第8話:代償
街の上空は、王軍の妖精戦闘機が我が物顔に飛び回り、コクピットから手榴弾や焼夷瓶を投げ落としていた。
逃げる時間などほとんど無かった。そんな街の人に王国は…
『許せない。スフィア!』
「うん!」
逃げ惑う親子が見える。親子は荷物を持って走っているが、戦闘機が接近している…
「やめてー!」
◇◇◇
母親は娘の手を引き。小さい息子を背負った夫の後を走っていた。
近くにドォォォン
という大きな破裂音がして、近くの石造りの建物が崩れる。
「きゃーーー」
娘はしゃがみこんでしまった。
母親が助け起こそうとすると。
遠いエンジン音と風を切る音が同時に、耳に飛び込んでくる、母親が音の方を見ると真っ直ぐに戦闘機が向かってきていた。
しゃがみこんだ娘に、母親は庇うようにしがみつき目を閉じる。
近くの石畳に、砕けるような穿つような音が響き渡る。
◇◇◇
パイロットは、逃げ遅れた親子を見つけると機首をそちらに向けた。
照準器内に母親が娘を庇ってしゃがみ込んだのを見るとトリガーに指を掛ける。
ドドドッと機体を震わす音が響き、石畳を抉って行く。
王子からの命令は、皆殺しだった。
パイロットはなんでそんな命令がでるのか、彼にはわからない。だが命令は絶対だ。
自分の感情を殺し、一つの機械になることを自分に強いて、この場にいる。この妖精飛行機の心臓、妖精と同じように。
「可哀相だが…」そう思いつつ、再度トリガーを引こうとする。
だが、引くことは叶わなかった。
ドンという音と大きな衝撃を受けると、バキッという音が響いた。何が起こったのか、彼は理解できない。ガクンと機首の重みに傾いた機体は制御できず、回転する機体の中で最後に気づけたのは翼を失ったことだった。
◇◇◇
親子の危機を見た私は、直ぐに機首を向け照準器で捉えると。トリガーを引いていた。
低空で飛んでいた妖精戦闘機は、翼を失い左に逸れて、墜落してく…
夫が、母親を助け起こし、こっちに指を差してお辞儀する姿が見て取れた。
『良かったね…え?スフィア!』
私は、口元押さえてえずいていた。
『なに、どうしたのよ?乗り物?酔ちゃったの?』
今の搭乗員は脱出したのが見て取れなかった…
…私が…命を奪ったの?
『大丈夫?スフィア…』
「ご、ごめん、大丈夫よティテ」
あとでどんな罰でも受ける、だから、今は…この街を守る。
***
それから、どれくらい経っただろうか…
私は、トリガーが引けなくなっていた…
引けても当てられなくなっていた。
『何があったの…』
「ごめん、ごめんなさい」
弾を当てることはできないが、戦闘機動で敵を翻弄し、目をそらさせることには成功している、でも…
『スフィア…もう弾が無い』
私はコクンと頷いた。
私が離脱を考えたとき。王国軍も引き返すようだった。
『あちらも弾切れのようね』
あれだけ、無慈悲に撃ちまくったのだ、王国軍も同じタイミングで弾薬が無くなるのは頷けた。
視線を街に向ける。
市で賑わい、教会で祈る人々、広場で憩いを過ごす人たち…そんな姿を見せていた。穏やかだった思い出の街が、瓦礫になっていた…あちらこちらで火の手が見え、空は黒い煙で覆われていた…
生き残ったらしい、アルマリンの妖精戦闘機がこちらに飛んできた。
どの機体もボロボロだ。
『格闘戦は、被弾せずに戦うのは困難だから…しかもあの状況でよく五機も残ったわ…』
五機の中にお父様の機体はなかった。膝から力が抜けていくのが分かる。
『スフィア。ついて来いって』
「うん」
私は、五機の最後尾について行った。
まだ太陽すら昇りきらないのに、一日が終わったようだった。
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