93 しみじみ見つめる赤いシミ
何か凄いことになっている。10匹以上いた白狼が、残り3匹を残すのみとなった。全てアイボウがやったのだ。
いくら何でもパワーアップしすぎだろう。そこそこ強くなっていたとは思っていたけれど、ベースになっている白狼の力を圧倒するとは完全に予想外だ。
白狼と合成合体したアイボウの強さは異常と言えるレベルだった。敵の反応速度を超えて距離を詰め、首筋を引き千切り、それを繰り返して今に至る。状況を整理しているうちに、気がつくと残りの3匹も片付いていた。
「アイボウ、いくらなんでも強すぎだろう。」
僕がそうアイボウに話しかけると、僕の方を向いていつも通りに短い尻尾を千切れそうな勢いで振る。褒めてくれと言わんばかりだ。僕はアイボウの頭を撫でた。以前は表面が金属だったけれど、今は白い毛で覆われている。普通に犬を撫でているような感覚だ。強さを考えれば、普通の犬などでは絶対に無いんだけどね。
ふと第五層がいつもと違うことに気がついた。いつの間にか吹雪が止んでいる。相変わらず第五層は真っ白だったけれど、その白さが1メートル先で止まっていたときとは違い、フィールド全体が大きな広がりを見せている。
空は晴れ、白銀の世界が光り輝いているように見える。そんな白さの中に所々赤いシミが混じっているのが若干惜しい。しかしそのシミもドロップを残してすぐに消える。
散らばっている白狼のドロップを回収するため、イナゴンズに命令を出す。どうやら全部で13匹いたらしい。もしかしたらもっと数がいたのかも知れないけれど、既に敵影は消えている。白狼のドロップはいったいいくらで売れるのか、ちょっと楽しみだ。
緊張の糸も切れ、ちょっと休憩しようと思ったのもつかの間、スバードが次の敵を発見する。白豹の魔物だ。白狼よりも身体が二回り大きい。数は1。おそらく個体の能力は白狼より上だろう。けれど様子がおかしい。スバードから送られてくるデータを確認すると、歩くのもやっとという感じで既に満身創痍だ。
もしかして誰かが戦っているのだろうか? しかしその様子は無い。僕はアイボウに攻撃命令を出す。手負いの魔物は危険だ。とっとと対処しておこう。
あっという間に白豹の元へ到達するアイボウ。雪の上ですらウーナの直進速度を上回っている。移動はウーナから乗り換えるべきか? 僕がウーナの方を見ると、心なしか悲しそうな顔をしている・・・。いや、いつも通りか。
ちょっとよそ見をしてしまった。僕はアイボウの方に向き直ると既に勝負は付いていた。白豹は倒れて動かない。もともと弱っていたし、負ける要素など初めから無かった。
僕が白豹の元へたどり着いたとき、白豹は核に変わっていた。いつも通り核を回収する。なんだか順調に進んでいるぞ! いや、まてまて。大抵こういうときに何か起きるんだ。そしてどうしようも無い状態に追い込まれる。今回こそ、今回こそは油断しないぞ。僕は成長しているんだ!
スバードに周囲の警戒強化を指示する。さあ、何が来る? いつでも準備は出来ているぞ!
「逃げる準備がね。」
僕はそう呟いた。と、同時にスバードから新たに何かを発見したと通知がやってくる。
「キタァァァァ。」
さあ、全力で逃げるぜ。僕は右手でスノーモービルのアクセルを・・・人間? え、人間が倒れている? 通知音声だけでは分からないので、ノートPCを開いて映像を確認する。耐寒性の高そうなコートを着た人間が倒れていた。
「罠じゃ無いよね?」
僕はそう呟いたけれど、残念ながらそれに答えてくれる人は誰もいない。ジャンク達は命令は聞いてくれるけれど、相談相手が出来るようなシステムは積まれていない。
もし冒険者だとすると、さすがに見捨てるわけにはいかない。スバードをもっと近くへ偵察に行かせることにした。とりあえず顔を確認しよう。
スバードは冒険者らしきものに近づいていく。僕はその画像を確認する。顔が見えた、やっぱり人間・・・え?
「スコヴィルさん?」
倒れていたのは風呂好き魔術師のスコヴィルだった。




