第13話 この世界に海でナンパしてくる男が存在したのか。もちろんお断りだが
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な、なんなんだアイツら。美少女二人からの日焼け止め塗られご褒美を拒否した上に、俺に塗ろうと3人で来やがった。
軽い地獄を抜け出した俺は浜辺をひとりで散歩していた。そういえば美佳ちゃんと沙那ちゃんはどこへ行ったのだろうか?まさか2人でしっぽりと……!?
「あれ?君めっちゃ可愛いね」
「うわ、ほんとだ。レベル高っか」
声のした方を見ると、海で遊びまくってますみたいな風貌の男2人組が立っていた。貞操観念逆転世界にも居るんだな。いいなぁ、きっと好きなだけ女の子と遊び放題なんだろうなぁ。くそ、羨ましい。そういえばこいつらは誰に声掛けたんだ?あれ?周りに誰も居ないよな?
「無視しないでよ。男から声掛けられてんだよ?」
「幻だと思われてんじゃねえの?」
って声掛けられてんの、俺かよ……当然だが男とイチャコラする趣味はないので遠慮しておこう。
「遠慮しときます」
俺の言葉に男達は驚いたような表情をしたが、すぐにニヤニヤとした表情に戻った。
「えー、珍しいね。断る女いるんだ」
「いいじゃんか、暇でしょ?」
こっちが断ってるんだから諦めろよ……どうしたものかと考えているとふいに後ろから声がした。
「すみません、彼女……雪村は俺たちと来てるんで」
振り返ると蒼真くんと相沢くん。それと来人くんが来てくれていた。わざわざ追ってきてくれたのか。
「なんだ男連れだったのか」
「邪魔したな」
3人が来るとナンパ男達はあっさりと去っていった。にしてもこの世界でナンパされるとは驚いたな。この世界風に言えば逆ナンというやつなのだろうか?
「雪村。もしさっきの人らと遊びたかったなら悪かった。俺らのことは気にしないで行ってきてもいいからな……」
「え?」
「あの人達大学生かな?背も高くて大人びててイケメンで……僕じゃ何一つ勝ててないよね……」
何を言い出すんだコイツらは。俺があのナンパ男たちと遊びたかったって?冗談きついって……
「何言ってんの?皆と海に遊びに来たのにナンパに着いていくわけないじゃん。それにさっきの奴らよりも皆と遊ぶ方がいいに決まってるじゃん」
さっきの奴らみたいなチャラ男は女の子と遊びまくってるに違いない。考えただけでも腹が立ってきた。それに比べてこいつらは草食系だし、そう考えるとこいつらは比較的良い奴らだ。
「そ、そうか?」
「零さん……!」
「姐さん……照れるっすね」
まぁ、ナンパしてきたのが綺麗なお姉さんならついて行ったかも知れないがな。
「そういえば来人くん、さらっと姐さん呼びしてない?」
「いやー、やっぱ名前で呼ぶのは照れるんで」
名前を呼ばれる度に顔を赤らめられるよりは、姐さんって呼ばれたほうがまだましか……?
「やっと見つけた!」
沙那ちゃんが少し離れたところから俺たちのことを見つけて駆け寄ってきた。
「向こうに海の家あったから、何か食べよーよ!」
ちょうど小腹も空いてきていたので沙那ちゃんの提案通り皆で海の家に行くことにした。
「あ、さっきの人たち」
海の家に行くとそこには、先程ナンパしてきた男二人が水着にエプロン姿でせっせと料理を出したり注文を取っていたりと真面目に働いていた。
「あのイケメンなお兄さん達となんかあったん?」
沙那ちゃんと美佳ちゃんはさっきいなかったから分からないのか。
「零さんがさっきあの人達からナンパされてたんだよ」
「なんで零ばっかり……!羨ましい!」
俺は男からナンパなんてされたくなかったよ。
「いらっしゃい。6名様で……さっきの……雪村ちゃんだっけ?」
「先程はどうも。ですが姐さんのことは諦めてください」
軽く挨拶しようとしたら来人くんが割って入ってきた。
「安心しろよ。彼氏持ちをナンパしようとはしないし、つーか誰が彼氏なんだ?お前か?」
どうやら元の世界御用達の寝取り属性の色黒チャラ男ではないらしい。だけど彼氏がいないと分かったらまた狙って来るかもな。俺も不本意だし皆も不本意だろうが誰か彼氏だと嘘ついてくれないだろうか。
「うぇっ!?いや、俺なんか姐さんと釣り合ってないんで」
来人くん……釣り合ってないって酷くないか?流石はこの世界の男子っていうことか。
「違うのかい?じゃあ小柄な君?」
「!!ち、違います!……今はまだ……」
相沢くん……いくら嫌だからってそんな勢いよく否定しなくても……
「あ、あれ……えっとー……じゃあそっちの彼かな?」
た、頼むぞ蒼真くん。中身が男な奴の彼氏役なんて嘘付きたくないのは分かるが、俺の身の安全の為に頼む!
「この中に彼氏はいないですね」
「え?じゃあ雪村ちゃん狙っちゃってもいいんじゃ」
蒼真くんにも見捨てられた。まぁ日頃男子達を心の中では雑に扱っていたから、その報いかもしれないな。
日頃の行動をちょっとだけ反省していると、何やら蒼真くんがナンパ男の耳元で何か言っているようだ。
「そうかそうか。頑張れよ高校生!」
和解したのだろうか?ナンパ男が蒼真くんの背中を軽く叩いた。一体なんて言ったんだ?まぁいいか後で蒼真くんには礼を言わないとな。
席に通されると沙那ちゃんがほっぺたを膨らませてた。可愛いがどうしたんだろう?
「沙那ちゃんどうしたの?可愛いよ?」
「うっさい。はぁーあ。なんで零ばっかりモテるの?」
「別にモテるわけじゃないでしょ」
あと男にモテてもなんも嬉しくねぇ。っとそうだ、さっきのこと蒼真くんにお礼言わなきゃな。
「蒼真くんさっきはありがと。正直助かったよ」
「……っ!い、いや大した事じゃない。気にするな」
「年上でガタイも良い相手に怯まず行けるんだから凄いと思うよ」
助けて貰ったしこのくらいのリップサービスはしないとな。
「あの店員は物分りのいい人だったからすぐに身を引いてくれただけだ」
「そういえばあの時なんて言ったの?」
蒼真くんは少し迷ったあと人差し指を口元に当てた。
「雪村には秘密かな」
……そういうのは美少女になってからやってくれ。
ーーーーー
海の家を出てしばらくして、零さん達女子3人が飲み物を買いに行ってくれている間に蒼真くんに小声で話しかけた。
「蒼真くんいいなぁー、零さんに褒められて」
「じゃあ相沢が助け船を出せばよかっただろ。俺が彼氏です~って」
蒼真くんめ……そんなこと冗談でも僕が言えないことを分かっていてからかってくるなんて。
「蒼真はあの時なんて言ったんだ?耳元でなんか言ってたろ?」
「あぁ……あの時か、俺たち全員雪村のこと狙ってるんで恋敵になりたいなら狙っても良いですよって言ったんだ」
「かっこいいなぁ蒼真」
来人くんが呑気に感心しているが、零さんからの好感度を稼ぐチャンスだったのに僕は何も出来なかった……!
「好感度……稼がなきゃ……そうだ!夕日の綺麗な時間に浜辺で2人きりで海とか見たら雰囲気出るしいいかも……!」
「相沢……日帰りだからもう少ししたら帰るぞ……?」
そうだった、日帰りだった……上を見ると夏の太陽は、まだまだ沈みませんよ!と言わんばかりにサンサンと輝いている。
「だめじゃん……」
「まぁまぁ相沢元気出せよ、チャンスはすぐ来るって」
来人くんが励ましてくれる。するとそのとき女子3人が戻ってきた。
「3人で何話してんの?」
零さん達から飲み物を受け取る。
「別に、世間話だよ。それより飲み物ありがとう」
「相沢くんなんか元気ない?暑さにやられた?そうだ、飲み物を手に持ってたから冷たいよ」
零さんが不意打ちで首筋に手を当ててきた。零さんの大胆さに驚きながらも冷んやりとした手が心地いい。
「大丈夫そう?」
零さんが僕の顔を覗き込むが僕は顔を背けた。
自分でも分かる、耳まで赤くなってしまっている。だって好きな人にこんなことされたら赤くならない方が難しいよ。
チラリと零さんの方を見るが零さんはただ心配そうに僕を見ているだけだった。男として意識すらされてないのかもしれない、だけどこうやって心配してくれるくらいには仲を深められたと、自分を励ました。
「雪村……そろそろ離してやってくれないか?相沢が余計に赤くなっている」
「あ、あれ?手熱かった?ごめんごめん」
零さんの手が離れる。確かにこれ以上触れられてたら本当に倒れてしまうかもしれないから仕方ないのだが、零さんの優しい手が離れてしまうのは名残惜しい。
気がつくと離れようとしていた零さんの手を取っていた。やばいなんて言おう、なんか言わなきゃ。
「冷たくて気持ちよかったから、大丈夫だよ!ありがとう零さん」
「雪村。あんた手じゃなくて飲み物本体を渡せばよかったでしょ」
北山さんがもっともな事を言う。確かにそうだ。じゃあなんで零さんはわざわざ触れてくれた?まさか僕に触れたかったとでも言うの……!?
「確かに……気づかなかった。美佳ちゃんは頭いいねー」
「だー!!くっつくな雪村ぁ!」
本当に思いつかなかっただけっぽい。期待したんだけどなぁ。
零さんと北山さんがじゃれ合ってるのを見ながら、買ってきて貰ったジュースを1口飲む。
ふと、蒼真くんと目が合った。譲らないよ。僕たちは友達だけど恋敵だ。




