恐竜の王 ――レックス・キング――
赤茶色の鱗で覆われた肌に、短い手足、長い尻尾。
ヴェールさんが所持している図鑑で見たことがあります。あれは異世界の古代生物に間違いありません。
名は確か、“恐竜”という生物のはずです。
「これ以上……! これ以上! シグレ・ウキ先生をかじるのやめてください……!」
私はそう言うとすぐに魔術書を出現させます。戦闘態勢です。
ここはシグレ・ウキ先生の屋敷の門近くですから、何とか屋敷から遠ざけたいのですが……! どうすれば?
『おしゃれアイドル活動! ラブプリ! コインを入れてね!』
集中してこの場の打開策を考えたい中、無情にもヴェールさんを取り込んだゲーム機型の魔具の音が響き渡ります。これもどうにかしてヴェールさんを助けないといけません。
ですが、今は目の前で起きていることを解決するのが先です!
古代の生き物はガリガリッボリボリッとシグレ・ウキ先生をかみ砕いて私に向かってぺっと、
「灰魔術――【灰被り】!」
吐き出した何かを瞬時の判断で灰で守りました。
少し目を横に視線をそらせば、頭が転がっています。
透き通った緑色の瞳が綺麗なシグレ・ウキ先生の頭。しかし、変わった頭でした。歯跡で魔鉄で剥き出しになってて人じゃなくて機械人形のようで……、
「ハズレでショッキング!」
恐竜さんが飛んで私にキック!? しかも、八つ当たりっ!?
瞬時に灰で盾を作って守りますが――――重たい!?
「――うっ!」
重たい蹴りを受け止めきれず、吹き飛ばされて背後の岩にぶつかってしまいました。
ガハハハッと豪快に笑う恐竜さんと背中の激痛に耐える私。
「魔具を製造する主に会いたいんだけどなァ! 如何せん、機械人形ばっかよこしてくるからつまらなくてなァ!」
「それ……、ただ、あなたが嫌われていませんか……?」
「俺が嫌われている? 好きにさせるんだよ! 身体でェッ!」
恐竜さんが頭突いてきたので瞬時に身体を捻って避けると、岩を砕いた鈍い轟音が響きます。もし、これを避けられなかったら、私はひとたまりもなかったでしょう。人間やめてハンバーグです。
「避けたかァ……!」
人間やめたくないからなにがなんでも避けます。なにがなんでもです!
背中の痛みを我慢しながら態勢を立て直し、身体に魔力を張り巡らせます。屋敷から離れるように恐竜を誘導しながら走ります。
「邪魔した以上、絶対食い殺すからなァ!」
「――ひぃい……!」
恐竜さん、私に殺意しかないです!
死に物狂いで走ります。走って走って走ります。
それでも、私の脚以上の速さで走ってきます。
屋敷からの距離もだいぶ取りました。下手に走り続けると崖が近いです。
「でしたら!」
脚を止めて恐竜さんの方に! 次の一手に向けて、魔力を腕に、散布した灰に送っていると、何やら恐竜さんが歯を強く激しく嚙み始めました。
ガチンッガチンッと激しく響く歯の噛みしめが、気がつけば口に炎を作っていました。
何をしてくるか分かりません。だからこそ、ここで仕留めます。
周り散布された灰に魔力を送って……! ――発動!
「――――【灰に帰れ】ッツ!」
「――――【炎爆喰牙】」
周りの灰が恐竜さんを包み込んで組織から細胞そのものを壊すはずだったのに、勢いで負けました。私が思っている以上に鱗の細胞が硬すぎてびくともしませんでした。
恐竜さんに私の灰は――あまり効かない。
ガチンッ! っと歯と歯が私の右腕の肉を貫いた瞬間、爆発しました。
「うぁぁぁあああ!」
刺された痛みと燃やされた痛みで私の身体の感覚が拒絶するほど痛すぎる。我慢できません。魔力があるからある程度、やわらげましたが、次、同じ右腕を噛まれたらどうなるかおぞましいです……。
「腕を潰したぞ! ウェーイ!」
私は恐竜さんを睨みます。絶対、――絶対、生かしてはおけないと!
「次は脚だァ!」
ガチンッガチンッと歯を鳴らしながら迫ってくる恐竜さん。
「あまり魔力を使いたくないですけど……! 灰魔術――【灰の礫】!」
背中と右腕の痛みを我慢して、灰魔術を発動します。今、使えるありったけの魔力を使ってです!
恐竜さんの周りに石ほどの固まりを生成して、灰の塊をぶつけていきました。
「なんだァ? ゴミかァ?」
恐竜さんはぶつかってくる灰の塊を全身で壊しては、またぶつかる灰の塊を壊し、私を噛み殺そうと走ってきます。
「殺る気がないなら、もう殺してしまうぞ!」
ガチンッガチンッと鳴り響く恐竜さんが歯を噛みしめる音。
「灰魔術――【灰の礫】!」
「小さいものなんて相手にもならんっ!」
向かってくる灰の塊を身体全体で壊しては吹き飛ばしてしまいます。
「吾輩を倒すちっぽけな努力よ! そろそろ降参するといい!」
「――――絶対に降参しませんっ! ぶつかって!」
キリエさんの旋風刃に分散した刃を思い出します。それを真似てありったけの灰の塊を恐竜にぶつけます。
「無駄な努力もいい加減にしたらどうだ! その努力、価値にもならんわ!」
「私のその努力がっ! 勝ちに繋がりますっ! 絶対にっ! ――――【拡散】っ!」
壊れた灰の塊が、恐竜さんの身の周りを視界を灰で覆いつくします。
「あの女ァ! どこに行ったァ?」
本当はまだ一人前になるまで出したくなかった。
「魔具召喚魔術……【灰被りの白雪】」
本当は使いこなすまでは実戦で出したくなかった。
大切な大切なヴェールさんにもらった私だけの魔具。
これでこの世のあらゆるもの全てを、灰に帰します!




