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落日のレガリア  作者: 五十鈴 りく
晩照の章
146/167

〈9〉最後の試練

 リィアが弾かれたように立ち上がり、入り口の方へと駆け出すと、カルソニーもそれに続いた。そうして外に出ると、空には一筋の煙が上がっていた。どこかから小火ぼやが出ている。あの方角は兵舎ではないだろうか。リィアが不安に駆られると、そこへ慌ててやって来た青年がいた。


「シーター大尉!」


 それはパールの護衛隊の青年で、カルソニーの部下である。


「失火か? 何があった?」


 厳しい面持ちで彼が訊ねると、青年は苦々しい顔をして言った。


「反乱です」

「え?」


 思わずリィアが声を漏らすも、青年は続けた。


「軍は内部分裂し、反旗を翻した者は口々にスペッサルティン様の名をたたえています。首謀者はスペッサルティン様かと。クリオロ公も加担している模様です」


 二大公爵の一人、クリオロ公もスペッサルティンに賛同したうちの一人だと言う。彼の存在がスペッサルティンに大それた決断をさせたのかも知れない。

 リィアはとっさに身を乗り出した。


「ルナス様は!? 王太子殿下はいずこに?」


 すると、青年はその勢いに気圧されながらも答える。


「お、王太子殿下の行方は知れません。コーランデル様も同様です。未だスペッサルティン様の手に落ちてはいないと思うのですが……」


 その言葉にリィアはホッと胸を撫で下ろす。きっと、異変をいち早く感じ取り、あの通路を使って外へと逃れたのではないだろうか。その後でスピネルやゼフィランサスを頼って匿われているとしたら、ルナスはそれから援軍を募り、スペッサルティンを討つべく立ち上がるだろう。

 まだ大丈夫。ルナスが無事ならば、この国はまだ――。


 カルソニーは周囲を素早く確認すると、部下の青年に指示を出す。


「皆をこちらに集めてくれ。我らの役割はパール様をお守りすること。スペッサルティンが何を仕掛けてこようとも、パール様を引き渡してはならない」

「はい!」


 青年も力強くうなずいた。そうしてカルソニーはリィアにも目を向ける。


「リィアさん、あなたも姫のそばにいて下さい。王太子殿下の行方が知れぬ今、あなたも迂闊に出歩くべきではありません」

「それは……」

「今を耐え抜けば道は開けます。このように恐れ多いことを企んだスペッサルティンの思うようになど、ことが運ぶはずがない。その野望が潰えるその時まで、ここに身を潜めていた方がよいかと」


 ルナスがここにいないのならば、リィアは何をするべきであるのか。この大事な時に自分ができることは何か。

 リィアが至った答えは、リィアもパールを守るべきだということ。それから、共にいるティルレットのことも。それが軍人としての自分の役割だ。


「わたしも共に戦い、パール様たちをお守り致します」


 自分を見上げるリィアの意志を秘めた瞳に、カルソニーは戸惑いつつもうなずいた。反論して飛び出されるよりも、共にあるならばまだマシだと思ったのかも知れない。

 そんなやり取りを無言で待っていた自分の部下の青年に、カルソニーは更に続けた。


「王太子殿下の護衛隊の者たちはどうしている? デュクセル殿やアルバトル殿も王太子殿下と共にあるのならば不在だろう。可能な限りこちらへ誘導してくれ。ここを固める戦力は多い方がいい」

「はい!」


 そうして青年は数人の隊員と連れ立って喧騒の中を駆け抜けて行った。

 カルソニーはリィアの肩を押し込むようにして中へ戻した。室内で不安げにしているパールとティルレット、それから彼女の侍女が二人。この場で戦力になるのはカルソニーとリィアだけだ。二人は気を引き締めて護衛隊の隊員たちが到着するのを待った。


 心臓が早鐘を打つ。リィアは胸を押えて心を静めようと努めた。

 ルナスは無事だと信じている。デュークにアルバ、レイルが付いているのだから大丈夫だ。

 けれど、ルナスのことだからきっとリィアやパールたちの身を案じ、心を痛めている。

 だから、心を強く持って再会の時を待とう。再び会うその時に、笑顔でがんばったと言えるように。


 これはきっと、王となるルナスの御世を遮る最後の試練。ここさえ乗り切れば、ルナスの臨む未来が、理想の形が実現する。

 閉じたリィアのまぶたの奥には、冠を戴くルナスの姿があるのだから。


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