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94 制止させたい生死の境目

 僕はスコヴィルに駆け寄った。スノーモービルで走った方が早かったにもかかわらず、気がついたら駆けだしていた。余計な時間をかけようやく側まで寄り、そして生死を確認する。僕はグローブを外し、首筋に手を当てて脈拍をみた。脈は・・・ある。しかし弱い。しかも体温がほとんど感じられない。見たところ、外傷は無く出血もしていない。けれどこの体温はマズイ。このままだと死ぬ。


 僕は箱庭水晶を取り出す。そしてスコヴィルを抱えて箱庭に転移。すぐにコートを脱がせてベッドに運んだ。


「どうしよう、どうしよう。」


 僕はおろおろしながら、ベッドの前をウロウロする。こういう時ってどうすればいいんだっけ? 箱庭ハウスのの室温は24度あり適温だ。このまま待っていれば回復するかな?


 僕はスコヴィルの状態を確認するため、服の中に手を入れてた。やましい気持ちなんてこれっぽっちも無いよ。とにかく体温を確認しないと。


「冷たい。」


 まるで死人のように冷え切っている。やっぱりアレ? アレをやるしか無いのか? 人を暖めるには人の体温が最適だ。つまりそれは・・・。


「人の命がかかっているのに、何を躊躇しているんだ僕は?」


 パンと自分の頬を両手で(はた)く。そして僕はスコヴィルの下着以外の服を脱がし、僕も下着だけになった。そもままベッドの中に入る。僕は彼女を抱きかかえるように暖める。冷たい、僕の体温がどんどん持って行かれるような感覚だ。本当に冷え切っていた。それでも彼女の心臓の音は、弱いながらも止まってはいない。僕はスコヴィルを暖め続けた。


 ・・・僕はハッっとした。目の前にはスコヴィルがいる。どうやら眠ってしまったようだ。彼女の様子を確認すると、落ち着いた寝息を立てている。体温は・・・それなりに戻っている。


 良かった、どうやら峠は越えた・・・ハズ。そろそろ大丈夫だろう。彼女が目を覚ます前に僕は服を着よう。僕はガサゴソとベッドから抜け出す。そして自分の服に手をかけようとした。


「アフタさん?」

 僕を誰かが呼び止めた。


 あああああぁぁぁぁぁ、ヤ・バ・イィィィ


 僕はさっとスコヴィルの方へ向き直った。そして何とか言葉を発した。

「ああ、えっと、大丈夫?」

 もうちょっと気の利いたことが言えないのかと思ったけれど、僕は僕なので仕方が無い。そして致命的なミスを悟った。僕は下着姿だ。あ~あ、変態のアフタ確定だな。


「ありがとうございます、助けていただいて。私、第五層で倒れていたんですよね?」

 どうやら彼女は状況を正しく把握しているらしい。


「それと・・その・・・暖めていただいたんですよね?」

 顔を赤らめながらスコヴィルは言った。顔に赤みが差すと言うことは、十分に体温が回復した証だ。


「いや・・あの・・ええっと・・・すみません。服を勝手に・・・。」

「必要があってしていただいたことですから。それに私はアフタさんだったら全然嫌じゃありません。」

「え?」

「ああ、そういうことでは無く、あああ、とにかくありがとうございます!」


 僕は自分が下着姿であったことを再び思い出し、急いで服を着た。


「食事はとれそうですか?」

「はい、大丈夫です。こんな状態なのにけっこうお腹はすいています。」


 僕は食料の中から消化に良さそうなものをチョイスする。オートミールなら病み上がりっぽい状況でも大丈夫だろう。僕は食事を運ぶと、毛布を背中から掛けた状態で食べ始めた。正面から接すると色々見えてしまうので、自分の位置取りに気を使う。僕は紳士なのだ。だれだ変態紳士とか思ったヤツは? 僕自身かぁぁぁ。


「アフタさん、ここはどこなんですか?」

「ディメンジョンハウスの中です。」

「え? そんな凄いものを・・・。」

「宝箱に入っていただけですよ。」


 単に運良く拾っただけの話だ。運がいいというと、彼女を拾ったのも幸運以外の何物でも無いだろう。


「聞かないんですか?」

「何をです?」

「なぜ私があそこで倒れていたのかをです。」

「スコヴィルさんが無事かどうかで頭がいっぱいで、そういう疑問とかまったく考えていませんでした。そういえばそうですよね。」


 何故か彼女はお腹を抱えて笑った。僕は何か変なことを言ったのだろうか?


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