卒業パーティーのご馳走美味しかったです
国王陛下が断言されると共に側妃ミネルバは俯き慟哭。
辺境組もめそめそしていますが、連行されて行きました。
断罪中ずっと発声練習とお尻をぶっ叩かれていた国語教師は、未成年者の淫行の疑いで四つん這いのまま牢屋行きです。
「やっと終わりましたねぇ」
デイジーがぽつりと言った。
「ああ。ご苦労だった」
「さて――」
エルル王女殿下は大きくため息をつくと扇子で口元を覆いながら呟いた。
「これでこの件も片付いたというものね。でもまだ後始末が残っていますけれど……」
「その前にご飯食べません?ずっと喋りっぱなしでお疲れじゃないですか」
デイジーはしれっとエルルにタンシチュー片手に果実水を差し出す。
「絶品ですよ」
「頂くわ。…わっ、美味しい」
エルルは苦笑しながらスプーンを手に取った。
「全く……」
バーンベルク侯爵が重々しく口を開いた。
「今日は色々ありすぎて疲れた。皆もゆっくり休むといい」
「お前も食べてろ」
「兄貴、一個は食べろって」
バーンベルク侯爵が弟に嫌いなブロッコリーを寄越しながら言っています。
「陛下、フォルテ国との国交の為とはいえ、あの国が厄介者扱いした公爵家の娘。やはり娶るべきではなかった」
「うむ…」
「最近やっと冠置きを卒業できたと思いましたが、そうではありませんでしたね。
エルルが連中から引き出した負の感情の泥だんごがあなたの食事です。食べなさい」
「ひぃっ」
王妃殿下にそう言われて国王陛下も椅子に腰掛けて、半泣きで食事(ハメ撮り同然の負のだんご)を始めた。
‥‥‥あれ、前に別の方の奴を味見したんですけど、凄かったんですよねー。記憶の濁流で。
繊細な方だとアレですね。当分悪夢を見ますかね?
そういえば、前は無理矢理国王の口にねじ込んでいましたね、王妃が。
さりげなくバーンベルク侯爵が王太子にも欠片をねじ込んでいますね。
冷や汗ダラダラですが、これ以上会場の空気を悪くするなと圧を掛けています。
会場に緊張感が少しだけ和らいだ空気が流れる。
「あれ? これ美味しいな」
「このデザートは何だ?」
「美味い!」
しばらくの間、会場内は賑やかな声で溢れていた――
卒業パーティーは終了し、月日が流れた。
国王と王太子のポンコツに関しては、『前よりはマシ』ではある。だが。
今回のような事が起こらないように、王家に権威を集中させないため元老院の設立をエルル王女殿下や元生徒会長らが進めている。
『検討する』と抜かす国王たちの尻を、王妃殿下が物理で蹴り飛ばしながら順調ではある。
…それを恍惚の表情で見る貴族が居たとかいないとか。
国境でベリオドールとの交渉中のグリンホルン共和国ヴィルヘルム王子は、見知った顔――馬鹿元王子とその取り巻きや宰相がぞろぞろと娼館に来て、たいそう驚いたそうだ。
連れて来たバーンベルク侯爵にヴィルヘルム王子はこう語る。
『なんか、俺の顔を見たら凄く怯えるんだが…。薬やらの在庫確認に行っているだけなんだけど。
あ、元老院作るの?うちのを参考にするか?
うん、義兄上…アーチバルド第二王子にその辺詰めて見てくれ、うちの王太子…近くに代わるだろうから』
グリンホルン共和国は王太子と正妃がポンコツだそうだ。
ヴィルヘルム第三王子の遠征も、王太子が側妃の子に十分だと押し付けられたらしい。
『うちの王太子じゃあ、あの長との交渉は無理。無駄に兵を死なす訳にもいかねえし』
本人もベリオドールの長との交渉で手が回らないので、ヴィルヘルム王子より大柄で男娼好きな部隊長に娼館の管理を任せるらしい。
尚、その部隊長の好みは宰相だそうだ。
エリオットは家族との休暇中、魔法を楽しむ事を優先した結果、魔力操作に随分と柔軟性が出たそうだ。
残り一年の学園生活を謳歌すべく、彼の勉強を生徒会書記官が休暇の合間に見ているのだという。
あの国語教師は教員免許をはく奪され、実刑となった。
薬学部の講師は失恋旅行だと外国に行ったそうだ。通訳と虫よけを兼ねて、外国語教師も同行したと聞く。
ルルー嬢は山奥の修道院で必死に礼儀作法などの教養に取り組んでいるそうだ。
家族愛に飢えていた節があり、エルル王女殿下が姉のように手を差し伸べたことや修道女たちが厳しくも筋の通った学びをくれるのでそれに応えているとのこと。
ルルー嬢の実父は罪人として処刑された。ルルー嬢の実母を売春宿に売り飛ばし病死させ、諸々の犯罪も明らかになり、王都郊外の荒野にて斬首刑となった。
尚、フロム侯爵一家は一年間馬鹿王子に粘着されたデイジーにお礼を申し出たものの、彼女は不在だった。
数日後――
デイジーはホクホクで告げた。
「楽しかったです!神の山脈!!」
真なる魔王が封印されている山脈を登って、満面の笑顔のデイジーの帰還を又聞きし、侯爵たちは引いていた。
神の山脈への登山は魔障の影響もあり長らく禁止させられていたが、側妃を神殿に連れて行くのに山に詳しいデイジーが抜擢された。
デイジーは岩肌を削るように伸びた樹齢百年を超える樫の幹に足を掛け、ひょいと飛び移った。
「ふむ……1年前と比べて地形がぐるんぐるん変わってますね。神が魔王を封じる際に融解した岩石が川を作るとは」
パシャパシャと写真を撮る。登山中でも仕事モードだ。
「凄いでしょう、標高三千メートル超えているのに酸素濃度が安定しているんですよねー」
斜面を転がる小石が、側妃ミネルバの引きずるドレス裾にぶつかった。
「ひっ! あぁぁぁ……助けてぇぇぇ……!」
恐怖で白目を剥きながらも、山岳警備隊が縄で縛った手首だけは頑なに地面を蹴っている。
「この辺りは空気が澄んでいるので、気をしっかり持たないと狂うんですよ。
王太子もド屑だった時に、バーンベルク先代侯爵陣頭指揮で強制登山して、死に掛けたそうですよー」
デイジーは淡々と説明した。
「深呼吸しないと精神汚染されますよ?王太子はそれでパニックになって全裸で遭難しました」
「無理ですわ! 絶対に! 貴女たちこそ悪魔よぉぉ!」
涙と鼻水で崩壊した美顔を晒すミネルバ。かつて王宮で絢爛たるドレスに身を包んだ女性とは思えない。
「いやー。雪山登山より安全なんですよ?ほら、足元気をつけてくださいねー」
「はぁはぁ……ここが神殿……!?」
側妃の眼前にそびえるのは磨かれた大理石の門だ。かつて神が魔を封じたと伝えられるこの建造物は、荘厳さを保ちつつも静謐な気配を漂わせていた。
が、その神殿は廃墟も同然だった。
「あー、神殿の真下に封印された魔王の頭があるんですよ。神殿を目印に総攻撃しましたからねぇ。
まあ、建物の結界自体はしっかりしたものです。雨風はしのげますよ」
封印しただけですので、もしかしたら魔王の脈動が聞こえますかねー、王太子は再封印前に聞いたそうですよー、と。
のほほんとしているデイジーにミネルバは気を失った。
ミネルバは神殿に放り込まれ、呆然としたままへたり込んでいた。
神殿の中に備蓄されていた毛布を取り出して、ミネルバに押し付ける。
「寒っ……」
「じゃあ、帰りますんで」
ここも慣れれば快適なのだ。何より星が綺麗である。
神殿内部に設置された燭台の炎が揺れる。淡い橙色が濡れたように輝く大理石の壁を照らした。室内は思ったよりも温かい。
「魔封印の地熱のおかげですね」
「まっ……魔王の熱気!?」
ミネルバは恐怖に駆られて叫んだ。
「いえいえ。封印の構造上、地表近くまで届く神と魔王の魔力が低温熱源として機能していて――」
デイジーは封印の構造について淡々と説明したが、ミネルバは聞く耳を持たなかった。彼女の脳裏に浮かぶのは、燃え盛る炎の中で暴れる悪魔の姿である。
「そんなことよりっ! 私をここから出してちょうだい!」
「無理ですね」
デイジーはにっこり笑って言い放つ。
「脱走は考えない方が良いです。悪意のある者は一人では帰れませんから、下手に逃げたら遭難して死にますよー」
「どういう意味……?」
ミネルバは恐る恐る尋ねたが、デイジーは自作の同人誌を手渡した。
「それに大体書いていますよ。じゃっ」
喚く声を聞きながら、デイジーは下山した。
登山口ではエルル王女殿下、その他大勢の関係者が待っていた。
「お疲れさまでした、デイジー様」
エルル王女殿下が笑顔で迎えてくれる。その背後では護衛騎士が警戒態勢を取っていた。
「そっちは何事もなく終わりましたか?」
「ええ。デイジー様の方こそ、大変でしたでしょう?」
エルル王女は心配そうに訊いた。
「いやぁ、楽しかったですよ!」
デイジーは屈託なく笑う。その笑顔にエルル王女殿下も苦笑した。
「デイジー様はお仕事に戻られるの?」
「そうですねー一旦編集部に戻りますけど。隣国の侯爵領に偵察に行けって言われているんですよねー、私」
「あら、貴女の加護を必要としているのでしょう」
「まあ、久しぶりの隣国ですし、観光がてら行ってきますかー」
こうして、卒業パーティーの翌日から始まった騒動は一段落を迎えたのであった――




