19 エピローグ
私は戻ってきた。
レイクシャーに。でもここはもう男爵領とは言われていない。
今はレイクシャー子爵領に変わった。
王子と結婚するという交換条件で、ここの土地は私が正式な領主となったのだ。
領主だった変な叔父さんは、雲隠れしてしまったそうだ。
借金が膨らみ、夜逃げしてしまった。
これから荒れ果てたこの領地の立て直しをしなければならない。
以前からいたメイドや執事は皆残ってくれていた。
それだけが救いだ。
私はまず、泉の精霊の下へ行って、これまでの不在を詫びることにした。
以前は泉へ行くのに四十分かかった道が今では二十分で着く。
「私も成長したなぁ」
《そうだね、ボクも成長したなぁ》
可愛くのけぞって胸を張るモンモ。
《儂は、生まれつきではないぞ、王妃に呪いを解いてもらえ。もう一回王都へ行クのじゃ》
ジイは未だに、口が悪いのは呪いのせいだと思い込みたいようだ。
泉は草がぼうぼうに育ち、木々が泉を塞ぎ、水は濁っていた。
誰も手入れをしていなかったようだ。
「泉の精霊様、ご無沙汰しました。レイクシャーの娘シャルロットです。ご挨拶に上がりました」
泉の水が泡立ち、中から年老いたしわくちゃの精霊がゆっくりと出てきた。
《まあ、まあ。ここの以前の領主の娘。生意気な子供。またきたの? 何も加護は差し上げません、もう絶対に。この地など滅べばいいのです》
何と言うことを言うのか、このおばあさんは。
でも、腹は立てない。大人になったのだから私は。
「精霊様。ここには誰も祈りに来なかったのですか?」
《ええ、だーれも来ませんよ。まったく。思いっきり呪いを振りまきましたとも。いい気味だわ》
モンモがふるふる震えて精霊を睨んでいる。
ジイも精霊を見てこう言った。
《意地悪ばあさん! お前のせいでロットは大変だったんだぞ!》
《んっまぁ! 意地悪ばあさんですって! よくも言ったわね、懲らしめてやる》
「まって、わたし、精霊様にお礼を言いに来たんです。精霊様。我が儘な私に、モンモやジイを与えて下さり、ありがとうございました。ここは私が治めることになったので、今日はご挨拶に来ただけなんです。ジイを許して」
《……では、加護はいらないのね? あげたくても、もう私にはそんな力は残っていない……ここが荒れてしまったのは、本当は……呪いではない。ここの領主が泉の水を粗末に扱ったせい……》
そうか、お父様はいつも周りを綺麗にしていた。
今度は私がその役目をしましょう。
屋敷へとって返し、使用人を呼び、皆で泉を掃除した。
一ヶ月、毎日手を掛けたのだ。木を切り、枝を払い下草を刈り。泉に沈んだ落ち葉やヘドロを掻き出した。
見違えるようになった。枝を払ったお陰で、お日様が程よく泉に降り注いでいる。
《よくやってくれました……ありがとう》
「いいえ、これで気持ちよく過ごせますね。精霊様」
《……》
エリー先生のお墓に花を捧げ、お父様やお母様のお墓にも手を合わせる。
泉の辺に建てられたお墓は、先祖代々の墓だった。
おばあさまもお爺さまのもある。
手を合わせながら、この先の領地をどうしていけばいいか考えた。
小さな領都を見て回る。
以前の半分しか領民はいなくなっている。
閑散とした街並み。宿から大柄な旅人が出てきた。
「えっ! 王子」
「っ! ロット……か?」
王子は駆け寄ってきて、私を抱き上げた。
ちょ、ちょっと、王子。どうしちゃったの?
「王子様、痛いので、離して下さい」
「あ、悪かった。ロット、私を許してくれ。そして、私と一緒にどこか遠くへ行こう」
なんで? 私たち公爵領を治めるんじゃなかったの? 何かあったのかしら。
「私に、縁談が持ち上がった。だが私は断ろうと思う」
「えーと、結婚は取り消しになった……そういうことですか?」
「ああ、私は君と一緒になりたいのだ」
「?????」
*****
まったく! とんちんかんな状況ですよねぇ。
ほ、ほほ。
王子様と鼻いぼ姫は、どうやらやっと分かり合えたようです。
二人はその後、子爵領を立て直し、北の部族へも行って挨拶もしてきました。
公爵領には、その内可愛い子ども達が走り回るようになりましたとさ。
おしまい♡




