表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君の心に添えるまで  作者: 聖
2/3

1章/友達

新品のローファー、新品のカバン、新品の制服

何もかも新しいものばかり。

持ち物を確認して、玄関を出ようとローファーを履くために座っていた私は立ち上がる。

「行ってきます」

そう呟いたけれど、返事はない。

両親が仕事に行く時間にはまだなっていないから家に誰かしらいるはず。

それなのに返事がないのは今に始まったことじゃない。

カバンを持ち直して玄関を出れば、すぐそこに人影を見つけた。

瑠璃(るり)、おはよ」

そう言って笑う男。

小学校6年生の頃に今の家へ引越し、必然的に学校も変わることになった私。

新しい学校でできた唯一の友達と言ってもいい存在だった。

(みなと)、おはよう」

睦月湊(むつき みなと)

それが彼の名前。

彼は知り合って一ヶ月もしないうちに私と一緒に学校へ行くと言って聞かなかった。

何度断っても折れないため、仕方がなく一緒に登校していたけれどそのうちそれが日常と化して今に至る。

「入学式めんどうだな」

「そう言って、湊はまた寝て過ごすんでしょ?」

バレたかーと、笑う彼に苦笑いする。

今日から高校生となる私たち。

当然、入学式というものがあって式に参加しなければならない。

湊は中学の入学式、卒業式を寝ながら過ごしていた常習犯だ。


「瑠璃、大丈夫?」

学校が見えてきた頃、ふと彼が私の顔を覗き込んで聞いてきた。

なんでそう聞くのか、その理由は私が一番知っている。

人混みに近づくだけで億劫なのもあるけれど、それ以前に……


【あそこにいる子達、新入生かな?】

【そうじゃない?見たことない顔だよ】


私は、人の心が読める力を持っているから。



頭に響く声を振り払うように数回、頭をブンブン横に振る。

「大丈夫」

そう言えば、湊は少し不満そうな顔をしたけれどゆるりと笑った。

「瑠璃がそう言うなら行こうか」

そう言って歩き出す彼の背中を私は追う。

高校では中学の知り合いも、小学生の頃の知り合いもいないみたいだから友達が出来るといいな…なんて、心の片隅で思っていたことは私だけの秘密。


入学式が終わり、体育館から各々の教室へ足を運ぶ生徒達。

そんな人の列の最後尾をのろのろと歩いていると声をかけられた。

「ねえ、入学式疲れたねー」

声のする方を向けば、そこにいたのは髪の長い女の子。

柔らかい笑顔が印象的だった。

「話聞いてるだけってどうも慣れないから疲れるね」

そんな話をしながら歩いていると、教室が見えてきた。

「あ、名前聞いてもいいかな。もし良かったらお友達にでも…!」

そう言って彼女は手を前に出してくる。

葉月瑠璃(はづきるり)です。よろしくね」

私も手を出せばギュッと握られた。

「瑠璃ちゃんね!私は神崎千春(かんざきちはる)って言います!」

心を読んでしまわないよう、最新の注意を払う。

私はちゃんと笑えていただろうか…。

「瑠璃ちゃん、教室入ろう?」

そう言った千春ちゃんは握手をしていた手を引っ張って私の行くべき教室へ向かって歩き出した。

「千春ちゃん、もしかして教室一緒?」

「一緒だよ!本当は入学式前に声かけようと思ってたんだけど、男の子と一緒にいたからさ」

湊のことだろうか。

一緒にいた男の子は湊しかいないか…。

教室に入ってみれば湊と目が合った。

彼の周りにはすでに何人かの男子が集まっている。

昔から人付き合いの上手い彼のことだからもう友達でもできたのだろう。

「瑠璃ー、今日一緒に帰れる?」

私たちの近くに来た湊が訪ねてくる。

「大丈夫」

そう返せば人懐こい笑顔を見せた。

「えっと、神崎さん…であってる?」

「あってますよ。えーっと……」

「睦月 湊って言います。よろしく」

そんな二人のやり取りを眺めていると、突然肩に手を置かれた。


【湊と一緒にいた子だ】


気が抜けていたのか、聞こえてきた男の人の声に自然と体がこわばる。

そんな私に気づいた湊が頭を撫でてきた。

「祐輔、瑠璃のこと驚かせないでやってよ」

「あっ、瑠璃ちゃんごめんね!びっくりさせちゃった?」

背後から顔を覗き込まれて私は声の主から少し距離をとる。

警戒するようにその人物を見れば、湊が笑い出した。

「怖がられてやんの」

「祐輔やらかしたね!」

千春ちゃんもそう言って笑う。

二人はひとしきり笑うと、私に男の人を紹介してくれた。

「こいつ、天宮祐輔(あまみやゆうすけ)って言うの。私の幼馴染だよ」

「さっき話してたんだけど祐輔面白いやつだったよ」

そんな湊の紹介に、祐輔君は嬉しそうにしている。

「葉月 瑠璃ちゃんよな。千春だけじゃなくて俺とも友達になって!」

そう言って差し出される手。

「よろしくお願いします」

祐輔君の手をそっと握る。

今日何回目の握手だろう。


友達という響きが少しくすぐったかった。



「瑠璃ー、帰るぞ」

HRが終わり、湊が近くにやってくる。

「ちょっと待って」

支度がまだ終わっていないことを伝えれば、彼は笑って私の隣の人の席に腰を下ろした。

文句を言わず待ってくれるところは昔から何も変わらない。

「睦月君と瑠璃は一緒に帰るの?」

カバンに持ち帰る物を入れていると千春ちゃんと祐輔君が近くに来た。

「うん」

「俺ら四年くらいずっと一緒に帰ってるもんなー」

湊の言葉にヒューと祐輔君が口笛を吹いた。

「俺らも今日から一緒に帰っていい?」

断る理由がないため、私たちはいいよと頷く。

四人で学校を出れば最寄りの駅まで歩きだした。

千春ちゃんたちの住む場所を聞けば、私たちの住む地域からそう遠くないことが分かった。

「いやぁ、それにしても三駅しか違わないとは思わなかったわ」

私と湊が降りるのは六駅目。

千春ちゃんたちは三駅目で使う電車も同じだった。

「瑠璃ちゃんたちがよかったら朝も一緒に行こうよ!」

電車を駅のホームで待っていると千春ちゃんがそう提案してきた。

「俺は別にいいよ。瑠璃は?」

「私もいいよ」

そう答えると千春ちゃんは飛んで喜ぶ。


【やった!これからもっと瑠璃ちゃんたちと仲良くなりたい!】


ふと聞こえてきた千春ちゃんの心の声に、私は目を丸くする。

私も…もっと仲良くなりたい。

そう言いたくなったけれど、言葉を飲み込んだ。

なんでと聞かれることが、化け物と言われることが怖かったから…。


電車に揺られ、降りる駅に着くのを待つ。

千春ちゃんと祐輔君とはついさっき別れたばかり。

隣で携帯をいじっていた湊がふと顔をあげる。

「二人とは仲良くなれそう?」

「仲良く……なれればいいな」

私はさっき千春ちゃんの声が聞こえたことを話した。

湊は私の力のことを知っている。

知っていてなお、一緒にいてくれる。

怖がらず、それでもって受け入れてくれた唯一の人物だった。


一緒に登校しようとする彼が鬱陶しくて、聞いてないことまで話してくることにイラついて。

まだ力の制御ができていなかった私は知らず知らずのうちに聞こえていた彼の心の声に反応してしまったのだっけ。

【笑ってくれないのかな】

聞こえてきたのはそんな彼の純粋な気持ち。

『笑いたくないのに笑うわけないじゃん!』

私がそんな彼に放ったのはひねくれた気持ち。

驚いた顔を見せた彼を見て、私はやってしまったと思った。

親も、教師も、誰も私の【人の心が読める力】を信じてくれなかった。

むしろ気味悪がり、心理状態がおかしいといわれた。

また、おかしいと言われる。

そう思った。

『じゃあ、僕が瑠璃が笑いたいと思うようなことするね!』

湊はそう言ってくれた。


「じゃあ、あとは瑠璃がどこまで二人に近づけるかだね」

ゆるりと笑う湊。

「大丈夫、瑠璃ならすぐに二人ともっと仲良くなれるよ」と言われよくわからなかったけれど、私はこくりと頷いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ