第26話 名前?知らないけど……
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昼休みに蒼真くんと相沢くん、あと来人くんを入れた四人で昼飯を食べていた。
女の子が誰も一緒に食べてくれなかったからボッチ飯をしていたのだが、男共ワラワラと寄ってきやがった。
「なんかこうやって四人で食べるのも久しぶりな気がするよね」
「ああ、そうだな」
いつものメンツみたいな感じで括るの辞めてくれます?こちとら女子高生やってんだよ!
「姐さん綺麗にピーマンだけ残しますね……」
「ん?あぁ。食べれないこともないんだけどね……」
いい歳して何やっているのかって?苦いものは苦いだろ!
冗談でピーマンを摘んで来人くんに向ける。
「食べてくれてもいいんだよ?」
「……!い、頂きます」
なんてね。と言って自分で食べるつもりが来人くんに食べられてしまった。来人くんは顔を赤らめながら咀嚼し、飲み込んでから頭を下げた。
「ご馳走様です。美味しかったです」
ピーマンオンリーで?それでいいのか来人くんよ。
「ずっ、ずるいよ、来人くん!零さんに、あ、あ、あーんして貰うなんて!!」
「雪村、俺も丁度ピーマンの栄養が足りていなかったんだ」
相沢くんは来人くんの肩を掴んで揺さぶっているし、蒼真くんは意味の分からんことを口走っている。こいつら大丈夫か?
小うるさい男達を放っておいて残った弁当を食べていると教室のドアが開いた。
「悠斗くんいますかー?先生が呼んでるよー」
他クラスの子だろうか、可愛らしい子が呼びかけている。それにしても悠斗なんてやつ居たっけ?
「うん、わかった」
相沢くんが返事をしていた。そういえば下の名前知らなかったな。いつも相沢くん呼びだし。
「へぇー。下の名前初めて聞いた」
「えっ?」
「……?」
相沢くんがこっちを向いて硬直している。どうしたんだ?先生も呼んでいるらしいし行った方がいいと思うのだが。
「雪村……一年近く一緒に居て知らなかったのか……?」
蒼真くんもとても驚いたような表情で聞いてくる。皆が呼んでいる呼び名しか知らないってよくあるだろ。
「うん。そして蒼真くんの名前も知らない」
「グハッ!?……なんだって……?」
今日の蒼真くんはノリがいいなー。立ったまま動かない相沢くんに、頭を抱える蒼真くん。残った来人くんが誇らしげに言った。
「残念だったな二人とも。その点俺は姐さんに名前を知ってもらっている!ですよね姐さん?」
「みんな来人くんって呼ぶしね。その代わり苗字知らないけど」
「そんな……いやでも二人よりかマシか……?」
何故だか瀕死の男達だが、俺に名前を覚えられていなくても割とどうでも良くないか?
「雪村が無双している……」
「私は幻覚でも見ているのか?男女逆に見えるんだが」
「雪村〇す……」
クラスの女子達から怨念の籠ったような声が聞こえる。なんか一人物騒な子が居なかったか!?
このままこいつらと居ると無駄にヘイトを買いそうなので沙那ちゃんの元に避難しよう。
「助けて沙那ちゃん、そして慰めて沙那ちゃん!具体的にはヨシヨシして沙那ちゃん!」
「えー……お願いだから勘弁してぇ……」
「そんなに嫌!?」
嫌がる沙那ちゃんの隣の席に腰掛けた。
「それにしても零が男子達の名前すら知らなかったとはねー。あんだけ一緒に居るのにさ」
「興味無いことは覚えにくいじゃん?その点クラスの女子達のフルネームは覚えているよ」
「雪村……あんたそこまで覚えたらあと三人くらい覚えなよ」
声がして振り返ると美佳ちゃんが後ろに立っていた。呆れたように溜息をついている。
「あ、美佳ちゃんどこ行ってたの?」
「安藤さんと食堂行ってた」
なつちゃんと美佳ちゃんは最近仲良いな!これで皆で遊びに行きやすくなったし四人で今度どっか行きたいな。
「あーあ。美佳があたしの事置き去りにするから変態に絡まれちゃったんだよー?」
「えっ?ご、ごめん」
沙那ちゃんが美佳ちゃんの事をからかっているの珍しいなー。あれ?今俺の事変態って言った?
「いやいや、じょーだん」
「だよね!冗談だよね!私は変態じゃないよね……?」
「そっちは本当のことだけど?」
真顔で言われてしまった。そんなぁ……
ーーーーー
「えー、これより停戦協定の元、作戦会議を行うよ」
「なんだそれ……」
零さんに名前を覚えてすら貰えていなかったという衝撃の事実を知った日の放課後、とある喫茶店で僕達三人は集まっていた。
「でもまさか二人とも名前を覚えられていなかったとはな。俺は覚えて貰っていたがな」
来人くんがこれみよがしに自慢してくる。あんまり変わらないでしょ!
「確かにこんだけ一緒に居る男の名前を覚えていないとは驚いたな」
そう。普通は話したことなくても学校の男子の名前くらいは知っているはず。これじゃあ、無欲通り越して興味無いレベルの域に達しているよ。
「照れ隠しとか……淑女とか、そういうんじゃないとしたら……?」
「どういうことだ?」
「零さんは本当に男に興味無いのかもしれないよ……!」
僕は気づいてしまった。まさか現代にそんな人が実在するなんて!ガツガツしていないところが零さんの魅力ではあるけど、それが自分を律しているが故ではなかったんだ!
「そりゃそうだろう」
「何を今更。姐さんが男ってだけでなびくように見えるか?」
「あ、あれ!?二人とも知ってたの!?」
零さんは簡単に落ちるような人じゃないと思っていたからアピールをしてきた。だけど心の何処かでは女子は男子に飢えているという固定観念を捨てきれていなかったんだ……
「そして、何を作戦会議するんだ?」
蒼真くんがコーヒーを飲みながら、どうでも良さそうに聞いてくる。
「零さんにもっと僕達の事を知ってもらうにはどうすればいいか皆で考えようと思って……」
「そんなの雪村から知りたいって思って貰えるように努力するしかないんじゃないか?」
「蒼真の言う通りだな。ただ伝えたって忘れられるぞ?」
二人は簡単に言うけれど、なんでそんなに余裕があるの?
「こんなに一緒に出掛けたり、お菓子を手作りして渡したりしてもダメなのに、どうしたらいいのか分からないよ……」
「何時になく弱気だな?まぁ、特別今までと何か変える必要はないんじゃないか?」
「そうかな……」
すっかり冷めてしまったコーヒーを一口飲む。蒼真くんも来人くんもブラックで飲んでいたからマネをしたが苦くて美味しくない。
「苦……」
今まで好かれたことしかなかった僕の、この恋は実を結ぶのだろうか。




