34 芋虫はいいもんだ
魔法屋のおねえさんは剣から何かを外した。
「えっと、アイテムの鑑定2セットね。」
「え? 1つじゃないんですか? 」
「剣にくっついていたこのリング、これは剣の付属品じゃ無いわよ。」
よく見ると、剣の装飾部分にリングが2つくっついていたようだ。どうやらボス部屋の宝箱にはアイテムが複数入っていたらしい。
「このリングは・・・空間属性で珍しい力が付加されているわね。」
「装備すると何か効果が出るんですか?」
「これは装備アイテムじゃ無いわ。2つでワンセットの特殊なリングよ、ほらっ。」
おねえさんがリングに指を入れると、もう一つのリングから入れた指が飛び出した。リングの大きさは装飾用の指輪より若干大きいぐらい。大きな物は通すことが出来ないサイズだ。
「えっと、これは何に使うんですか?」
「・・・覗き? 」
えぇぇぇぇぇ。
「あの・・・ダンジョンとかで役に立ったりは? 」
「なかなか難しいわね。物を転送するには穴が小さいし、何か持って行きたければ魔法の袋で事足りるから。後は通信用ね。こんな穴でも声は届くし。」
ボッチなので通信用途には使いません。一人で通話ごっことか勘弁してください。僕なりに考えた用途は・・・例えば吹き矢を転送とか。それをやるには事前にリングを設置する必要があるので、あまりメリットがない気がする。ゴミアイテムか?
気を取り直して、剣の鑑定に移る。
「これは凄い剣よ。」
魔法屋のおねえさんは興奮しながら言った。やった、レアアイテムだ。
「どんな効果があるんですか?」
僕が聞くと、とても詳しく説明してくれた。
「魔力を込めた量に応じて剣の延長が出来るの。しかも延長部分は視覚認識が出来ない透明な刃になる上に重さは増加しない。ある程度魔力を持っている人が使えば10メートルぐらい延長可能よ。だから飛び道具のような使い方もできるわ。私なら15、いえ20メートルはいけるかも。」
某英霊の宝具みたいな武器だ。
「へえ、凄いなぁ。ちなみに僕の魔力だとどのぐらいになりますか? 」
「・・・ご」
「ご? 」
「5センチぐらいかしら。」
「ヒデェブゥ。」
僕はあまりのショックに発狂しつつ、鑑定代金2000シュネを支払って魔法屋を後にした。世界は僕に対して冷たすぎると思う。まあ、槍に変わる護身用の武器が欲しかったのでよしとしよう。贅沢は言ってられない。そしてその他のドロップを売却し、16日目は終了した。
日数 項目 金額 個数 合計 所持金
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16日目 昼飯 -1800蝸 1個 -1800蝸 2万3300蝸
16日目 大蜘蛛の核 8000蝸 1個 8000蝸 3万1300蝸
16日目 蜘蛛の糸 1000蝸 2個 2000蝸 3万3300蝸
16日目 大樹の核 40万0000蝸 1個 40万0000蝸 43万3300蝸
16日目 大樹の枝 3万5000蝸 2個 7万0000蝸 50万3300蝸
16日目 大樹の灰 8万0000蝸 1個 8万0000蝸 58万3300蝸
16日目 鑑定代金 -1000蝸 2個 -2000蝸 58万1300蝸
16日目 シェフお任せフルコース -1万2000蝸 1個 -1万2000蝸 56万9300蝸
いやあ、お金が有り余って困っちゃうな。
そして17日目が始まる。今日はいよいよ第三層だ。いつものダンジョン入り口から中に入り、露店ゾーンを通過していく。毎度この場所はスルーして先に進むのだけど、運の悪いことに今日は声をかけられてしまった。無精ひげを生やしたオヤジだ。
「よお、兄ちゃん、掘り出し物があるんだけどどうだい?格安で譲るよ。」
そのままスルーしたかったんだけど、進路を塞がれてしまった。
「あ、いえ、その、結構です。」
「おお、結構か。じゃあ買っていくんだな?ほらこれだ。」
なんだか買っていく流れになってるんだけど・・・。キャッチセールスってクーリングオフ出来るよね?
無精ひげオヤジは袋を出した。そこから何か取り出すかと思ったら違った。売り物はその袋だ。
「魔法の袋(中)だ。滅多に手に入らないレアものだぞ。30万でいい、安いだろ?」
安い? いやいや、価格の基準が全く分からないから、安いのか高いのかさっぱり分からない。しかも下手をすると、ただの袋を30万で売りつけられる可能性すらある。
「確認させてもらって良いですか? 」
「もちろん、好きなだけ見てくれ。」
僕は「魔法の袋(中)」を確認する。のぞき込むと「魔法の袋(小)」よりも広い空間が確認できた。どうやら本物っぽい。
「なんで他の人にもっと高く売らないんですか?」
「上級者は既に持ってるし、そうじゃない奴は金が無い。だけどお前さんは今、けっこう金を持っているだろう? 俺は金の臭いを嗅ぎ取るスキルを持ってるんだ。だから金を持っている奴には敏感だぜ。」
微妙で恐ろしいスキルだ。役には立っていそうだけど・・・、自分がスキルを得るならもっと別の物が欲しいな。
結局、少し迷ったけれど、僕は「魔法の袋(中)」を購入することにした。大丈夫、まだ半分近く残っている。まだまだ金持ちだ。素材を沢山回収すれば、きっと投資を回収することも出来るだろう。
そして僕は大虎の丸焼きを作りつつ、第二層のボス部屋までやってきた。この螺旋階段を降りれば第三層だ。ジャングルの次は何が来る? もはや普通に洞窟とかは来ないだろう。寒いのとか熱いのとか来そうだな。そうなったら一度街に引き返して装備を調えないといけなくなるな。
そんなことを考えていると、とうとう第三層の入り口までたどり着いた。そしてついに第三層に足を踏み入れる。そこは・・・草原?
第三層は見渡す限りの大草原だった。ファンタジー世界のフィールドマップと言ったらこれだろうというほどの、定番の草原だ。しかしここは第三層だ。前回は油断して死にそうになったけれど、僕は同じ失敗を何度も繰り返すほどバカでは無い。
そして僕は草原を歩く。たしか第三層には村があるはずだ。そこを見つけて拠点にしよう。探索の形をとりながら進む。もちろん火炎放射器はいつでも発射できるように構えている。そして魔物を発見する。
魔物は・・・芋虫だ。小型犬ぐらいの大きさの芋虫。そいつが草原の草をモグモグ・ウマウマ食べている。雑魚っぽい。初戦の相手としてはちょうど良いだろう。僕は火炎放射器を巨大芋虫に向けた。
さあぁぁぁ、丸焼きの時間だぁ。僕は炎を放った。




