第25話 私じゃなくて友達の話
読んで頂きありがとうございます!
「はぁ……寒……」
相沢くんの居る教室に居ずらくて、昼休みに屋上に来ていた。
いい加減に切り替えて次の出会いを求めた方がいいのは分かっているが、フラれたショックが1週間経った今でも抜けきらない。
屋上のフェンスにもたれかかってボーッとしていると扉が開く音がした。ふと視線を落とすとクラスメイトの安藤なつがいた。
屋上のベンチは1つしかないし、私がすぐ近くに居たからかこちらに来るのをためらっていた。
「ここ、座ったら?」
「え、あ、いいの?」
「別に、私のじゃないし」
安藤さん……か。一対一で話したことないし、ちょっと気まずい。でも、こんなに近くにいるのに何も話さないのはもっと気まずい……
「あー……これは友達の話なんだけどさ」
お弁当を食べようとしていな安藤さんはパッと顔を上げた。
「食べながらでいいから。ちょっと聞いて欲しい」
「うん……」
ダサくて惨めなだけの私の失恋を話す気になったのは、彼女がそこまで親しくないからなのか。沙那や雪村には話す気にならなかったのに……
「何回も一緒に遊びに行っててさ、望み薄とはいえ、チャンスあるかもって思ってて……でも、二人で遊びに行くことすら拒否られて」
じわりと涙が滲んできてしまう。泣くな。これは友達の話なんだから。
「ちゃんと告白する前に、諦めてくれって……フラれちゃったんだ……って」
「そ……うなんだ……」
「相手は優しい人でさ。これまで通り友達でいようって言ってくれたんだけど気持ちの整理がつかなくて、周りにも当たっちゃって」
チラリと安藤さんの方を見ると泣いていた。えっ?私より泣いてるんだけど……なんで?
「辛いよね……分かるよ。これまでと同じようになんて振る舞えないよね……」
安藤さんも同じような思いをしたことがあるのだろうか。自分の事のように辛そうな表情をしていた。
「もう、私より泣かないでよ……」
ーーーーー
北山さんも同じ思いをしたんだ。
昼休みに屋上でご飯を食べようと向かうと北山さんが先にいた。
どうしようかと迷っているとベンチを使っていいと言われたから、北山さんの近くにあるベンチに座った。
友達の話なんだけど、と語り出した北山さん自身の話は涙無しには聞いていられないほど辛かった。
彼女もまた零に、女の子に恋してしまったのだろう。先日、零が北山さんから避けられていると言っていたし間違いない。
たぶん、零にはフッた自覚がないんだ。だから零は理由も分からないけど避けられているなんて言ったんだ。
前提にあった好きだという気持ちに気づけなかったから。
北山さんは私と違って行動してしまった。だからこそこんなに傷ついてしまったのかもしれない。
「もう、私より泣かないでよ」
北山さんはハンカチを差し出してきた。お礼を言って受け取り涙を拭いた。
「安藤さん……あんたいい人だね。話聞いてくれてありがと。少し楽になったよ……あっ!友達の話だから!」
「ふふっ……そうだね、友達の話だね」
今更焦って誤魔化そうとする北山さんがおかしくて、つい笑ってしまった。
ーーーーー
「やっと美佳ちゃんの調子も戻ったし皆で遊びに行こうよ!」
零が元気よく提案した。余程美佳が元に戻ったのが嬉しいんだねー。
「セクハラしてこないならいいけど」
「それは無理だけど、美佳ちゃんは参加ね!沙那ちゃんも来るよね?」
「ちょっと!?」
「おーけー。男子達も誘うんでしょ?」
あたしが男子が来るかどうか聞くと零は苦虫を噛み潰したような表情になった。
「こ、今回は女子会ってことで……」
まぁ、たまには男子居なくても遊びに行ってもいっか。
「全く……あ、誘いたい人居るんだけどいい?」
お、珍しいー。美佳が他の人誘いたいなんて言い出すなんて、あたし以外友達居ないってことは無いんだろうけど学校でもあんまり他の人と話しているの見かけないしなー。
「安藤さーん。この後遊びに行くんだけど一緒に行かない?」
「えっ?私もいいの?」
「美佳ちゃん、なつちゃんと仲良かったんだ!もちろん一緒に行こ!」
安藤ちゃんか。零と仲良しなのは知ってたけど、美佳とも面識あったんだ。
「よし!じゃあ今日の放課後4人で行こー!」
「昨日は楽しかったねー!沙那ちゃんも楽しかった?」
「うーん、そだねー」
「次はどこ遊びに行こっか?昨日はゲーセン行ったし、次はカラオケ?」
「うーん、そだねー」
昨日もだけど、今日も美佳は安藤ちゃんの席の所で話している。そんなに仲良かったんだ〜。
別に友達が誰と仲良くしようがなんの問題も無いはずなのに。なんか……モヤモヤする。
恋人じゃあるまいし、交友関係に口出しなんて以ての外だし。
これじゃまるであたしが美佳のこと好きみたいじゃん。いや、ないない!全く!零じゃないんだから!私は男が好きだし!
「ねー、沙那ちゃん聞いてる?疲れてるの?マッサージしてあげようか?」
「うっさい」
隙あらばセクハラしようとしてくる零にデコピンを打つ。
「痛いっ!?」
こんなのと一緒とか……うん。気のせい、気のせい。
「何納得したような表情してるの?」
零が額を抑えながら聞いてくる。
「んー?なんでもないよー」
「そう……?それよりクリスマスも近いし冬休みも始まるね。楽しみだなぁ。クリスマス女子会……ミニスカサンタのコスプレ……初詣の振袖……」
零が何やら不気味なことを口走っている。女子会でミニスカサンタのコスプレは正気の沙汰じゃないって。
「絶対行きたくないんだけど〜……?」
「なんで!?ギャルならミニスカサンタコスしてよ!」
「嫌だよ!?助けて美……か……」
いつものように美佳に助けを求めようとして口を噤んだ。
「沙那ちゃん?どうしたの?」
「んー?なんでもない。それより絶対そんなコスプレしないから!男子がするなら見たいけど……」
「そっちのほうが嫌でしょ!?」
美佳が隣に居るのはあたしの中で当たり前になってたことを嫌でも思い知らされた。




