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落日のレガリア  作者: 五十鈴 りく
晩照の章
151/167

〈14〉援軍を待ちわびて

 ウヴァロで援軍を待つルナスたちであったが、どんなに急いだとしても往復を思えば最低三日は必要だ。ルナスの祖父である前宰相ゼフィランサスには事前に直接話をしてあったため、隠居地であるフォラステロ領よりもトリニタリオ領にあるゼフィランサスの本家からの援軍が最速かと思われた。


 必死で自分を落ち着けようとするルナスとコーラル。

 兄弟はどこか以前とは違う距離感で繋がったように思う。



 二日が過ぎたその晩のこと。

 ウヴァロの住人たちも警戒して明かりは絶やさずにいてくれる。入り口付近にも見張り番がいた。

 寝ずの番は交代にと決め、アルバを先に休ませたデュークが鍛錬のために剣を振るっている。軽く汗が滲み、体があたたまった頃、そばに気配を感じた。


「アルバ、休める時に休めって言っただろ」


 と、デュークは手を止めてその甲で汗を拭った。アルバはいつもの食えない微笑を浮かべている。


「休んでますよ、ちゃんと。隊長の方が休まれていないんじゃないですか?」

「そんなことない。何でそう思うんだ?」


 すると、アルバは苦笑した。


「目を負傷してから、やはり感覚の狂いを強く感じているでしょう? 他にも怪我だらけだったっていうのに、体を休めるよりも鍛錬ばかりして、ちょっと焦りすぎです」


 デュークは思わず言葉に詰まってしまった。そんな彼に、アルバは言う。


「ルナス様やリィアの手前、平然と振舞うしかなかったのもわからなくはないのですが、無理をしていてはここぞという時に力を発揮できません。一度それを言わなければとずっと思っていました」


 アルバの言い分は正しい。けれど、デュークは仮にアルバが同じ立場になったなら無理をすると予測できるだけに素直にうなずけなかった。


「上官に意見するなよな」


 顔をしかめると、アルバは呆れたような顔をした。事実、呆れたのだろう。


「何言ってるんですか、俺があなたの副官だから申し上げるんですよ」


 そうして、ふぅ、と嘆息するとアルバは昔を懐かしむようにして語るのだった。


「――実は俺、隊長の部下になった時、すごく嫌でした」

「おい」


 あまりに堂々と言うものだから、デュークは思わず突っ込んだ。けれど、アルバはクスクスと笑う。


「なので、俺はあなたを尊重せず自由に振舞いました。以前の上官は礼儀礼儀とうるさい方だったので、これですっかりやられてしまいましたけど、あなたは文句を言いつつもそこまで気にした様子でもなかった。案外、過ごしやすくてびっくりしてしまいました」

「ああ、そうか」


 としか言いようがない。

 アルバはそんなデュークにふわりと笑う。


「どうでもよかったんですよね、隊長は」

「ん?」

「大切なのはルナス様をお守りすること。その忠誠心があれば、礼儀だとかそういうことは重要じゃなかったんでしょう?」


 深く考えてのことではなかったけれど、言われてみればそうだったのかも知れない。


「そこまで忠節を捧げられるルナス様は、それに相応しいお方なのだろう、とその頃からルナス様のお人柄を深く観察するようになりましたから」


 それは初耳だった。

 ですから、とアルバは言う。


「これでも感謝しているんですよ、隊長には」

「俺に? お前がか?」


 思わずそう言ってしまったのは、普段が普段だからだ。けれど、アルバは笑っていた。


「フラフラしていた俺に生涯の主君を与えて下さいました。俺は今後もルナス様をお守りして生きて行くつもりです。隊長ももちろんそのつもりでしょう?」

「ああ」


 他の生き方など考えたこともない。

 アルバは満足げにうなずいた。


「ここは山場かも知れませんが、ルナス様の前途は多難です。こんなところでくじけてはいられないのですよ。俺たちは当分休むこともできずに走りっぱなしになるでしょう」


 まずはこの反乱を抑え、国を平定しなければならない。ルナスに課せられた役割はあまりに大きい。それを支えようとするのなら仕方のないことだ。


「隊長、だから今はちゃんと休んで下さい。大事な時にヘマをするのが隊長らしさですけど、今回はご遠慮下さい」

「っ……お前なぁ!」


 ひどい言い草だが怒ることもできないのは、何を考えているのかが読みづらいアルバが、いつになく素直に心を語るからだ。それはアルバの覚悟の表れでもあるのだろう。


「大丈夫、俺もいるんですから、ルナス様のことは守り抜きます。で、隊長のこともちゃんと支えて差し上げますよ。俺では頼りにならないなんて言わないで下さいね」


 頼りにならないどころか、デューク以上の実力の持ち主だ。デュークは深く息をつくとアルバに歩み寄ってその肩を叩いた。


「わかった。頼む」

「はい」


 夜空の下で、アルバは力強く答えた。

 ――挙兵の時は近い。


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