1 プロローグ
昔々、貧乏な男爵がおりました。
男爵は貧しいけれど、おおらかで、領民たちからはたいそう慕われておりました。
ちょっとだけ、おおらかすぎるかもしれません。
この五十八歳の男爵には子供がいませんでした。
この領地には、小さな泉があり、ここには精霊が住まうという言い伝えがありました。
男爵は妻と二人で、しばしばこの泉に来て精霊に願いを込めて祈っておしました。
あるときとうとう精霊が姿を表わしました。
精霊はやや年老いており、ちょっとだけしなびていましたが、男爵夫妻は気になりません。
有り難い精霊に向かい何度もお辞儀し願い事をするのでした。
「どうか可愛い我が子を抱きたい。願いを叶えてくだされ」
《あなたの願いを叶えてあげましょう》
そうしてようやく生れたのが、可愛い一人の姫でした。
姫はすくすく育ち十歳のある日、泉に来て精霊と出会います。
精霊はすかさず現れて、声を掛けました。
《あなたは男爵の娘ですね》
「そうだけど、おばあさんは?」
《……精霊ですよ、この泉の》
「ふーん、精霊ってこんなもんなの? 母さまはとても綺麗な方だと仰ったのに。がっかり」
精霊の眉がピクリとしました。機嫌を悪くなされたようですよ。
姫様、言葉に気を付けないと……。
《……そう……あなたに加護を授けようと思いま――》
「籠? 荷物は自分で持たないから、籠なんていらない。じゃあね、おばあさん」
精霊は、にたりと笑っていますよ。
ちょっとだけ背筋が凍りますねぇ。怖いですねぇ。
《いえ、ぜひとも授けますよ、ほいっ!》
あらまあ、ちゃんと加護はあたえるんですね。
思ったよりいい精霊のようでした。
さて、姫がもらった加護は……あら、まあぁ。
やっぱりこの精霊、姫の”おばあさん”という言葉が腹に据えかねたんでしょうね。
本当の事を言われると、誰しもカチンときますもの。
それから姫は屋敷に戻りました。
姫が帰ると、いつものように執事が出迎えます。
執事は姫の顔を見て言葉を失ったようです。
震えながら、領主の部屋へ飛び込んでいきました。
「御領主様大変です。姫様が……姫様の顔がぁあああ!」
姫はお顔の真ん中にチョットした問題ができました、とさ。




