咲ねえがコピー真弓に構えた。が、コピー真弓は諦めたように言った。
「はぁ、私もお姉ちゃんも来ちゃったかぁ。まあ目的は達成できたしいっか!それじゃあバイバイ」
コピー人間は消えるよう逃げていった。
何とか誰も死なずにすんだ。俺は酷く安心した。