旋風刃 ――ウィッシング・ハピネス――
旋風刃を想うと思い出す。――幼き日の耳に残る刀を打つ音と呪いの言葉を……。
私は日が明るい時に刀の訓練をしていた。だから、へとへとでぐったりだったが、何かを叩く音が近くの建物で聞こえた。
薪を叩き切る音かと言われたら違って、どこか甲高くて鈍く響き渡る音。
――気になる……!
「こんにちは」と目を輝かせて建物に入ると、――カンっと音がかき消された。
声出すのがおこがましいと思えるほどにリズムよく心地よかった。熱で熱された部屋は外よりも暑かった。それでも私は、響き続ける音を聞き入ってしまった。身体から流れ出る汗なんてどうでもいいと思えるほどに……。
「ありゃ、お客さんか? 可愛い子やなぁ……!」
さっきまで音を鳴らしていた人がこちらを振り向く。
「ワイはムラマサ・シンケツ。鍛冶師をしとる。よろしゅうな!」
作業していた手を止めて、汗水垂らしながら白髪の男は私に向かって自己紹介をしてきた。
私は人の名前を覚えるのが大の苦手……。だから、彼の名前を既に忘れてしまっている。
「どうしたん? 怖がらせちゃった? 村長さんに怒られてしまうなぁ~」
キョトンとどうしようかと考えている私に、ロングで白髪で糸目の男は優しく問いかける。
ん……? ロングでシラ《・》ガで糸目の男……?
この人の名前、分かった。――「シラガ?」
「シラガちゃうわっ! ムラマサやぁあっ!」
彼の印象として”シラガ”が強かったから、その名前で印象に残った。
◇
「なんや……キリエちゃん…………、来てしまった……んか……」
初めて狩りに出かけてムシャノ村に帰ってきた忘れ|ら《》れないあの日――私が知らない間に襲撃されていた。
お世話になった人たちがいる家に行っても、既に丸焦げで……。
私を14歳になるまで育ててくれたホムラ夫妻も……、
やさしい笑顔の村長も…………、
厳しく剣術と魔術を教えてくれた先生も………………、
既に炭と化していてこの世にいなかった。
奇跡的にシラガだけが燃え尽きて崩れかけている火事場でことが切れかけていた。
「何が……あった…………?」
――震える声が止まらない。私の第二の故郷が壊し尽くされてしまったから……。
「もっと笑顔を……見せぃ……。女の子なんだから……」
彼の自慢の白髪がところどころ墨色に、ところどころ鈍い血色に染まって見るに耐えられない。
「もう……、もう、喋らないでくれ……」
シラガは何者かによって両腕を切り落とされ、心臓を貫くように刀が綺麗にささってしまっていた。
「ワイの……誕生日プレゼントは見た……? ホントはなぁ……、帰ってきたら渡そうと思って……」
い、嫌だ……。ムシャノ村のみんなと笑って毎日すごす毎日こそが私が望みたいものだ……。
誰かが苦しんでいるのに貰う誕生日プレゼントなんて――――
「誕生日、おめでとう……キリエちゃん……! 末永く幸せに……」
――――――シラガが死んだ。私に呪いの言葉と魔具だけを贈って……。
旋風刃は彼が命を賭けて私に送った魔具。
だから、こんなところで離れ離れになるのは絶対に――――――絶対に嫌だ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
僕っ子少女についていくと、目の前には今でも倒壊しそうな一軒家が建っていた。
「着いたよ。ここが僕ん家」
「ここが……?」
「うん、そうだよ!」
――そんなわけがない。ここに住んだらここそのものがお墓になってしまう。
「入るよ~!」
ミシミシと床が軋む音が何もない廊下を反響している。
何食わぬ顔で進む彼女についていく私。
過去に依頼でぼろっちい建物に潜入したことがあったが、しかし、この建物はボロさのレベルが違う気がする。絶対に。
次に一歩踏み出したら、突然、床が抜け落ちてしまうのではと思ってしまうほどにこの建物から命の危険を感じる。
罠だったら作りで分かるから回避できるが、この建物自体が自然にできた罠だ。
つまり、――入らないほうが身のため……。
そう考えた時、早速、床が抜け落ちていった……。
「魔具のデザイン依頼で忙しくて、床を直している暇がないんだ。ごめんね~!」
――ひやり。
下手に床に力を入れたら死んでいるところだった。
「よし、着いたよ~! ここが僕たちのアトリエ!」
僕っ子少女が元気よく扉を開ける。すると、部屋が明るく灯された。
やはりというか、画材が散らばって整理されていなかった。
「じゃあ、修理はじめようか?」
にひりと満面の笑みで私に微笑む僕っ子少女。
汚い部屋でこれから旋風刃を修理……、本当に任せていいのだろうか……?




